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プロローグ とあるおばさんの死

 四宮百合、独りで生きて行けるおばさんだ、37になるまで独身の彼氏居ない歴=年齢の所謂、お局様や負け組と呼ばれる部類の。



 小中高一貫の女子高生時代は蝶よ花よと両親に愛され好き勝手してきた、好き勝手と言っても暴君的な奴じゃなく、やりたい事はやらせて貰える、欲しい物は常識の範疇なら買い与えられる、そんな程度の事。

 勉強も卒なくこなし、いつの間にか看護師に憧れを抱く様になっていたので都内の看護学校を目指す。

 それなりに成績も良かった事もあり医学部のある大学を両親や担任に強く薦められたが頑として聞かなかった。

 二十歳になったら自立すると決めていた。自分が甘やかされて育ったという自覚がそう決めさせたのだ。 

 彼女は順風満帆で挫折を経験することなく看護短大を卒業し、家から通える都内の病院に無事就職する。始めの頃は馴れない夜勤や連勤シフトが辛かったが、その分給料は見合ったものになるのし有給もきっちり取れるので余裕で働いた。

 早々に実家に程近いマンションに居を移し推しのグラビアポスターに囲まれてストレス管理もバッチリだ。

 趣味のアイドル追っかけで地方遠征した翌日に日勤夜勤連勤とかドMシフトを組む事もしばしば在ったが20年近く働いている。

 一皮剥けば変態性癖とも取れるくらいに少女大好きな彼女、男に厳しく少女に優しいスタンスは一般的なお局様とは違い、いつの間にか端から見れば一本芯の通った頼れる優しい先輩ポジションを確立していた。

 不甲斐ない男衆のケツを蹴り、後輩女子にはとても優しい、患者に対しても女の子には不安を逸らすように優しく、男の子には少しつっけんどんだが「頑張って良くなってさっさと家に帰れ!」とドMが喜ぶ様な励ましをする。

 変態の副作用なのにグッドステータス。


 薄幸そうな美少女が入院してきたり、新卒の看護師が入る度に家でぐへぐへニヤケて善からぬ想像をしているのに、よく職場でバレないものだと思う。



 当然ながら男嫌いの権化、出会いなぞ自らの拳で叩き壊してきた。最悪独りで朽ち果てるのは怖いが、どうしても男を作る気にならない。

 それこそ独立してからは自分の稼ぎで文字通り好き勝手しているのだ、今更他人に生き甲斐である趣味を制限されるなんて、と。



 こんな喪女にも春が訪れる。


 日勤が終わり少し明るい時間から晩酌のが楽しみの一つとなって久しい。

 病院の近くのいつもの居酒屋、日本酒の品揃えが良く肴も美味しい店だ。


 いつものカウンターで独り酒、3席ほど奥で懺悔贖罪でもしたのかって感じのお坊さんみたいな頭のおっさんがスマホを見ながらニヤニヤしたかと思うと涙を流したりしながらビールを煽っている。

 お店の主人が「栄太、何笑たり泣いとんねん、見ててきしょいぞ?」と声を掛けている。

 「うるさいわ。ええからおかわりちょうだい」とからのジョッキを渡している。

 男前ではない、不細工でもない、少し撫で肩だが肉付けも良く腹も出て居ないティシャツが少しピチッてるのも愛嬌がある。なんとなく気になった。


 暫くしてからまたあの店に行った、いつものカウンターの端でスマホ片手にビールを飲んでいる。隣に案内された。チラチラと気にかけながら晩酌を始める。

 美味しいお酒と肴で気持ち良くなってきた。なんか隣から良い匂いがする。

 やはり隣の男はニヤニヤしたかと思うと泣いてたり忙しそうにしている。

 見ててなぜだか微笑ましい。「栄太、きしょいぞ」と主人に声を掛けられている。 

 「それどんな話やねん?」という言葉に聞き耳を立てる。「あー。小説投稿サイト……人気のやつで……ランキング一位の……」


 お会計を済ませてから調べる。単行本も出ているみたいだけど早速読んでみよう。

 


 結論はドはまりした。

 かなり長編なのだが数日で一気に読みきった。それから何回も読みなおしする。

異世界に転生したクズが一所懸命に絆を守り家族になって行くお話。……家族か。

 お父さんとお母さんが居なくなったら本当に一人になっちゃうんだ。

 なんか恐いな。

 そんな考えが頭の片隅にこびりつく。

何故かわからないがあの男の顔が思い浮かぶ。


 それから何回かあの店で男を見掛けたが声も掛けられない。気が付けばあの男をみている自分に気付く。「百合ちゃん、あのきしょいの気になるん? 嫌やったら追い出したろか?」と居酒屋の主人がニヤニヤしながら聞いてくる。

 「あわわ、……いえ、違います、いや違わないのか……何で……も無いです。えと、宗玄おかわりください!」とあたふたしながら返事をする。「はいよ宗玄大吟おかわり!あわわて、リアルで初めて聞いたわ」と更にニヤニヤされる。

 日本酒を飲み干すとそそくさとお会計を済ませて帰った。


 それから数日してあの店に行く、あの男は居ない。なんか寂しい気持ちがするが仕事終わりの楽しみだキンキンに冷えたジョッキでビールを飲もう。たまには揚げ物も頼もう、お口が唐揚げ祭りだ。


 ふぅ、美味しかった。まだ早いけど帰ろうかな。


 お店を出て駅に向かって歩いてると疲れた顔をしたあの男がトボトボと歩いて来るのが見えた。ドキドキしながらすれ違う。あの店に行くのかな?と振り返って見送る。お店の方へ曲がった、やっぱり!


 気がつけばさっきお会計したはずのお店の前をウロウロしている。時々店の扉をチラチラと見たりお客の出入りでガラッと扉が開いた、あ、居た。いつものカウンターの奥。


 お店主人が出てきた。こんなところウロウロしてたらそりゃ怒られるよね「ごめんなさい」と謝る。

 「百合ちゃん、もしかして、と言うか見ててアレだわ。栄太にホの字だろ?」

 「あわわわ」

 「あわわわ。て。アタックしてまえや、あのきしょいのも独身やし」

 「はい?」

 「ご新規一名ご案内!」

 主人は店に叫ぶとカウンターの奥に彼女を座らせる。

 カウンターはガラガラなのにだ。


 勇気を振り絞って「なに読んでるんですかー?」と声を掛ける。




 自分で何をしてるのかよくわからない。  

 いきなり話しかけて人の匂いを嗅いで何処の変態だよ、いや、変態だわ。

 後は私の悪い癖というか、例の小説の話を捲し立てる様に独り善がりに話出して、挙げ句閉店で追い出されるとか。なにやってんだか。


 「ハイハイ閉店閉店! 栄太と百合ちゃん独身同士くっつけばー? アハハハ♪」 ってアレ?なんか栄太さんに引かれてる?うん、やっちゃったついでだ、連絡先渡しちゃえ。

 視線を感じてお店を見れば大将さんがゼスチャーでイケイケとやってる。バイトくん抱き寄せてチュウ?やれと?襲えと?恥女じゃねえよ!ギリギリな!

 キッと睨んでからメモに連絡先を書いて渡す。

 何気にメモを仕舞いそうな感じがしたので釘を刺しておこう。 

 「LINEやってないんならこれ、……」



 ハイ、連絡先ゲット。


 スッキリした、私この人の事が好きなんだ。男嫌い?それは間違いない、でも栄太さんは好きだ。



 毎日毎日昨日より好きになっていく、ババアは乙女になっちゃたよ。部屋に転がり込んでイチャイチャ幸せ。猫ちゃんもなついてかわええ、ハァハァする。

 何よりこの変態を許容してくれる、流石に遠征にはついて来てくれないけど気持ち良く送り出してくれるし、もしかして全部愛されてる?ねぇ、これ愛されてるよね!

ババアテンションマックスだぜっ!

 あたしあした逝くんじゃね?とか言ってたらプロポーズされた。


 違う意味でイキそう。


 直ぐに彼の実家にご挨拶。お母さまに号泣された。私も泣いた。栄太さんは私が幸せにします!何人もは無理かもだけど孫の顔を見せてあげたい。

 それに比べてウチの親は!爆笑しやがった、誰が行き遅れの変態だ。まぁ、間違いないけど、どうぞどうぞって軽いな!

 まぁ、反対されなきゃいいんだけど。

 

 後は栄太さん私の年知らなかったんだ、まぁ、誕生日は教えたけど。え?30そこそこだと思ってた?なにそれ、褒めても何もでませんよ?まぁ、今晩は私が頑張っちゃおうかな♪




 でも、ちょっとだけイヤな事もあった。婦人科検診で気になる結果が。


 卵巣のう種


 悪性腫瘍じゃないんだけど、卵巣は片方取らなきゃ駄目らしい。先生は年齢の事もあり全部摘出を薦めてこられた。けど、欲しい。子供。患部摘出だと痛みや副作用が懸念されるって言うけど子供作れるのよ?出来ないかも知れないけど、出来るかも知れない。産めないよりは万倍マシ。

 栄太さんも結婚式が終わったら計画立てて手術した方が良いって言ってくれたし。






 でも、栄太さん死んじゃった。


 火事だって。


 私はまだ生きている。手も足も体ごと動かない。


 声も出せない。


 聞こえるだけの人形?


 お父さんとお母さんは何時も辛そうな悲しそうな顔で私を見ている。

 栄太さんのお母さんも亡くなったって、ごめんなさい。約束守れませんでした。




 栄太さんの子供、かわいいだろうなぁ。産みたかったなぁ。





 どれくらい時間が経ったのかわからないけど、そろそろ解放されそう。

 栄太さんに会いたいなぁ、出来たら子供も産みたいなぁ。

……神様……お願いします……栄太さんに



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