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第16話 協定


2025年9月31日 エレナ宅 午後10時00分



 エレナは、ウォッシュに託されたノートをパラパラと捲っていた。椅子に腰かけ、机の上に置いたコーヒーを飲みながら、その字を追う。


 ウォッシュの字は、かなり汚い部類である。しかも、文字の間隔が変に空いたり、逆に狭かったりして、余計に読みにくい。殴り書きされた汚いアルファベットを、一生懸命に解読していた。


 ノートの内容はおおかた、ウルボーグに殺害されてきた人々のリストアップと、それから推測されるウルボーグの人物像であった。到底一人では調べきれないと思われるほどの、膨大な情報が記されていた。


 被害者の情報はとても細かく、どのような前科を犯していたのか、どのように殺害されたのかなどが書かれている。最後には、ウォッシュがウルボーグの変身者に関する仮説を立てていた。以下は、その内容である。




※※



仮説 ウルボーグの正体は、教員、アーバイン・アースである。



 ウルボーグは、リストにある通り、多くの市民を殺害している。その全ては、前科を持つ者である。俺は、彼らの中に四人、殺害され方が異なる者がいると睨んでいる。その四人とは、ジャック・ジャン、アルベルト・フィッシュ、アーソン・ロール、トッシュ・マーキンである。


 彼らは、ウルボーグ事件の最初の被害者である。そして皆、頭を砕かれ、内臓を引きずり出され、背骨を折られ、原形を留めぬほどの無残な姿で発見されている。


 この4人以降に殺害された者は、一撃、もしくは二撃で殺害されている。一撃の場合は、頭や心臓などを破壊されていた。二撃で殺害された者は、一発目に足や腹などの部分に、動きを封じられるに十分な攻撃を受け、二発目に即死の攻撃を受けている。要するにウルボーグにしてみれば、我々ただの人間を殺害することなど、二発で足りるということである。当然、体をボコボコにするほどの攻撃は必要ない。

 ウルボーグは、真っ先に彼らを殺害したその犯行の速さ、そして死後も殴り続けたと考えられる攻撃性から、よほどの恨みを持っていたといえる。


 そこで俺は、4人の前科に注目した。彼らは、それぞれいわゆる不良であり、学校や近所でも名が知れていた。前科もいくらかあるが、その中でも悲痛であり、世間を震撼させたのは、「2022年 ネオンシティ夫人集団レイプ事件」である。


 彼らはある夫婦を襲い、その夫に重傷を負わせ、妻を犯し殺害した。このとき生き延びた夫アーバイン・アースが、おそらくウルボーグの正体である。



 よって、ウルボーグをアーバイン・アースであると仮定する。


2025年8月31日記入


※※



 エレナは驚愕のあまり、目をカッと見開いていた。ウルボーグを追い詰めたあの夜に聞いた、変身を解いた彼の話を思い出していたのだ。妻を殺害され、薬品ウルコイドを開発したという話である。


 エレナの友ウォッシュは、いち早くウルボーグの正体にたどり着いていたのだ。







同日同刻 ボウルスタジアム観客席



 本日は試合が行われていないので、スタジアムは閑散としている。その観客席の一つに、華奢な男が腰かけていた。ソラシド・ウォッシュナーである。ウォッシュは今、ウルボーグと約束したカメラを持ち、ここに訪れていた。


 ウォッシュの後ろから、足音が近付いてきた。


 ザッザッザッザッ


 やがてその足音は、ウォッシュの真後ろで止まった。手を伸ばせば、今にもウォッシュの頭を掴むことができる。それほど近くにヤツはいた。

「やあウルボーグ。いや、アーバインと呼ぶべきかな?」


 ウォッシュは後ろに立つ者に向かって口を開いた。背中に立たれているので、当然その姿を確認することはできない。しかし直感のような何かが、ウルボーグの到来を知らせたのであった。

「そうだウォッシュナー。なぜウルボーグの正体が俺であると分かったんだ?」


 ウォッシュは背を向けたまま、再び口を開いた。

「君が殺害した人々をリストアップして、それを参考に推理したから……って格好つけて言いたいけど、実際は直感みたいなのも働いたよ。


何だろうね? たぶん俺たちは同類なのさ。オオカミが遠くにいる同族の居場所を嗅ぎ分けるように、君の正体が分かった。


 もし俺に、怪人に変身する薬があったなら、俺はウルボーグとして処刑を行っていただろう。もし君に、薬がなく、警察として生きていたら、君は血眼でウルボーグの正体を追っていただろう。


 俺たちは、たまたま立場が違っただけの、同族なのさ。俺たちは同族だ、アーバイン」



「同族か……妙な表現だな。だがしっくりくる気もする」

「だろ?」


 ウォッシュは座席から立ち上がった。そして、背の高いアーバインと向かい合った。アーバインの顔を見上げ、カメラを手渡そうとした。


「こいつを渡せば、君との取引は完了だ。

 だが俺にはまだ疑問がある。エメラルドガールとか言う緑色の怪人が現れたニュースは知っているか?」

「ああ」

「彼女は何者なんだ? アーバイン、君と関係があるのか? 正体は何なんだ? せっかくウルボーグの正体を暴いたのに、新たな怪人が現れて、頭の中がぐちゃぐちゃなんだよね」

「俺と関係があることは確かだ。だが、正体までは分からない」


 ウォッシュにはいくらか疑問が浮かんだ。なぜ関係があると言い切れるのか。アーバインはエメラルドガールの情報をどこまで握っているのか。どのような要素が関係していると考えているのか。などといったことである。


 とにかく、ここは質問攻めにするのではなく、一番肝心な質問を投げることにした。

「なるほどね。君はエメラルドガールの正体を知りたいと考えているのか?」

「もちろんだ」

「正体を見つけた後は、どうする予定? 倒すの? それとも彼女と協力する?」

「よほどのことがない限り、処刑する予定だ。ヤツは罪のない人々を殺害した。俺の処刑対象だ」


 ウォッシュはこの回答を聞き、ニヤリとした。

「だったらさ、協定を組もうよ。エメラルドガールを倒すことを目的とする協定だ」

「分かった。その提案をのもう」

「よし。ゆっくり話がしたいね。街の南にサウスというバーがある。そこへ向かおう」



第17話 運命へつづく

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