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少年期 乳兄弟

 「おーかーえーりー!」

 集落から朱鷺色の髪の幼女が両手を振りながらに駆けてくる。真っ白なブラウスに麻のオーバーオールスカート、ひらひらと踊る裾からはドロワーズの紺色のリボンがチラチラと見える。


 「ただいま!リリ!今帰ったよ!」満面のデレ顔で膝立ちになり両手を広げるジル。


 リリはトテテテテ、とジルを素通りしてエータに飛び付く。

 「んもー!えーたん!さみしかったの!うぇぇぇぇ」ぐりぐりと顔を押し付け半べそをかく。

 「ごめんねぇ、リリちゃん」よしよしと柔らかな髪の毛を撫で下ろす。

 「うへへへぇ、えーたんのにほひ……うひひ」くんかくんかと汗臭い首筋を嗅ぎ悦に入っている変態幼女。

 「リリちゃん?」

 「ん!きょうはばつとしていっしょにねるのです!」

 「うん、それは良いんだけど、父様が凄く凹んでるよ?」

 チラリとジルの方を振り向くと「はいはい、とーさまおかえりなさい。かーさまがまってますよ?」ぷいっと顔を戻すとエータの胸に顔をぐりぐりする。


 「うぉぉぉ……リリちゃん……」悲しそうに呟くと、スックと立ち上がり集落へと駆け出す。

 「うおおおぉっ!ローゼぇぇ!ただいまぁぁ!」


 「ジルさん行っちゃったね」

 「あ、かーちゃんだ!」ジークも遠くでガハハと笑う母親を見つけて駆け出す。

 デミドフ達もそれに付いて足を速める。


 「これがリリちゃんにゃ?」シンディがエータの後ろから声を掛ける。

 「にゃ?」リリの耳がぴくりと反応する。

 顔を上げるとエータの肩越しに銀毛のネコミミ美少女が正面に現れる。

 「ん!……んほぉぉ!ぬ!ぬこみみもっふもふ!まぢっすかぁ!キタコレ!むほー♪」

 大興奮のリリは両手をバタバタとシンディをもふるべく暴れだす。

 「はじめましてリリちゃん、シンディ・サイベリアンにゃ!よろしくにゃ」

 差し出された手をエータ越しに小さい両手で握りしめる。

 「はじめまして、リリ・ボストークです、ふひひひ、きゃゎゎ、よろしくおねがいされます」

 「変わった子供にゃね?」

 「そう?可愛いでしょ?ねー、リリちゃん」

 「んー♪」リリはもにもにとシンディの手をこね繰りまわす。ニッコニコ満面の笑顔だ。

 「リリちゃんただいま、ご満悦だね」

 「いつも通りね、ただいまリリちゃん」

 ホルムとキルスが声を掛ける。

 「あー!キルスちゃん!おかえりー!」

 エータから離れ、ホルムを一瞥するとキルスに抱きつく。

 「おっぱい!」

 もにゅんもにゅんと顔を埋めてしがみつく幼女。 

 「はいはい、んー!可愛いわねぇ」きゅっと抱き締めると、負けじとリリを撫で回す。

 「あはははは♪」

 「うふふふふ♪」

 「「うらやましい」」

 「何言ってるにゃ」

 するっとエータの背後を取るシンディ。

 ぐわしっとホールド態勢に入りエータを抱き締める。

 「はっ!シンディたん!」

 「にしし、遠慮はいらないのにゃ」


 

 気絶したエータをホルムが背負いエータの家に運ぶ。

 リリはキルスとシンディの真ん中で手を繋がれ満面の笑顔だ。


 ホルムが扉を開けるとジルがローゼを後ろから抱き締め二人でゆらゆらと揺れている。

 「あ」

 「あ」

 「あ」

 静かに、速やかに、パタリと扉を閉じて一息入れる。

 「どしたのにゃ?」

 「あー」ニヤニヤと微笑むキルス。

 「うん」コンコンとノックをして再度扉を開けるホルム。

 

 「げふん!あー、またシンディちゃんがやっちゃったのか」何故か棒読みのジル。

 「ごめんにゃさい」

 「あらあら、エータちゃんおかえりなさい」ローゼはホルムの背からエータを抱き上げ髪の毛に頬擦りする。この際、細かい事は気にしないらしい。

 「えーと、はじめましてローゼさん、シンディ・サイベリアンにゃ!ペロウの娘にゃ!しばらくお世話になります」

 もふもふぺこりんちょだ。

 「むふぅ、きゃわわ!」いかがわしい目付きのリリ。何処を見ているのだ。

 「あら、可愛い。ちょっといいかしら」ぽすりとエータをベッドに下ろすとシンディと向かい合う。

 がばっと抱き締めると「あぁぁ、可愛い……獣人の女の子。んふぅ♪」さすさすと恍惚とした表情で撫で回す。

 「んにゃぁ……ローゼさん、そこは……ダメにゃぁぁぁ」

 執拗に尻尾の付け根辺りの腰回りを擦り続けるローゼ。

 「にゃふん」シンディは腰砕けて膝を付く。

 「あら、かわいらしい」もふりもふりと撫でまわす。

 「んなぁぁ」

 「はいはい」

 ぐったりと体をローゼに預けるシンディ。

 「にゃぁ、かぁちゃん……」

 ゴロゴロと喉を鳴らして脱力する。

 「ぐへへへ……」だらしない表情で舐める様に上から下、右から左と、視線を動かすリリ。その仕草は指をわきわきとエロ親父そのものだ。

 「リリちゃん、めっ!」

 「あぃー」しゅんと小さくなるリリ。

 「ようこそシンディちゃん」ローゼのもふもふは止まらない。

 

 

 エータが目覚めると、もう外は薄暗く夜を迎え入れようとしていた。

 集落の広場では何やらガヤガヤと楽しそうに騒がしく人が集まっている様子。

 ジルたちが持ち帰った肉を分けているうち、たまには皆で宴でも行うか。と、火を焚きゴザを敷き食べ物飲み物を持ち寄り自然に集まって。


 「にゃははははぁ!」

 遠くからシンディの高笑いが聴こえてくる。

 お立ち台で猫ダンス?

 テンテコテンテコと独特なリズムでひょいひょいと身体をくねらせる。

 剽軽(ひょうきん)に見えて何処か儚げな。

 

 広場へと歩いて行くエータに少年が声を掛け走り寄ってくる。

 「エータ君!どうだった!?魔物凄かった?ねぇ!ねぇねぇ!」

 乳兄弟のタンク君だ。

 「獣人の子なんて初めて見たよ!可愛いねぇ!一緒に魔物倒したの?」

 人の少ない集落で兄弟の様に育ってきた二人だが、エータと違って魔法を鍛練している訳でもない、普通の子供だ。

 「うわぁ、楽しそうだねぇ!あの子、シンディちゃんだっけ?」

 ジルに連れられ森の仕事を手伝いに出たエータとは違う。木訥な両親と畑を耕し魚を獲り日々を穏やかに過ごす。

 「エータ君!お話聞かせてよ!」

 少しだけいつもと違う宴の雰囲気に頬を紅潮させている。

 「うん!タンク君!じゃあ何から話そうか」

 

 「ふわぁ、良く大丈夫だったねえ。冒険者が四人も食べられちゃったんでしょ?そんなにおっきい魔物、よく倒せたねぇ」

 「凄かったんだぜ!エータがでっかい魔法の水でバーン!ゴボゴボッて!そこから皆で一斉に攻撃だよ!」

 「そう!アルクのおじさんがおもいっきり斧を振り回して当てても倒せなかったのにな!」 

 いつの間にかデミドフとジークも参加してワイワイと土産話で盛り上がっている。

 知らない大人の武勇伝じゃなくて、いつも一緒に遊んでいるエータがそんなに凄かったのか、僕にも出来るかなぁ、そんな事を考える。

 「デミドフ君は解体が上手で、ジーク君は戦いに向いてるから訓練すればいいってアルクさんが言ってたよ」

 「えー!あのオヤジが?本当に?えー。剣術頑張ろうかなぁ」

 「そうなの?解体上手いって?」

 にへらにへらと薄笑いの二人を見て。

 「僕もやりたい!剣術とか魔法とか!ん!冒険者!」

 子供には良くある事だろうが。周囲に感化されてタンクの目はキラッキラになっている。


 「うひゃひゃひゃー!」大人たちは酒が入り盛り上がっている。女衆もやいのやいのと楽しそうだ。

 「ねぇ!ジルさん!僕も一緒に訓練したいです!」タンクは大人たちの宴に混じり込みジルに直訴する。

 「んあ?いいぞー!タンク君!頑張りたまえ!なはははは!」

 「あー?タンクも剣を覚えるのか?おー!せいぜい頑張れよ!」

 酔っ払った大人たちはへいへいと適当な返事をしながら杯を重ねる。

 

 「みんなー!ジルさんが僕も参加して良いって!頑張るぞー!」

 「おー!やったな!当たったら結構痛いし泣くなよ?」

 「良かったねー!」

 「そういやタンクは生活魔法とかとーちゃんかーちゃんから教えて貰ってるのか?」

 「うーん、まだ。教えてもらわないと、ダメだよね」

 「ジルさんの強化魔法は分かりにくいからアレだけど、魔力の使い方は知って無いとねー。教えてもらいなよ」

 「んにゃはははぁ!」

 「頑張ろうね!」


 おそらくは、酔っ払ったジルの軽口だっのだろう。翌日の訓練では一悶着在ったのだが、タンク君も参加する運びとなった。


 「うーん、俺、そんなこと言ったっけか?」


 

 

 

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