第14話 激動
――導入――
犯罪者を追う者の思考は次第に犯罪者に近付き、やがて同一のものとなる。
2025年9月30日 ペンドルトン公園付近 午後10時2分
小さな公園の前の細い夜道、男が三人、歩いていた。
「おい、あれなんだ?」
3人のうちのひとり、茶髪の青年が前を指さした。そこにいたのは、背の高い、全身緑色の女。頭からはふたつの触角が生え、青い目を夜の闇の中光らせている。女怪人は、話し始めた。
「あらあ、これは水泳選手のマイルズ・カーティー選手じゃないですか」
茶髪は、マイルズの肩を叩いた。
「お前、知り合いか?」
「まさか」
マイルズは肩をすくめた。そのとき、怪人はすでにマイルズの前まで来ていた。
「くらえ」
怪人はそう言うと、すばやく手を突き出した。
ズボ!
マイルズの胸に緑色の手が刺さり、ずぶずぶと埋まっていく。
「が……ゴボ……! ボ……!」
マイルズは、口から血を垂れ流した。やがて、その鋭い指先は心臓に到達し、これを破壊した。怪人は勢いよく、その手を引き抜いた。マイルズのたくましい胸から、血が噴き出した。
マイルズは、背中から地に倒れた。茶髪の友人は、彼の顔を見て、もはや生きていないことを悟った。
「マイルズ! マイルズ!」
怪人は大笑いした。
「アハハハハハ! すごい! 圧倒的! 文句なしのチート! 私は人の命を握る能力を得た!」
茶髪は、怪人を睨んだ。
「お前は! 人間じゃない! ウルボーグか!」
怪人は、茶髪の頭をがっしりと掴み、自分の顔の前まで強引に引き寄せた。
「違う! よく見て! ウルボーグにはツノがあるでしょ! あたしにはない! ほら!」
「ぎゃああ!」
茶髪は、怪人の顔を間近で見て、悲鳴をあげた。彼女の、大きな青色の複眼を見つめていると、悲鳴を上げずにはいられなかったのだ。怪人は、茶髪の頭を両端から掴んだ。
「うるさい! 頭を潰してやる」
人間を超越した圧倒的なパワーで、怪人は茶髪の頭を左右から圧縮した。頭蓋骨がきしむ音が、ぎちぎちとなった。茶髪は叫んだ。
「ごめんなさい! 許して!」
「ダメ! もっと反省しろ!」
「いたいいたいいだだだ!」
グシャ!
怪人は、ちょうど紙くずでも丸めるかのように、茶髪の頭を粉々にすり潰した。四方八方に、頭から血が飛び出した。
最後に一人残った長髪の男は、腰が抜けて地に手をついていた。それでも、なんとか逃げようと、少しずつ後退し、怪人との距離をとろうとしていた。
「何者なんだ!」
「そうねえ、あえて名乗るなら……」
怪人はあごに手を添えて、少し考えた。
「エメラルドガール。あたしの名は、エメラルドガール!」
エメラルドガールは、勢いよく、長髪に向かって走った。
「く、くるなあ!」
長髪が叫んだときには、エメラルドガールはすでに、そのたくましい緑色の足を蹴り上げていた。長髪の体が真っ二つに折れ、数メートル頭上にふっ飛んだ。やがてそれは重力に従って落下した。
ボト。
地面に着地したとき、彼はすでに肉塊であった。三つの死体を前に、女怪人は大きな笑い声をあげた。
「アハハハハハ! アハハハハハハ!」
※※
2025年9月31日 ペンドルトン公園付近 午前9時33分
エメラルドガールが現れた次の日、警察署は大忙しであった。ただでさえ、ウルボーグ事件で街が混乱しているにもかかわらず、怪人がもうひとり現れたというのだ。
緑色の怪人は、このネオンに突如として現れ、昨晩だけでも、三か所で殺害を起こしていた。エメラルドガールと名乗り、猛威を振るっている。
エレナとウォッシュ、その他数名の警察官たちは、ペンドルトン公園付近の調査にかり出されていた。ここでは、三人の男性が殺害されていた。
「まあ……ひどい……」
痛々しい死体を前に、エレナの口から声が漏れた。近くにいたウォッシュに、話しかける。
「エメラルドガール、ウルボーグと何か関係があるのかしら?」
「さあな。さっぱり分かんないよ」
ウォッシュは、両手で頭を押さえ、髪をくしゃっとさせた。彼の頭の中でも、混乱が怒っているのかもしれない。実際、「うーん」と唸りながら、眉をひそめている。だが、いきなり真顔になり、解説口調で口を開いた。
「でも、二人の怪人が手を組むことは、まずないんじゃないかな」
「それは、どうしてそう思うの?」
「なにかね、活動理念が違う気がするんだよね」
活動理念とは、怪人たちが殺害を犯す理由、その根本にある理念のことであろうか。エレナは具体的にウォッシュの予想を掘り下げたかったが、あいにく召集がかかり、現場からは退散することになった。
第15話 議論 へつづく