異世界転移
神無月雀の初の異世界ものです。どうぞ、お楽しみください。
――ピピピピッ!ピピピピッ!
ある日の朝、久世ユウリはいつも通りの朝を迎えた。ユウリは近所の桜花高校に通う、高校2年生である。
ユウリは眠い目を擦りながら制服に着替え、一階へ下りて顔を洗った後、朝食を取った。こんな当たり前のような普通の生活が送れる事が、ユウリにとっては割りとありがたいと感じていた。
朝食を済ませた後、ユウリは歯磨きをして家を出た。すると、家を出てすぐのところでユウリの親友である葛城慶太が待っていた。慶太は容姿はかなりイケメンの部類に入るが、本人の性格上謙遜しきっているのだ。
「遅いよ、ユウリ」
「いや~、悪い悪い」
「まったく。……そういえば、今日の課題やってきた?」
「ああ、やったぞ」
そんな他愛もない会話をしながら、ユウリたちは学校へと向かっていった。
学校へ着いたユウリたちは、教室へ入り自分たちの席に座って談笑をしていた。
すると、一人の女子生徒がユウリたちに話しかけてきた。その女子生徒の名前は天野雅といい、桜花高校の中でもかなり美少女として有名だ。ユウリたちもそんな彼女とは少しは交流があった。
「おはよう、久世君、葛城君」
「天野さん、おはよう」
「おはよう、天野」
ユウリたちが挨拶をすると、雅は不思議そうな顔をしながら訪ねてきた。
「久世君と葛城君っていつも一緒にだよね?付き合い長いの?」
「ああ、慶太とは中学からの付き合いだな」
「確か、初めて話をした時に意気投合してからだね」
「へ~……」
ユウリがどこか感心したように話を聞いている雅を見ていると、前のドアから担任の先生が入ってきた。
「は~い、皆さん席に着いてください」
担任の先生が朝の点呼を取り、今日の授業が始まった。一時限目は数学、二時限目は国語、三時限目は英語、四時限目は理科、そして午前の授業が終わり、昼休みに。
ユウリと慶太は昼食を取るために、お互いに机を付けることにした。すると、ユウリたちを呼ぶ声がした。
「久世君、一緒にお昼食べようよ」
「……別にいいけど、他の人たちと食べないのか?」
「たまには久世君たちと食べようかなって」
「まあまあ、いいじゃないかユウリ。僕たちは大丈夫だよ」
「だって。ほら、一緒に食べよう」
そう言って雅は、一人の女子生徒を引っ張った。その女子生徒の名前は山下皐月といい、少しおっとり系で、目立ちはしないがかなり可愛い方だ。
「あ、あの。よろしくお願いします」
「おう、よろしく」
「うん、よろしくね」
皐月は恥ずかしいのか、少しモジモジしながらユウリたちに挨拶をした。だがそれもすぐに慣れ、ユウリたちと普通に会話できるようになっていた。
「へ~、山下は本が好きなのか」
「ーーあ、あのッ!」
「ん?」
「どうしたの、山下さん?」
「……えっと、あの、その…や、山下じゃなくて…さ、皐月でいいです」
「……えっと」
皐月のいきなりの発言で、ユウリと慶太は思考停止状態になっていた。そんな二人を助けるように、雅が口を開いた。
「……皐月から名前呼びをしてほしいなんて珍しいね?」
「え!…う、うん。実は男子の友達から名前で呼ばれるの夢だったんだ」
「ふ~ん。だってさ、二人とも」
「あ、ああ。そうだな」
「うん、そうだね」
二人の思考停止状態は、雅の問いかけによって解かれた。そして、ユウリたちは正常に戻った。
「分かった。なら、皐月って呼ばせてもらうよ。……そうだ。なら、俺のこともユウリでいいよ」
「それなら僕も慶太でいいよ、皐月」
「ーーッ!?ありがとうございます!」
皐月はユウリたちが名前で呼んでくれら事が嬉しかったのか、少し興奮気味だ。すると、そんな様子を見ていた雅は不服そうな顔をしていた。
「……ちょっと、二人とも。皐月がいいなら私も雅って呼んでよ!」
「それはちょっと……」
「畏れ多い感じが……」
「いいから、雅って呼ぶこと!」
雅は自分だけ名前で呼ばれない事が不満だったらしい。だが、雅を名前で呼ぶのはなかなか厳しい。何せ雅は、この学校の中ではかなりの人気がある。そんな彼女を名前呼びするのは、周りの男子生徒から羨ましがられるに決まってる。
それでも名前呼びを強請る雅に根負けしたのか、ユウリたちは諦めた。
「ああもう、分かったよ!名前で呼べばいいんだろ」
「ははは、さすがに僕らの根負けだね」
「じゃあ、雅でよろしくね。ユウリ君、慶太君」
「は~~」
思わずユウリはため息をついてしまった。
昼休みもそろそろ終わる頃、そんな時だった。ユウリたちが席を立とうとした瞬間に、教室が揺れ始めた。そう、床が揺れたのではなく、教室自体が揺れているのだ。
「な、なんだ!地震か!」
「違う、地震じゃないよ。……この教室自体が揺れているんだ」
「なにこれ!なんで教室が揺れてるの!?」
教室の中にいた生徒たちは完全に混乱しきっていて、ドアを開けようとするが開くことはなかった。すると、教室の床の真ん中に丸い模様が浮き出てきた。それはまるで、魔法陣のようだった。そして、その魔法陣が光を放ち、その教室にいた生徒たち全員を飲み込んだ。
「……ん、ここは?」
「どこだ、ここ……」
「少なくとも教室ではないね……」
「……本当にどこでしょう?」
そこはレンガで造られた壁や柱があり、そして松明が刺さっていて薄暗いが多少は周りが見える。周りから明かりがないことから、ここはどこかの建物の中であることが分かった。それは、まるでどこか違うところに飛ばされたようだった。
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