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不変の輝き、流れゆく彩  作者: 宇多出 都六里
混沌なる世界
12/12

厄災ノ種

 へぇ、明日結婚する。しかも村人たちの反対を押し切ってまで、ですかぁ。お相手とかはお聞きしても……、あぁ、いえいえ。こちらこそぶしつけでしたな、申し訳ない。


 いいですねぇ。口に出すのもはばかられるような相手と駆け落ち同然の結婚。若気の至りここに極まれりって感じで私は大好きですよ。そういうの。

 ふむ、じゃあ私から幸せのおすそ分けのお礼をいたしましょうかねぇ。何か聞きたい話とかあります? ない。


 それじゃあ僭越ながら私の好みで決めさせてもらいましょうか。


 そうですねぇ……。クク、やはりここはこの話にするのがお約束という物でしょうか。

 それでは、厄災ノ種(ケヲ・メカ)についてお話ししましょう。



 皆さんもご存じの通り、ヨモアっていう種族がいるでしょ? ほら、あの空を飛んで火を噴く業突く張りのしゅ……、えー、まぁ皆さんだいたい思いうかんだと思いますが。


 あいつらはとにかく金目のものに目がなくてねぇ。自分のす、じゃなくて家をあちこちから集めてきた金銀財宝その他これは価値があると思ったものを集めておいとくんですわ。それを目当てに盗賊とか命知らずにも挑んだりしてますけどねぇえ、私は彼らが盗みに成功したって話を一回も聞いたことないんですわ。


 まぁそれは脇に置いといて。


 ともかく、金持ちとの結婚にそれなりのしがらみやら何やらがつきまとうように、やつらと結ばれる者にはそれ相応の苦労といいますか、罪悪感とかを飲み込むだけの覚悟が必要なんですわ。

 じゃ、そろそろ始めますぜ。





 昔、昔。え、どれくらいかって? あー、そうだなぁ。ざっと……10年くらい前か? それじゃあ昔とは言わない? うるせぇですよ。私にとっちゃ10年前は昔なんです。


 えっとともかくですねぇ、10年くらい前にヨモアのおす、じゃなくて男とトワギワの女が結婚したんすよ。


 周囲の反応はもうそりゃあすごくて。非難轟轟。そしりや嫌味は当たり前、怒声や嘆きが雨あられ。集落中をひっくり返すようなそりゃあひどい騒ぎだったんすよ。


 いやぁ、あん時の花嫁さんはそりゃあ別嬪でねぇ。わざわざヨモアにもらってもらわなくとも引く手あまた、現にヨモアと結ばれるぐらいなら自分と! なんて志願する奴がまぁあとから出てくる出てくる。


 でも隣でずっとにらみを利かせてる旦那が怖くてだぁれも口説き落とせなかったんですがね。


 私? 私はもちろん離れたところから傍観してましたよ。当たり前じゃないですか。誰が好き好んでヨモアにケンカ売りに行くんだよって話っす。私ゃ呪い殺されるなんてごめんでさぁ。


 泣き出しそうな花嫁と、明らかにいら立ってるヨ、旦那と、とにかく結婚を止めさせようと騒ぎ続ける村人と。もうそりゃあ収拾がつくはずもねぇですわ。あんまりにも収拾がつかねぇもんだから、最後にはヨモアの旦那が一喝して無理やり全員を黙らせちまったんです。


 村人は説得が無理だとわかったんでしょうねぇ。何せ花嫁があきらめても旦那の方は絶対にあきらめないでしょうし。ならば彼らが取れる道は限られてくる。厄災ノ種(ケヲ・メカ)をもたらすであろう花嫁たちを集落から追放するか、どこにもこの話が漏れないように全員が全員を監視し続ける生活を送るか。


 村人はそりゃあもう悩みに悩みつくしましたよ。厄災ノ種(ケヲ・メカ)がもたらすであろうあらゆる幸運と、それによってもたらされる災いと。天秤にかけるにはあまりにも、私情やらなにやら入り込んじまって公平さも正常さも踏みにじられる事柄だ。


 けど、結局のところどれだけ危険があっても美味しい話には飛びつきたいのがヒトの性なんでしょうねぇ。迷いに迷った末、僅差で天秤は許容するという方向に傾いちまった。


 周りの連中はしぶしぶといった感じでしたが、無事に花嫁は愛するものと故郷で愛を誓う儀式を行う事ができたんでそりゃあもう嬉しそうでしたよ。花がほころぶような笑顔ってのはああいうのを言うんでしょうなぁ。集落の男衆がみっともなく泣いてる様を眺めるヨモアの旦那の目も最高につめたいことなんの。


 ま、触らぬヨモアに祟りなしってやつですわ。私は遠くから静かに眺めるにとどめときましたよ。えぇ、おかげさまで睨まれる以外のことは何もされなかったです。


 無事に式を終えた二人はその後、すぐに一子もうけたみたいでね。ひと月もたたずって感じだったかなぁ。懐妊したって報告を受けたときの集落の連中の顔といったらそりゃあもう滑稽でしたねぇ。嬉しいのか絶望してるのかよくわからん顔をして歓喜か悲嘆かわからんぐちゃぐちゃの顔でうずくまっちまった。


 旦那はそんな反応される覚えはねぇ! ってめっちゃ怒ってましたけど、花嫁の方はとにかく子どもができたことに対して無邪気に喜んでるって感じでしたねぇ。

 





 はいそこ、ヨモアの図体でどうトワギワの女と交尾するんだって質問はご法度でさぁ。気になるのは大変わかりますがね、私はまだ死にたくねぇんで旦那さんにでも聞いてくだせぇ。ま、そういう意味でも覚悟とかは必要でしょうなぁ、という話だとだけ言っときますかねぇ。


 花嫁は無事出産を終えて母親になりました。集落の住人達もなんだかんだで厄災ノ種(ケヲ・メカ)の御利益にあやかれるってんで浮かれた感じでしたよ。まったく、調子がいいってもんです。


 花嫁は無事愛するものと結ばれ、一子をもうけ、村人たちにも歓迎されて幸せになりました。


 ・・・と、物語ならそれで終わるんですがねぇ。あいにくこの世はそう甘くはないんでそこから先も物語は続くんすけどね。

 





 あ、ところでなんでヨモアとヨモア以外の生物の間に生まれた子が厄災ノ種(ケヲ・メカ)と呼ばれるのか、その本当のところをあなたは知ってます?


 それはね、あいつらの底のない執念じみた本能を大本とする特殊な状態を生まれ出てくる子どもが有してるからなんですよ。よく言えば価値あるものを己の手に収めるための強運をあいつらは自分の子に祝福として贈るんす。自分の子が巣穴を埋め尽くせるほどの財宝に恵まれますようにってね。


 けど、それを混血とはいえ純粋なヨモアではない子どもに与えちまったらどうなるか。あいつらはいつもそこは考えない。自分がそうされて今幸せになっているのだから、そうするのが一番いいはずだ。あいつらはそんな単純かつ無責任な思考で子どもに祝福を与え、破滅させちまう。


 とりあえずこれで厄災ノ種(ケヲ・メカ)が狙われる理由は察してもらえましたかね? 改めていっちまうと、集落のやつらも、近隣のいろんなやつらも、そして旦那の同族である他のヨモアも。みーんなして自分に幸運をもたらす子どもを手に入れようと血眼になっちまったってわけだ。


 ヨモアの祝福だ、疑う必要もないだろ? ってね。


 まぁ普通ならこの段階でヨモアの旦那が花嫁と子どもを連れて自分の巣に引っ越すなりなんなりするんですがね、今回はそうはならなかった。


 旦那は同族たちに殺されちまったんですよ。子どもと花嫁を守るだけならさっさと逃げられたんでしょうがね、花嫁が集落のやつらを守ってほしいなんてせがんじまったから旦那は逃げられなかった。まぁそうこうしてるうちに集落をかばって八つ裂きにされちまったってわけでさぁ。


 馬鹿な話ですがね、私はこれはこれで花嫁をきちんと愛してた証拠なんじゃないかとも思うんですよ。だって本当に愛してなきゃ関係ない価値も感じられないトワギワを守ったりしないでしょ? 愛するものが守ってほしいと願うほどの価値があると信じ、命を懸けた。


 まさしく愛の物語ってやつだ。けど、残された花嫁と子どもはそんな美談で慰められてる余裕なんかなかったのも事実っすね。ヨモアという脅威がいなくなった以上、集落のやつらだって非力な女と子ども相手に容赦する必要はねぇって感じでそりゃあひどいもんでしたよ。


 女は慰みもの、子どもは集落を守りより豊かにするための道具ってね。


 そうしてその集落は一時の栄華を手に入れたんですわ。けどねぇ、他人から奪ったもので成り立つ栄華なんてすぐに消えちまうのが世の常ってもんでしょ。


 集落はすぐに他の武装集団にぶっ潰されちまって、子どもと花嫁の行方も分からなくなっちまったってのがこの話のオチなんでさぁ。





 結局、何が言いたかったのかって話なんですけどねぇ。


 厄災ノ種(ケヲ・メカ)ってのはそれそのものが厄災なわけじゃないって話ってことでしょうかねぇ。いつだって彼らが厄災に成りうるのは私たち外部の者たちの欲望に果てがなく、他者を顧みることなくそれを満たそうとするからなんだったことですわ。


 もしヨモアと結ばれたいのなら、そういう非業の子を産み落とし育て盾となって死ぬ覚悟を持たなきゃいけねぇってわけでさぁ。けどそれは並大抵の努力や覚悟で出来ることじゃねぇんです。マジで手段を問わず、選ばずに手に入れようとする輩は多いっすからねぇ。


 さぁ、花嫁さん。あんたはこの話を聞いてもまだ厄災ノ種(ケヲ・メカ)を孕む覚悟があるっていうんですかい?


 そうですか。なら、私からは一言だけ最後に言わせてください。

 厄災ノ種(ケヲ・メカ)は圧倒的な幸運(ラック)をもたらすがゆえに周囲から良識を欠け(ラック)させる。それは全員に当てはまるってね。

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