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『(―――お、あれは……人か。何をしているのだ?)』


 上空から見える人間たちはパッと見ただけで数人いて、一か所を中心にあちこちに散っては戻ってきてを繰り返していた。

 木々の隙間からではよく見えないので、魔力で広範囲の気配も探りつつ注視した。

 人が中心としていた場所には多くの荷物が置かれていた。その少し離れた場所には馬車と繋がれた馬、そして散った場所には同じ荷物がひとつふたつ転がっている。

 ああ、こぼしたのか、とアクイラは一人納得した。

 馬車、荷物、人となれば物資を運んでいるのだと人の世界を見たアクイラならわかる。自分も何度も同じものを運んだ経験があるのだから。

 なので経験上友に指摘された運ぶ際のマナーなどを覚えていて、あいつら運ぶの下手くそだな、などと評価していた。


『―――どうやったら物資がああも散らかるのだ。背ではなくちゃんと平な置き場があるというのにあんなに落とすものなのか? 不器用にも程がある。オレなど一度も落としたことないぞ』


 誰に聞かせるでもなくエッヘン!と胸を張るアクイラ。一応自慢のひとつに入っていた。

 どうにか全部の荷物を回収したらしい人間たちは今度は馬車に運びだし、綺麗に並べて積んでいった。

 慣れた手つきで綺麗に積んでいく動作が続き、回収の倍の速さで積み込みを終わらせていた。

 それに軽く驚くアクイラ。


『―――なんだ、きちんとできているではないか。なぜさっきはあんなに散らかした?』


 ガタゴト進みだした馬車に上空から問いかけて答えが返ってくるわけないのだが、あんなことになっていた原因が気になるアクイラはその後も馬車を追いかけた。

 どことなく焦っているような様子がうかがえる馬車の中の人間をもっと近くで見たい気もしたが、バレて騒がれても喧しいだけなので、視界に入らない程度に高度を下げて観察を続けた。


『(―――このままついて行けば人の多い所へたどり着けるだろうが、どうせほとんどは寝ているだろうからな。行ったところで退屈なだけだな、馬車を見届けたら泉まで戻って…)ん?』


 下の様子が変わったのに気づき少し高度を下げて観察した。

 なにやら近づくごとに悲鳴と激しい衝突音が交互に聞こえてきた。


『―――いったい何を騒いでいるのだ? こんな夜中に。馬鹿なのか?』


 わりと酷いことを呟きながらも先ほどのように全体を気配で探る。

 すると何かが馬車に突っ込んでいるのがわかった。

 間隔を開けながら何度も馬車に体当たりを繰り返していて、そのたびに中から悲鳴が上がっていた。


『―――ふむ、ぶつかっているのはモンスターか』


 どんな姿かはここからでは見えないが、探知したサイズはかなり大きいものだった。

 馬車は馬に全速力を出させてかろうじて逃げられているが、追い付かれては突進されて、勢いをなくしたモンスターが遅くなると距離が開いてまたモンスターが追い付いて、の繰り返しをしているようだ。

 ガタガタと揺れが酷くなっているのをみるに、このままいけば馬車が壊れるのは時間の問題だろう。

 もしかしたらさっきの散らかりようもあのモンスターが突っ込んだせいだったのかもしれない。だから盛大に荷物が飛び散ってたのだろう。

 回収の間に襲われなかったのが幸いだったろうが、荷物のために命を懸けているようなものだ。弱い存在のくせにそんなことに命を張るなどアクイラには考えられない。だがあの人間たちにはよほど荷物が大事らしい。

 アクイラがそう思案している今も、二度、三度、モンスターが突進し人と馬車と馬から悲鳴が上がる。


『―――ふむ、次で馬車は壊れて何人か死ぬな』


 その様子を冷静に観察して予想するアクイラは状況を正しく分析するも、そこに介入する気はなかった。

 ただの暇つぶしで見ているだけなのだから助ける義理も情もなかった。

 自然の中で生きていれば、弱肉強食の世界の掟が嫌でも身につく。抵抗出来ない弱い者はただ死ぬだけだ。

 だからアクイラにとっても、これから数人の人間が死のうと自分には関係ないことだった。

 とどめの突撃が迫るのをじっと見つめて、飽きてきたのでそろそろ帰ろうかと考えたとき――――。


【見てねえで助けろよ! あいつを殺してくれよ!!】


『―――っ!? なんだっ』


 突然頭に人の声が響いた。

 感情むき出しの叫びにも似た声はアクイラの脳天を直撃し、表現できない不快さを体に走らせた。


『―――ぬぐぅっ!? これは、あの時の感じに似ているぞ!』


 過去の経験にある、無理やり従わせようとした時に流れてきた言い表しようのできない不快感。

 全身にまわるそれは弱弱しくもアクイラの四肢を操るように、意図していない行動をとらせようとする。

 誰かが、アクイラの行動を支配しようとしていた。

 幸い昔ほどの強力な支配ではなく、偶然出た類のもののようだったのである程度もがいているうちに不快さは消えた。


『―――オレを勝手に使役しようなど甘い。そんな弱弱しい力で縛れるものか!』


 フンッ、と鼻息荒くして術をかけようとした者を探す。

 といっても、こんな場所でいきなり支配を考えるような状況に陥っている者など、あの馬車以外にはない。

 あそこに原因がいる。

 確信したアクイラは数秒何か考えたあと、馬車へ向け急降下した。

 アクイラは不快感への苛立ちと自分を支配しようとした者への怒りに燃えた鋭い瞳を、まずモンスターへと合わせる。

 モンスターはイノシシが数倍に膨らんで毛がはがれて真っ赤な筋肉質をむき出しにしたような姿だった。まともな思考を持っていないのか、焦点のあっていないギョロギョロと左右別に動く眼は大変気持ち悪い。さらにぶつかり続けたダメージか、半身がどす黒い液体で染まっていた。液体は血だろう。そのせいで見た目がさらに気持ち悪い。

 最後の一発とばかりに馬車へと突っ込もうとしていたモンスターは、一歩届かない距離のところで地面スレスレで方向転換して突っ込んできたアクイラに巨大なかぎ爪で空中へとかっさらわれていった。

 重量は軽く百キロはあろうモンスターを持って飛んでいても、アクイラの飛行能力にはまったく影響を与えない。

 アクイラは前足二本でがっちりモンスターを抑え込んだところで、鉤爪を食い込ませながら懇親の力で締め上げた。


「ブギャアアアギイイィイイイィッッ」


 暗い空に醜い咆哮をあげて短い脚をじたばたさせるモンスター。逃げたい意思表示なのだろうが、アクイラにそんな気は全くない。

 血が溢れ出し、肉を貫いて体の芯の方まで刺さる爪の感覚を感じながら、込めた力をさらに強めて骨まで届かせる。


 ボギボギ、バキ、ミシッ……!


 骨の砕ける音を盛大に響かせて限界まで脚を握りこむ。


『―――まったく、貴様のせいで……』


 冷たい声音でモンスターに向けて吐き捨てる。よくも巻き込んでくれたなと。

 人間を観察するだけで満足だったのに、このモンスターのせいでとんだとばっちりを食らってしまった。

 どうやらあの中にはモンスターを使役出来る者が居たらしい、だが未熟なようで直ぐに力は消えた。

 しかしそのせいで馬車を襲っていた方ではなく、関係ないアクイラへと力が及んでしまった。

 あの不快感は大嫌いだった。だからそれを送ってきた人間も、その原因をつくったモンスターも許せなかったための現在の攻撃だ。

 アクイラが本気を出せばそこらの生き物は皆あっという間に殺せる、だから今はこのモンスターにすべてを八つ当たりする。

 内臓が出てきそうなほど変形した形のモンスターを掴んだまま、アクイラはまた地面へと急降下した。


『―――オレを巻き込むな!低俗な生き物があっ!!』


 苛立ちと怒りのままに、アクイラは地面へとモンスターを投げつけた。

 乗せられたスピードを上乗せして地面へ叩き込まれ、ドゴオーーーン!!と大きな破壊音とともに土煙が舞う。

 土煙が収まったころにはアクイラの目の前にはモンスターがめり込んだことでずいぶんと深いクレーターが出来上がっていた。

 当のモンスターはその中心部でピクリともせず絶命していた。

 地面へと隠れている体は、もう元の原型は留めていないだろう。


『―――ふん』


 冷ややかにモンスターを見つめた後、アクイラは人間達が逃げた方向へ目を向ける。


『―――まぁ、迷惑料としていいものを見つけていたのは褒めてやる』


 一人ごちると、アクイラは次なる目標へ向けて翼を広げ空へ昇った。

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