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少年期 おうちへ帰ろう。

 エータは後頭部への地鳴りの様な(いびき)で目が覚める。

 深く寝入っているとさほど気にもならず、寧ろ少しばかり心地よいとも感じるのだが、一度気になり出すと目が覚めてしまう。

 ジルの二の腕を枕にし、抱えられるように、足もきっちりとホールドされている。

 体温の高い子供は春先の朝には懐炉代わりに丁度良いのだろう。

 「うーん、熱い。とーさま、熱い」

 ジルから逃れモゾモゾと毛布から這い出すと、朝のお務めの準備をする。

 「ぶぇっくしょい!」

 ジルは急に毛布に入り込んだ冷気に勢い良くくしゃみをすると裾を抱え込みふるふると丸くなる。


 「あら、エータ君おはよう、今日もお務め?」

 「あ!みなさんおはようございます」

 「おう、おはよう、ジルさんのイビキか?」ガハハと笑いながらにそのテントの方を見る。

 「んと、いつもこのくらいに起きるので」苦笑いをしながら座禅を組み、深く息を吐き瞑想の準備に入る。

 「あ!お姉さんもまぜて!」とデレクがエータの向かいにちょこんと座り両手を差し出す。

 「はい、よろしくお願いします」

 二人は手を繋ぎお互いの流路に魔力を通わせる。

 

 「ありがとうございました」

 互いに座礼をする。

 「勉強になったわ、私もなるべく欠かさずに訓練しなきゃね」顎に細い手を当てフムフムと頷く。

 「あのー、デレクさん?デレクさんって風の魔法が得意なんですか?」

 「へ?ええ、まぁ、攻撃魔法はあのデカブツに通用しないレベルだけどね、補助魔法の方が得意かな」

 「へぇ、そうなんだ」

 「いつも助けられてるよ」とゴズがエータの頭を撫でる。

 「あら、雪でも降りそうね」

 「あ?別におかしか無かろう」

 「そんなこと言われたのってパーティー組んだ頃以来じゃないの」クスクスと微笑むと「頼れる盾のお陰で生き延びてるのよ」

 「あがががっななな……」ゴズの顔は真っ赤になるとあたふたと照れている。

 ヨルグはゴズの背中をバシンと、「お互い様だな」と軽口を叩く。

 フィルは声を殺して笑い転げている。


 「あのぅ、皆さんは怖く無いんですか?あんな化け物と戦うって」とエータは口を開く。

 エータの感じたそれは魔物の闊歩する世界に産まれた者には無い感覚だったのかも知れない。

 冒険者の四人はきょとんとした表情になると、それぞれに答える。

 「怖いかどうかと言われりゃ怖いわな」

 「あのでっかいのはヤバかったね、漏れそうだったよ」

 「あ?漏れてたんじゃねぇのか?」

 「久し振りに覚悟したわよ」 

 「漏れるのを?」

「違うわよっ!判ってるでしょ!目の前で若い子が食べられちゃって!ねぇ!」

 「うふふ、そうだね」

 「怖いってより、死にたくない。ってところかな」

 「あー、そうね、怖くても動かないと死んじゃうからね」

 「俺が食われりゃ、次はヨルグが足止め、そこからフィルとデレクが逃げ切れば勝ちって展開目前で戦ってたからな」

 「そうそう、あんな化け物と計画外でばったりとかもう勘弁だけどね、倒すってのも目的だけど全滅しちゃ意味が無いからね。仲間を生きて返すのも冒険者の仕事」と、いつも伏し目がちなフィルが自信満々に突き出した胸をぽすん叩く。

 「さぁ、朝飯の準備始めないとな!腹が減った!」

 のそりとゴズが立ち上がる。

 「……え?スルーするの?これ」

 捨てられた子犬のような細い声でフィルが呟く。


 死の恐怖は常に側に在る。

 如何に乗り越え守るのか。


 ゆらゆらと立ち上る炊煙を見つめボーっとしているエータ。

 ずっと肌で感じて判ってるはずの感覚に違和感を覚えた。

 魚を食い肉を食い、テロや戦争のニュースを見る。毎日のように誰かが殺されたり自殺している。

 いつも隣に在る「死」なのに何処か他人事の感覚。

 頭の中の彼は常に視界のど真ん中に在るのにそれを直視していないのだと、はっと気付く。

 

 「ああ、そうか」

 

 「にゃにが?」

 

 「うわぁぁぁっ!」

 突然視界を塞ぐシンディのドアップに悲鳴を上げる。

 「そんなに驚くことないにゃ!プンスコ!」

 「あー。ゴメンねシンディたん、ちょっと考え事してたんだ」

 「ふぅーん、もうご飯出来るにゃよ?」

 「シンディたん……あのね?」

 「にゃ?」

 「うん、何でもない……今日の朝ごはんは何かなぁ?」

 「にゃはは」

くいくいと手を引っ張られ朝食へ向かう。


 「だからあんなに生き生きとしているんだ」



 「うまい!うまい!」いつものようにアルクは上機嫌で飯を食う。 

 「はぁ、味噌が食えるとは思わなかった。エータ!知ってるか?これはドワーフの調味料なんだぞ?懐かしい」


 なんの事はない、今日の朝飯の当番が本村落からの男衆だった、塩豆を持たされていて、帰りも近くなり使いきろうと料理に使っただけなのだが。

 アルクはいつもより上機嫌だ。

 使い方が良かった、粗く叩いた味噌を薄切りにしたグレートボアの肩肉ではさみ、こんがりと焼いて甘辛く味付けしてサンドイッチにした、干しキノコがたっぷりと入ったスープにも味噌が溶かれている。

 アルクの胃袋はがっちりと掴まれた。村落から味噌を分けてもらう算段を取り付けてホクホク顔になっている。

  

 不意にエータが声を上げる。

 「アルクさん!アルクさん!しょーゆ!しょーゆの作り方知りませんか!?」

 「あ?味噌が在るならたまに溜まりが取れるだろ?それじゃ駄目なのか?ドワーフの醤油はそもそも作り方が違うからな」

 「教えてください!しょーゆの作り方!お願いします!」

 「うーん、大体の作り方はわかるが、種が無いとな。味噌は何処で出来たって?」

 アルクは振り返り村落の男に声を掛ける。

「村の外れの湯の湧く岩室で保存してた塩漬けの豆がこれになったんですけど」

 「ほう、じゃあ種は何とかなりそうだな、タダでってのもアレだなエータ、交換条件でどうだ?」

 アルクはニヤリと笑うとエータの耳許でヒソヒソと何かを呟く。

 「えー!登り釜の作り方と交換ですか?」

 「おう、悪かねぇだろ、木こり小屋は手数だけは一杯在るからな!」

 「内壁の資材は僕が作らないとダメなんですよぉ?」

 「まぁまぁ、エータ、俺ん所に遊びに来る口実が出来て良いじゃねぇか」

 「はぁ、じゃあ、よろしくお願いします」

 道すがらアルクとエータは楽しそうに打ち合わせをしながらに歩く。

 小屋近くの手頃な丘を削って窯に仕立てる、だからアルク達には素焼きの煉瓦を相当数焼いておいてもらう。内壁の資材だけはエータが魔法で精製する。細かい気泡の入った煉瓦を用意するつもりだ。

 炭だけじゃなくて焼き物も作りたいだとか。

 エータは本村落の岩室で醤油を作るための種の作り方をアルクから教えてもらう。蒸した米と小麦を混ぜて岩室に置いて置けば白い粉が吹く。それが醤油の種らしい。

米だけだとアルクの好きな酒の種になるらしいので一緒に仕込むつもりだ。

 たぶん、きっとこれ、麹の作り方だよね。と思いながらに。



 日も暮れかけた頃にようやく一同は木こり小屋に戻って来た。

 一週間程度の行程だったが、久し振りに屋根と壁に囲まれゆっくりと睡眠が取れる。

 特に馴れていない子供たちは皆、その日早々に泥のように眠りに就いた。

 

 広間の囲炉裏を囲むように皆が集まる。

「お疲れ、少し被害者が出たが何とか間引き出来たな、あのデカブツは想定外だった、報告ついでに遺品は俺がギルド本部に持って行く。ちゅうことで冒険者諸君とはもう暫く同行させてもらう」

 「お疲れ様でした、アレさえ居なけりゃ楽だったんですけどね」

 「うん?エータ君と子供たちもしっかり仕事したからでしょ?挟み撃ちは結構危なかったよ?」

 「おう、そうだな。ガキどもも仕事を覚えたしな、がっちり解体覚えてただろ、デミドフは素材の扱いに関しては筋が良いぞ、戦闘はまだまださせられないがな」

 「ジーク君は戦闘の方に見込みがあるね、ジルさんがしっかり鍛えれば数年でそれなりになるんじゃないかな?」

 「私はエータ君と修業したいなぁ」

 「おい、エロ魔導師」

 「俺もエータと修業したい」

 「ペロウが言うと怖いな」

 「違いない!」

 「なんでだ!」


 反省会みたいなものだが、賑やかに笑い声が飛び交う。

 

 「とっておきを出すか!今日は酒盛りだ!」

 酒好きのアルクが一週間近く禁酒していたのだから反省会なぞ名だけと言わんばかりに切り出す。


 「ふふふ、そう言うと思って仕込んどきましたよ」とジルは小箱を何処からか取ってきて焼き網を火に掛ける。

 ローゼが良く作ってくれる小魚の味噌漬けを準備していたらしく自信満々に焼き始める。

 味噌の焦げる香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 「おい、ジル丁寧に手早くしないと、焦げるぞ、いい、俺が焼こう」とアルクが取って変わると、ちゃっちゃと手際よく、焦げすぎない様に火を通していく。

 「ほれ、焼けたぞ」と酒を片手に肴を皆に配りながらも時折自分の口に放り込む。

 「ほふっ、うまい、今回のジルの手柄はこれだな」

 「ちょ!俺頑張りましたよね!アルクの大将!ねぇ!」

 「ふん、それも霞むくらい旨いって事だ、良い奥さんを持ったな」

 「でへ、ですよねぇ」

 

 それぞれ歓談しながら酒を酌み交わす。


 ペロウは大きな身体を丸めてちろりちろりと舐めるように酒を飲んでいる。少し冷ました焼き魚をモシャモシャと口に入れるとまた酒を舐める。

 「うむ、旨い」

 アルクに仕事を取られたジルは、どすりとペロウの横に座り酒を飲み始める。特に何かを言う訳でもない。

 

 「これも食べて下さいよ!」とキルスが皿を差し出す。小さくカットした山鳥の肉を何かと一緒に炒めたものだ。

 「へへへ、ピメントとペッパー、レッドチリで炒めた僕の故郷の料理です」ホルムが自信ありげに説明する。

 「うおおおっ!辛い!」ひょいっと一口摘まんだペロウが叫びを上げ、ぐいっと酒を飲み干す。

 「おい、ペロウ、大丈夫か?」

 辛さでハヒハヒ良いながらもフラフラと水を求めて歩き出すとバタリと倒れる。

 「あー。一気に飲むから、弱いのに」


 「やっちゃった?かな」

 「あー、ほっとけほっとけ、子供部屋に放り込んで水を置いといてやれ、にしても酒が進む辛さだな、こりゃ良い」


 名々にツマミを出し合いながらに宴会は夜半まで盛り上がり続けた。


 「うーん、暑い」

 誰かが余計に毛布でも掛けてくれたのかと暑さに寝苦しくなり目が覚める。少し向こうにシンディが丸くなっているのが見える。彼女に抱きつかれているわけではなさそうだ。枕もふさふさと気持ちいい、ん?枕なんてあったっけ?

 頭上でスピスピと寝息が聞こえる。

 大の字になっているペロウの腕枕で腕から脇腹のフサフサした猫っ毛に寄り添って寝ていたのだ。

 お互いに無意識で、ペロウはエータの毛布を剥ぎ取り、エータは毛布に引かれてこの態勢になった様子。

 おそらく丸くなっているシンディは毛布から取り残されたのだろうか。

 シンディを転がしてペロウの脇に納める。

 

 部屋の扉を開けると散々な有り様が目に入る。宴会そのままに雑魚寝する大人たち、中には酒樽を抱えて寝ている者も……アルクだ。

 エータはカチャカチャと転がっているジョッキと皿を集めて洗い場の水桶に放り込むと、チリチリと鳴きながら白い灰を被った炭に薪を足す。

 部屋の隅に積まれた毛布を一人ずつに掛けていくとその内に部屋に暖が戻ってくる。

 「風邪ひいちゃいますよぉ?」


 静かに外へ出ると空を見上げる。

 満月がほんのりと紅を滲ませた東の空に煌々と佇んでいる。

 星の大河が帯を振りゆらゆらと天の暗闇に瞬く。

 少し肌寒いが音の無い筈の空間に星のヒソヒソ話が聞こえてくるような気がする。仄暗い林の中でただ一人だけが起きているのを、少し懐かしい感覚で佇む。

 頭の中の彼の記憶とシンクロする。


 幸せを求めてたのに、幸せかどうかはわからないまま。

 懸命を口に出してても懸命では無かったと思う。

 何処か他人事のような反省を思い返す。

 彼が何をしたかったのか。

 僕は何をしたいのか。


 「母さまの顔が見たい。リリちゃんは元気にしてるかなぁ」

 たかが一週間、されど一週間。

 少し時間は早いが朝の鍛錬を始めるか、とエータは軒下で瞑想を始める。


 そうする内に空が白みだしてくる。

 辺りが明るくなり始めると、エータは軒下でコリコリと金のインゴットをヤスリで削り、粉にしていく。キルスの指輪の装飾に使う為に。

 

 背後でカチャリと扉が開く。

 ホルムとキルスが支度をして外に出てきた。

 「あ!」ホルムが驚いて声を出す。

 「あ、ホルムさん、キルスさんおはようございます」

 「びっくりしたよ。おはようエータ君、こんな所で……」

 「秘密の作業なので、見ないで下さいね、いしし♪」

 「あー。そう言うことね。期待してるよ」

 「お二人も早いですね?お出かけですか?」

 「あー、出発前に仕込んでたのを回収にね、皆が起きてからだと時間が無さそうだし。結構な数の蜜壺を掛けてるからね」

 「サトウカエデでしたっけ?じゃあ、お手伝いしまーす!」 

 「うふふ、ありがとね、じゃあお願いしちゃおうかしら」

 さっと金粉の乗った懐紙を畳むとインゴットと一緒に片付ける。

 キルスに手を繋がれ早朝散歩だ。

 木の幹に引っかけられた壺は並々と樹液を溜め込んでいる。

 「重いからエータ君にはまだ無理だね」とホルムがてきぱきと蝋紙で蓋をしてから腰を入れて重い壺を持ち上げると魔法袋に収納していく。

 「これだけ集めても壺1つでグラス半分もシロップが精製できないんだよ?ちょっと舐めてみる?」

 「はい、じゃあ……むぅ、全然甘くないです。これを煮詰めたら甘くなるんですか?」

 「そうそう、帰ってからのお楽しみ、だね」

 三人は順番に壺回収に周りながらに採集も行う。エータにはよい勉強だ。

 先日摘んだお茶の木からは新芽が新しく芽吹いている。山椒やヒハツの実を集め、ベリーの類いを採集する。

 ホルムは無造作にイタドリの茎をポキリとねじ切り薄皮を剥いで口に入れる。

 「うん」と一言呟くとエータとキルスにも手渡す。

 しゃくしゃくと噛めば瑞々しい酸っぱさが口に広がる。

 「すっぱぁ!」

 「エータ君はこれ初めて?」

 「うーん、多分初めて、でも、なんか懐かしいです」

 「ふぅん、疲れが取れるからね、水分補給にも良いし。覚えとけばいいよ」

 「それにしても結構な数を仕込んでたんですね、そんなに時間なかったのに」

 「樹に切り込み入れて置いとくだけだからね。固定するのなんて知れてるし」

 

 一通りの回収を終わらせて木こり小屋に戻ると朝食の準備を始めた若い衆がモゾモゾと作業をしている。グレートボアとシルバーウルフの肉を塩漬けにしている者も居る。

 「あ、お帰りなさい、早いんですね」

 「うん、楓の蜜を回収にね。あ。今朝もお茶の葉が取れたから、前に乾燥させたの使ってくださいね」とホルムはお茶っ葉の包みを手渡す。

 「今朝は昨日ホルムさんが出してくれたアレを真似ておかずを作ろうかと、アレ、米にも合いますよね!絶対!」

 「アレ?」エータがホルムを見上げる。

 「あー。皆寝てたからね。酒盛りで出したおつまみがあるんだよ。辛いの」

 「あー。ペロウさんのだけ違うのが良いかも、あと、子供たちもね。甘辛いの作る?」

 「ふぅん、でも、辛いのも食べてみたいぁ」

 「ピメントをオニオンにしてレッドチリを少なくすれば良いんじゃない?何なら卵で閉じても」

 「じゅるり、それ。いただき。ナイスホルム!」キルスは試作品を作ろうと駆け出す。

 「あー!味見ぃー!しまーす!」エータはついて駆けていく。

 

 ホルムはニヤニヤと微笑みながら二人を見送る。子供が居たらこんな感じだったんだろうな。と。


 ボア肉スパイシーチリ炒めのピリ辛玉子とじ丼と根菜の味噌スープ。 

 辛さで口をハヒハヒさせているエータが大人たちに配膳する。それでも子供の舌には辛かったらしい。

 ペロウと子供たちにはボア肉スイートチリ炒めの甘辛玉子とじ丼で落ち着いた様子。

 それでもペロウとシンディは口をハヒハヒさせていたのだが。



 「おうし!ぼちぼち出るか!ジルと子供たちはここでお別れだな!」

 「アルクさん!ありがとうございました!これからもよろしくお願いします!」

 アルクには子供達の声が気持ち良い。それは彼には久しく無かった感情だった。


 アルクは冒険者たちと共に領主の治める東都チオンを経由してギルド本部のある王都アイゼンへ向かう。本村落で馬を借りて東都へ1日、そこから王都へ7日。往復で延べ20日、木こり小屋を留守にする。


 成り行きでペロウは置き役として木こり小屋に滞在する事になった。

 その間シンディはジルが預かることで落ち着いた。

 「にゃはは♪とーちゃんがんばってねー!」ブンブンと手を振りジル達と歩いていく。

 「ジル!シンディを頼んだぞ!ローゼにもよろしくな!」

 「おーう!任せとけぇ!」

 「エータ!シンディは好きにして良いからな!」

 「ペロウさん!」

 「おう!なんだエータ!」

 「アルクさんとの約束があるので木こり小屋に遊びに行きますから!すぐに!」

 「おう!待ってるぞ!」

 「にゃ!とーちゃんほっといて早くいくにゃ!」


 「ちょっと待って!」デレクが声を掛ける。

 「ジルさんとエータ君にはちゃんとお礼をしないとね。ありがとう」ヨルグがそう言うと古びた本を一冊ジルに手渡す。

 「私が覚えちゃったからね、これ。次はエータ君が使って。役に立つから」

 「え?おい、これいいのか?中級解毒の魔導書じゃねぇか!」

 「いいんだよ、皆で話して決めた」ゴズがつっけんどんに良い放つ。

 「そういうことだからね、エータ君が覚えたらまた誰かに渡してあげなよ」フィルが穏やかに微笑んでエータの頭を撫でる。

 「そういや僕がエータ君愛でるの初めてかも。うふふ、髪の毛やわらかーい」

 「おい。根暗のフィルが俺らの救世主を汚い手で触るな」ゴズアタック

 「そうよ、昨日も飲み会になったからお風呂入って無いでしょ。汚い」デレクアタック

 「そう言うことだ、速やかに手を離せ」ヨルグアタック


 やめたげて!もうフィルさんのライフはゼロよ!

 エータの目がそう訴えかける。

 「皆さんもお元気で!フィルさんも元気だして!」エータはぽすぽすとフィルの腰を叩く。

 「うん、ありがとうねぇ」

 「また、会いましょうね!」

 「そーだね。うん。頑張ろう」

 「つーことだ!エータ!また何処かで会えるといいな!お互い頑張ろうな!」

 ゴズは直接的には表現しないが、もう会えない可能性を匂わせる。そういう生き方をしているんだから。と。

 

 すっとシンディがエータの手を握る。

 「そろそろ行くにゃよ?」


 ブンブンと手を振りエータは叫ぶ。

 「また!どこかで!会いましょう!絶対に!」

 

 彼らは背を向けたままに、四人ともが後ろ手を振り歩いていく。


 「うん、おうちへ帰ろう」

  

 シンディの手がエータを引っ張る。


 うん、おうちに帰ろう。

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