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少年期 この世界の事 其の3

 ミザールは、まぁ、珍しくもないか、と思いつつ3人の転生者をマジマジと見比べる。

 「このでっかいアンちゃんと、このお嬢ちゃんは転生者ってだけで普通の者と何も変わらんのだが、エータはちょっと開いてるな。開いてるってのはな……」と説明を始める、この世界には数多く転生者は居るのだが、ミザール曰く「開いている」者が特殊で、転生前の魂の記憶を魔力として使えるらしい。

 看破の魔法を使うと魂の色が判るので、人に化けた魔物の正体を見分けるのに使用されるのだが、ミザールの様に転生者の身近で旅をした者は転生者の魂の特徴が判別出来るようになるらしい。

 「転生者の魂にはな、鍵の掛けられた丸い窓の様なモンが見えるんだよ、それを『心の窓と記憶の鍵』って呼んでるんだが、鍵がぶっ壊れて窓が開けば前世の魂の記憶が頭ン中に入ってくるって事だ」と切り株から立ち上がりエータの頭を撫でる。

 「ツレの獣人はガキの頃に戦に巻き込まれて、とても辛い事件に遭ってな、その時に全部思い出したって話だ。他にも感情の昂りで鍵が壊れるって話だが、そんな目にゃ遭わないに限るがな……」と優しくエータを見下ろす。


 「じゃあ、エータちゃんは凄い人になれるかもなの?」

 「確かにちっちゃいのに魔法凄いもんな!」

 「でも甘えん坊だけどな!」

 「うー。いやなことあいたくないから。いや!」とピシャリとエータ。

 「そうだな、そんな辛い目に遭って迄知りたくもないか」とでっかいアンちゃんことガハハ笑いのおばちゃんの長男ジーク君エータの5つ年上の9才。最近は集落の大人と一緒に畑仕事や森での採集を頑張っている。

 「わたしもー」とチタちゃん、ジークの一つ下の女の子。

 そんなに深くも捉えず、そういうことも在るのか、程度に聞いている様子。


 「エータはどうなんだかな、理解はしてないけども感じ取ってるってところか?見たところ年に合わない、うん、利発さか?良く大人の手伝いをしてるみたいだし、魔法の鍛錬も嫌がらず毎日やってんだろ?前世の影響は出てるんだろうかな。ハナタレのガキ何ぞ親の小言も聞かず走り回るもんだろ。まぁ、半開きで何が切っ掛けになるか知れんから……」と話を続ける。


 「人なんぞ直ぐに死ぬ弱い存在だからな。生きたい様に生きりゃ良いんだよ。だがな、やりたいようにするにゃあ力と知恵を身に付けて置かないと儘ならない。ガキの頃からその鍛錬はしとかなきゃならねぇのは絶対だ」


 子供たちはいつになく真面目な顔つきでミザールの話を聞く。


 「まあ、その辺は好きにすりゃ良いんだよ。親や大人の小言も聞きたくなきゃ、それでも良い。ただ、何を言われてるのかはちゃんと考えなきゃならねぇぞ。将来生きていく為に必要な事かどうか自分で判断出来ないなら素直に聞いといた方が良い」


 年長の子供たちはバツの悪そうな表情をしている。小言は大概の場合は自分達がやった行動の結果だと判っているし、それがミザールの言うように将来の自分達の為に言われている事、勘の良い子は大人からすれば「言いたくもない事」を何度も言われるってのが「死ぬ可能性」についての叱咤だと理解した様子だ。


 「まぁ、こんな話はこれくらいにしてな、次は旅の途中で食った旨いもんの話でもするか」と日が傾き始める迄話を続け、一日が暮れた。


 

 「ローゼ、このスープ、ドワーフのスープだろ?味噌だっけか?珍しいもん持ってんだな」

 「え?違いますよ、お師匠様?村の保存食にしてた塩豆がこんな風になってて、事の他スープに合うって評判で……」と茶色い塩豆を見せる。

 「ドワーフの味噌じゃねぇか。見た目もこんなんだぞ」

 「みざーるさま、どわーふのすーぷににてるの?へーえ!」と塩豆のスープをウマウマと飲みながらに問う。

 「へえ、そんなに似てるんですかミザール様、俺とローゼ達がパーティー組んでから国の南側には行ったことがないんで、ドワーフの味噌は知らなかったんで、いや、この味は癖になるって言うかほっとするって言うか。ローゼの愛情?」

 「バカ」満更でもなさそうにローゼ。

 「けっ、犬も食わねえよ」とミザール。

 「まあ、偶然なのかも知れねぇが塩豆を発酵させたのが味噌って話だがな。旨けりゃ何でも良いぞ。上澄みの汁もそのままだとしょっぺえが料理に使えば良い風味になるんだぞ?醤油とか言ったはずだ、ドワーフの村で食った醤油味の串焼きも酒に合ったなぁ……」

 「みざーるさま、ぼくもたべたい!しょーゆ!」

 「ははっ、味噌が在るなら上澄み集めりゃ良いんじゃねえか?アレは肉にも良いが魚にも合うはずだ。上手くすりゃ商売になるんじゃねえか?」

 「んー。しょうにんよりぼうけんしゃになりたいです」

 「エータ、両方すりゃ良いんじゃねえか?」

 「へ?りょうほう?」

ジルとローゼはニコニコしながらミザールとエータのやり取りを見ている。


 「いいか、エータ。冒険者が商売しても、商人が冒険しても良いんだぞ、別に冒険者商人に限った事じゃねぇ、やりたい事は何でもやってみりゃ良い。商人の知恵ってのは便利だぞ?モノの価値を知ってりゃ安く買って高く売ることも出来る。余ってるものを足りてない所へ持って行くってのもギルドの依頼に在るしな、ついでに商売して旅の路銭を稼ぐのは当たり前だからな」


 「そうだぞ、エータ、冒険者になるなら何かとお金が掛かるからな。ギルドの仕事以外で稼いでる奴の方が多いんだぞ。薬草を傷薬や解毒薬に加工して卸したり、魔物の素材も部位によっては直接武器防具屋に卸した方が高かったりな。相場を知るのも勉強だな。て、まだ早いか」

 「そうですよ、エータちゃんはまだ4つですよ」

 「あー、まぁ、覚えといて損はねぇからなエータ。ジルよ、もうちょっと飲もうぜ、ほら、ローゼも一杯……」

 「授乳中です!お師匠様お酒は程々におねがいしますね!」と釘を指しつつも、

「小魚を塩豆、ドワーフの味噌でしたっけ?に漬けて置いたのが在るんです、焼いて来ますね」と炊事場へ立つローゼ。

 「なかなか気が利くじゃねぇか。流石俺の弟子。まぁ飲めやジル」

 「ふふふ、俺の妻は最高ですよミザール様。どうぞ一献」

 「むー!みざーるさまととーさまずるい!」


 あー!ああーん!とリリが泣き出すとエータが駆け寄る。

 「むぅ、りりのおむつかえないとー!かぁさまふきん」

 「はいはい、温かい濡れ布巾よ」さっとお湯の魔法で布巾を絞ってエータに渡す。「エータちゃんありがとうね。かわいいお兄さん」

 「はーい。きれいきれいですよー」てきぱきとオムツを交換するエータ。

 「うひひひ、あー。だー!」気持ちいいのかにへら笑いのリリ。

 「リリー!とーさまだぞー!かわいいなー!」とジルが顔を覗かせると又泣き出すリリ。

 「ううう、リリちゃん……」

 「ジル!こっち来て飲めや」

 「はーい、焼けましたよ。と、……リリちゃん良い子良い子」

 「お!うめえ!中々に合うな!」

 「お口に合いました?少し摘まんだんですけと、ご飯にも合いそうですよね」

 「ううう、リリちゃん……」

 「おう、こりゃ良い塩梅で飯にも合いそうだな、て。鬱陶しいぞジル!」

 「とーさまげんきだして!」小さな手でジルの背中をぽすぽすと叩くエータ。

 「おおお、エータぁぁぁ!」抱き締めて頬擦りするも「ん、おさけくさい……」と逃げられる。

 「もー!かぁさま、ごちそうさまでした」空いた食器をいそいそと運んで水桶に浸ける。

 

 「エータ!ジルは放って置いて後で一緒に風呂入るぞ!」

 「はーい、みざーるさま!」

 「じゃあ、ローゼ!後で一緒にお風呂……」

 「リリを入れないとダメでしょう!」と言葉半ばでピシャリと。

 「ううう……」




 平和に夜は更ける。

 

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