死に際の意地
ユウリの意識は朦朧としていて、身体は脱力感に襲われていた。
(・・・・・・俺は死んだのか?)
ユウリがそう思っていると、どこからか思い足音が聞こえてきた。
(・・・・・・そうか、死んでないのか)
ユウリはどこか諦めた状態で、自分の死を待っていた。
(・・・・・・もう嫌だ。生きることがこんなにも苦しいことなのか。戦うことがこんなにも辛いことなのか。だったらいっそ、このまま死んだ方がマシだ)
ユウリは現実は思い知らされた。力がないと何もできない。生きられない、死ぬだけだと。
ユウリがそんな自分の死を受け入れかけた時、あるものがユウリの脳裏に浮かんだ。
それは、慶太や雅、皐月、アリサ、家族。いつもの平穏な日常、みんなで笑っていた時のこと。
「ーーっ!」
(・・・・・・ああ、そうか。俺は死にたいんじゃなくて、生きたいんだ。・・・・・・生きてもう一度、あいつらに会いたい、話がしたい、笑っていたい)
すると、ユウリにある感情が生まれ始めた。
(憎い・・・・・・憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い)
それは、何かを責めるようなものだった。
(・・・・・・何が憎い?・・・・・・自分が、力がない自分自身が。あの巨人を倒せない自分自身が。少しでも諦め、死ぬことを許容した自分自身が・・・・・・憎い!)
ユウリはいつの間にか、死ではなく生きることを願っていた。
そして、朦朧としていた意識をはっきりさせて起き上がった。色褪せていた瞳には光が戻り、巨人を見上げた。
「・・・・・・俺はこんな所で、死ぬわけにはいかないんだよ!」
(力がないのら、全て力に変えればいい!怒りも哀しみも憎しみも・・・・・・全て!)
すると、ユウリの中の何かが外れた感じがした。
ユウリは剣を拾い、闇属性の魔力を流した。闇属性はユウリが最も適正がある属性だ。
「オオオオォォォォ!」
「ーーふっ!」
ユウリは巨人の左パンチを右に避けながら剣を振ると、巨人を左腕を斬った。だが、やはり切断までには至らない。
しかし、ユウリは巨人への攻撃を止めなかった。避けては斬り、避けては斬り、それを何度も繰り返していった。
ユウリの連撃で弱っていった巨人は、棍棒を地面に勢いよく振り下ろした。すると、ユウリに向かって地面が激しく爆発していった。これは土属性の中級魔法である。
「ーーぐあっ!」
ユウリは《アース・ブレイク》の爆発で後ろに飛ばされたが、上手く受け身を取った。受け身を取った後、すぐに巨人に向かって走った。巨人も攻撃をするが、ユウリがギリギリで回避をするので当たらない。
そして、ユウリは巨人の近くに行くと勢いよく跳び、そのまま巨人に三連撃すると、最後の一振りを振り下ろした。
「はあああぁぁぁぁ!」
ユウリの一振りは巨人の左肩から右腰まで切り裂いた。
ユウリの四連撃が決まると、巨人は膝をつき後ろに倒れた。倒れた瞬間にズウゥンと大きな音がしたと同時に、ユウリは勝利したのだと確信した。
「・・・・・・やっと、倒せた」
すると、部屋の奥に道が現れた。どうやら、巨人を倒すことで出てくるらしい。
「どこに続いているんだ?」
ユウリは膝から崩れそうな身体を剣で支え、部屋の奥の道へ歩いていった。
道を抜けると、そこには少し狭い部屋があった。その部屋には机や椅子、様々な道具が置いてあるなど、誰かが住んでいたような形跡があった。
「・・・・・・ん?これは?」
剣を鞘に納めたユウリは机の上に置いてあった二枚の紙を拾い上げ、内容を確認した。その紙にはこう書かれていた。
『このゼハード迷宮の攻略おめでとう。この紙を読んでいるという事は、部屋の前にいたギガントを倒したのだろう。あのギガントは私が作ったもので、相手の力と同等になるようになっている。つまり、あのギガントに勝つ方法は、土壇場で今の自分を越える事である』
「・・・・・・なるほど。っていうかこのダンジョンはゼハード迷宮っていうのか。全然知らなかった・・・・・・」
そう言って、ユウリはもう一枚の紙を読んだ。
『隣に置いてある箱の中に、《攻略者の証》が入っている。このゼハード迷宮の他にキリエル神殿、オルガノン幽館、ガルドン火山、アデルト森林、フェイゲル雪原がある。そこで試練を攻略して《攻略者の証》を手に入れろ。そうすれば、邪神が封印してある破滅の塔バベルへの道ができる』
そして、この文章の下にはこう書かれていた。
『ゼハード・ニスト』と。
「・・・・・・ゼハード・ニスト。ってことは、このゼハード迷宮を造った人物なのか」
ユウリは全て読み終えると、紙を机の上に置いた。
「・・・・・・ダンジョンが他にもあるとは聞いていたが、全部で六つで残り五つか」
ユウリは隣に置いてある箱の中から《攻略者の証》を取り出し、《アイテム・ボックス》の中に仕舞った。
その後、ユウリが部屋を探索していると、部屋の端に扉があることに気が付いた。扉を開けると、そこは真っ暗で何も見えなかった。
「暗いな・・・・・・。《ライト・イルミネイト》」
ユウリが魔法を唱えると、掌から光の球が出てきて、部屋が少し明るくなった。
ユウリが光を下に向けるとそこには魔法陣が刻まれていた。
「ーーっ!」
ユウリが部屋から出ようとすると、魔法陣が起動し、放つ光がユウリを包み込んだ。
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