シンディ譚 其の1
エータが笑った。
わたしのせいでリリちゃんが危ない目に合って、ずっと鬱ぎこんでいた。
多分わたしといっしょの理由で。
力不足だと、そう、不甲斐なさを思い知らされた。
わたしたちがずっと抱えていたいモノなんて、ちょっと目を離しただけで指の隙間からこぼれていっちゃうのだ。
あのときのかぁちゃんと同じように……
やっぱり笑ってるご主人様が好きにゃ。
切っ掛けはローゼかぁちゃん、鬱ぎこんでたエータをずっと見ていて、わたしは吐き出したにゃ、ドロドロした気持ちを全部、こんな嫌なわたしをローゼかぁちゃんは優しく受け止めてくれたのにゃ。
ローゼかぁちゃんもちっちゃい時にひどい目に合ったって、ずっとナデナデしながらお話してくれたにゃ。
「ペロウさんがお仕事で忙しいなら、ずっとここに居ても良いのよ」って。
でも、父ちゃん一人にしておけないにゃよ。
そしたらさ「じゃあ、何かあったらここに帰って来なさい、シンディちゃんの帰って来る場所はみんなの居るここよ」って。
もうね、ユラユラしちゃうにゃよ。
ずっとご主人様といちゃいちゃにゃよ、ちっちゃいゆりちゃんさわり放題にゃよ。
……でも、そうもいかないにゃ。
お互いに切っ掛けが必要だったのにゃ。
私は強くならないといけない。
ご主人様も本気出せてないのにゃ。
だから闘った。
やらなきゃ駄目だったのにゃ!
ふわふわした雲が後ろから視線の先に流れて行く。
しゃらしゃらと囁くような砂浜を前にして、穏やかな日差しの下で二人だけでお話をしてるのにゃ。
お昼までまだまだ時間はあるし、贅沢な時間にゃ。
お日様があったかいにゃね。
え? 結果は……あれにゃ、手加減してやったのにゃ、負けは負けだけど。
拍子抜けというか、初手で決められたんにゃよ?
にゃ?
そういうことにゃ。
そう!花を持たせたのにゃ。
目的は「イキイキエータ復活」だったのにゃ!
でも、ちょっとくやしかったけどにゃ。
……もうちょっとしたらアルクのおっちゃんが帰ってくるにゃよ。
そうにゃ、木こりのおっちゃんにゃ。
そしたら、あたしも父ちゃんと一緒に旅に出るにゃ。
強くなるにゃよ、ホントは離れたくないけど。
もう決めたのにゃ。
うん、そう決めたのにゃ。
強くなってご主人さまの為に戻って来るのにゃ。
ふにゅう……。
考えると寂しいのにゃ。
えへへ、そんなところ触っちゃだめにゃよ。
エータを守るのはあたしにゃよ、もう全部思い出してるのにゃ、母ちゃんと兄弟と離ればなれになって、ずぶ濡れで独り鳴いてたあたしをお姫様の様に抱き締めて暖めてくれた。
ぽかぽかしてやさしくてあったかい。
あたしだけのエータにゃ。
そんなエータの弱いところは私が埋めるのにゃ。
そうやって一心同体になるにゃよ。
にゅふふ♪
え?そんなことかんたんにゃよ。
ゆりちゃんが居ることが証拠にゃ、エータが全部忘れ
ていても、あたしは確信したにゃ。
にゃ?エータは力を持ってるけど弱いにゃ。
さっきので見たにゃ?
不意打ちを食らったら終わりにゃよ。
役割分担にゃよ。
お話ししたっけにゃ?
でっかい盾持ったおっちゃんたちとすんごい大きさのボア仕留めたお話。
そうにゃよ、エータがバッチリ決めた、そうそう。
あたしがあの盾のおっちゃんの代わりになるにゃよ。
私は私の為に強くなるにゃ。
目的がエータってだけにゃ。
にゃん!ゆりちゃんもついでに守ってあげるにゃよ。
にししー♪じゃあ強くなればいいにゃん。
三位一体?
にゃん。よく、わからにゃいけど。
にゃ?呼んだ?
オズマのおっちゃんに頼んだにゃ?
来ないにゃよ、だって今王子様の先生してるにゃ?
来ないにゃよ。
……一緒に来たら超困るにゃよ?
まぁ、それならいいにゃよ、多分あたしは居ないし。
エータも三才から魔法習ったって言ってたにゃ、ゆりちゃんも大丈夫にゃよ。
わかんにゃいの?
もにゃもにゃしてるのが?
まぁ、わたしも魔法ってのは良くわかんにゃいから、でも、なんか強化の魔法みたいなのは知らずに使ってるみたいだけどね?ホルムさんが教えてくれたにゃよ。
うーん、ローゼ母ちゃんが居て、エータもあれで、ゆりちゃんがってのはないにゃよ、にゃ!慰めとかじゃないにゃ、普通におかしいにゃよ。
にゃー。
あたしにはよくわかんにゃいや。
そうにゃね、綺麗にゃね、おさかないっぱいいるにゃよ!
にゃ?変じゃないにゃよ!笑っちゃダメにゃ!
にゅふふ。
逆になっちゃったにゃね?ちっちゃいゆりちゃん撫で撫でしてると昔と反対にゃ。
にゅふー、ぷにぷににゃ。
えへへ、ごめんごめん。
風も出てきたし、そろそろ帰るにゃ、かぁちゃんのお手伝いするにゃよ。
にゃ!このまま抱っこして帰るにゃん!
歩く?ダメにゃ、このまま帰るにゃよ。
にゅふ♪
なにニヤニヤしてるにゃ?
そうにゃね。
家族にゃ。
あたしたちは家族にゃ。




