にゃんこと幼女のピロートーク
大の字になり、すうすうと寝息を立てるエータの腕枕に小さな頭を置いてじっと寝顔を見つめるリリ。
小窓から欠けてゆく月の薄灯りが入ってくる。
ローゼは子供たちの身を清めると部屋の灯りを落としてからジルの居る酒場に戻って行った。
真っ暗ではない、慣れると表情くらいは見てとれる明るさだ。
リリは昼間の会話を思い出して思案に耽る。
「シンディたん起きてる?」
エータを挟んだ向こう側からは、すぴーすぴーという鼻息が聞こえてくる。
「ん」
リリはのそりと起きると、エータの足元を跨ぎ、シンディの背中に添うように横になる。
脇から手を回し、ぎゅうっと抱きつくと柔らかい身体に頬ずりする。
「んにゃ?」
寝ぼけ眼で顔を起こすと背中にすり寄るリリが見えた。
「リリちゃん?」
「あ。起きた?」
ゴロリと体勢を変えるとシンディはリリと向き合う体勢になる。
「ねぇ、シンディたん?聞いてもいい?」
「にゃ?」
「あのね?シンディたんは私やエータの事を知ってたの?」
「にゃぁ。エータもリリちゃんも同じ臭いなのにゃ」
「におい?」すんすんと自分の肩口を臭う。
「そうにゃよ」
「くさい?」
「にゃは、違うにゃよ、わかるんにゃ」
「んー。えーたさんといちゃいちゃしてたのもおぼえてる、と」
鼻と耳をぴくぴくとさせてにやけるシンディ。
「まいばんはげしかったのにゃ」
顔を紅潮させたリリは押し黙る。
「にゃ?わたしね、リリちゃんくらいの時に殺されかけてね、かぁちゃんも居なくなって、すっごく辛くて、悲しくて、そのときに思い出したのにゃ、暖かくて優しくて、幸せだった思い出を」
「え?」
「エータに会って、確信したにゃよ、そしたらゆりちゃんもここに居たのにゃ」
さわさわとリリを抱きしめて背中を撫でるシンディ。
「シンディたん……」
「あたしはまだちっちゃいから、まだ、とーちゃんと一緒に居なきゃダメなのにゃ、ちょっとの間だけだけど、今、ご主人さまと一緒に居れる。とっても嬉しいけど、またすぐにお別れしないとだめなのにゃぁ……」
きゅっと腕に力が入る。リリを引き寄せると柔らかい髪に顔を擦り付ける。
リリはなすがままに身体を預けている。
「おっきくなったら帰って来るにゃ、絶対。あたしは二人と幸せになるにゃ、子供いっぱい作ってみんなで暮らすにゃ!」
「あたしは……」
リリは押し黙ってしまう。
正直、理解が追い付いていない、栄太とシンディの最後に何が起きたのかは病床で聞いている。認めたくもなかったし、事実を調べようにも身体は意識と切り離されどうしようもなかった。
絶望とはどういうものかをひしひしと身に受けながら、願い続け、祈り続け、想い続け、気が付いた時にはこの家の娘になっていた。
きっとあれは夢だったのだろう、そう自身に言い聞かせて生きてきた。だってそうじゃないと説明がつかないもの。
私のこの性分が本当のもの、ぽかぽかとするこの気持ちは、きっと直感的なものなのだろう、エータに対するこの感情は。
だが、兄なのだ。エータは。
でも、シンディが言っていることは恐らくそのまま真実なのだろう。
私たちは前世の記憶を持って転生した。
「リリちゃん?」
「え?」
「んふふー、こうやって三人固まっておやすみすると思い出すにゃ、二人が寝てるところへ、こうやって真ん中に挟まるのが好きだったにゃ」
「あ、そういえば」
いつもシンディたんは俺の足の間で寝るんだ、って言ってたけど、私がお泊まりするようになってからはいつも私たちの上で寝てたわね。ふと思い出す。
シンディの手は優しくリリの背をずっと撫で続けている。
ぺたんこの胸に顔を預けながらにリリは思う。
栄太と、いや、エータと共に生きよう。
リリはシンディの暖かさに包まれながら深い眠りに落ちていった。




