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少年期 弟子の資質

 「みざーるさま、おせなかあらいます!」とごしごしエータ。

 「うへへへ、くすぐってぇよ。もうちと力入れてな。そうそう。おうおう、良いぞ。上手いな。…それじゃ交代だな。回れ右!」と椅子に座ったままくるっと。

 「いたい!みざーるさまいたいです!」

 「すまんすまん、ほれほれ、どうさね?」

 「えへへー。きもちいいですぅ」くねくねと体を揺らして可愛らしい。

 まるで祖父と孫のように。

 「よしエータ、流すから目を瞑れ」とお湯をシャワーのように出して泡を洗い流す。

 「ん?みざーるさま?あったかいあめみたい。ざばー!じゃなくてしゃわわわって」

 「お、何か変か?」

 「かぁさまはあったかいのざばー!です」

 「水球暖めて落としてるのか、とりあえず湯船に浸かろう」と苦笑を浮かべながらにエータを湯船に放り込み、自身も湯船に入り、ふひぃー。と気持ち良さそうに息を吐く。

 「いい湯だな」

 ハハハン♪と続きそうに呟くと縁から両手を出して「見てろよエータ」と水球からシャワーを作り出す。

 「魔力の操作を細かく出来るようになれば簡単に出来るようになる。一回やってみるか?小さめの水球出して維持してみな」

 「はい、みざーるさま。……うぉーたぼーる」とソフトボール大の水球を作り出す。

 「よし、そのまま維持してな」と後ろからエータの手首をピースサインの形で握り込む、ミザールの人差し指がエータの人差し指の上に、中指が小指の上に掛けられる形で。

 「目を閉じた方が感じ取りやすいんだが、水球を見てろよ」と魔力を操作し始める。

 「あ、あめがでた。おおー」

 水球はどんどん小さくなって無くなって落ちていく。

 「エータ、出して維持する練習に馴れてきたらこれも練習してみな」

 「はい、いっかいひとりでやってみます!」と水球を新しく作り出す。

 「んー。ん? んー!」と試行錯誤していると水球からピチョンピチョンと水滴が滴り落ちる。

 「よし、魔力は操作出来てるようだな。小さく数を増やして切り離す」

 「は、はい。んー」だばだばとスコールのように水滴が落ちて水球は無くなる。

 「初めてでこれなら上出来上出来」とエータの濡れてぴったりとした髪の毛を撫で下ろす。

 エータは、いひひー。と笑うと「まいにちれんしゅうします。やくそくです」

と真っ直ぐミザールを見る。

 「じゃあ、弟子にしてやろう。ローゼの弟弟子だな。明日から王都に戻るまでの間に基本的な事はしっかり仕込んでやろう」

 ほんの少しの思案の後には笑みが浮かんでいた。




 翌朝、ローゼとエータが向かい合って朝の鍛錬をしているところへ、「おう、おはよう、俺も混ぜてくれ」と支度を整えやって来る。

 「おはようございますお師匠様」

 「おはようございます!おししょーさま!」

 三人は三角に膝を付き合わせ手を繋ぎ瞑想を始めようとするが、

 「ローゼ、短い時間だがエータに基本を仕込んでやろうかと思う、エータに学ぶ気がありゃそれなりにモノになる。恐らく年に合わない位で分別は付いてるだろうが……いざって時、親としてフォローしてやれるか?」

 エータ自身、資質と心構えが出来ていてもまだ幼児、普通の4つと言えば一般的にはまだ精神的に不安定で良く癇癪を起こす、きっと間違いも起こすだろう。そんなリスクが見えているのにも関わらずミザールはエータに(力)を与えようとしている。

 ローゼはミザールをしっかと見つめるも問いには答えない。

 「当然、火魔法を含めてな、詠唱魔法だけじゃない、魔法によるイメージの発現まで叩き込みたい。エータには魔法使いの才能ってより、もっと違うモンを感じるんだ。転生者だからか?前世の影響か?エータは観察して実行してるんだよ。今のうちに俺の出来るだけの事をしてやりたい。きっと何かしら成してくれると、そう思っている」

 エータはミザールとローゼをキョロキョロと見比べながら待っている。

 暫しの沈黙の後、「はい、お師匠様。……エータの為になるのでしたら」

 「うむ、なぁに、エータは賢い、悪いようにゃならねえよ。ちゃんと親として愛してやりゃな」

 夫婦には拾い子であるエータとは別に正真正銘二人の子供が産まれた直後である、ジルとローゼに限っては無いとは思うがミザールは敢えて釘を刺す。エータの頭を撫で、「よし、朝のお務めを始めよう」と再度手を繋ぐ。

 複数で瞑想するに於いて最も重要なのは他人の魔力の観察だ、特に熟練の者の魔力のコントロール方法を感じる事が肝要で、効率的な使役を理解するためには不可欠である。

 時に鋭く細やかに、或いは力強くゆったりと。魔力の経路を拡げ、精緻な操作を行う。エータはローゼ以外の魔法使いを知らぬが故にミザールが如何に高度な鍛錬法を行っているのかを理解出来ない。だが母親と同じやり方を丁寧且つ複雑に行っているのは理解した。


 真似をする。当然同じように出来るわけがない。しかし懸命に真似をする。

 おししょーかぁさまがエータの世界では最高の魔法使いであった、しかしおししょーさまはそのおししょーかぁさまに魔法を教えたその人である。

 工夫をする。どうやれば同じように出来るのか考えながら真似をする。


 「んー」エータはむず痒そうな顔で悔しがる。

 「うむ、筋が良いぞ。飯食ったら浜辺で特訓するからな。いっぱい食えよ」とエータの頭をわしわしと撫でる。

 ひょっこりとジルが扉から顔を出し、「エータ、浜辺を走りに行こうぜ!」と魚籠をローゼに手渡し代わりに木刀を持ち出す。

 「はい!とーさま!おししょーさま!いってきます!」とジルと一緒に駆け出す。

 「ローゼ、やっぱりエータは面白いな。ちゃんと真似しようとしてやがった。先が楽しみだってのも分かるだろう?」

 「はい」ふふふっと微笑みながら答える。

 「そうだな、だから早めに魔法教えて俺に手紙出してきたんだしな」

 「はい、そうですよお師匠様。ふふふ♪じゃあ、朝御飯の支度をしてきますね。少しお待ちくださいね。」

 「おう、じゃあ散歩でもしてくらぁ」と外へ出た。



 小さな集落だからこそ皆良く働く。朝からせわしない程に、畑仕事をする者や少年たちは薪を拾いに林の辺りを行ったり来たり、ジルの様に朝まずめに漁をして皆に配ったり王都とは違った活気に溢れている。小銭があればのんびり好き勝手出来る街暮らしとは正反対だが、生きている実感は確実に得られるであろう。


 「良い村だな。……さてと、エータにゃ基本から全部教える必要もねぇかな、風土火の詠唱だけ教えてからは……うん、楽しみだ」

 




 

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