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少年期 もふもふに蹂躙される。

 ザリザリザリ……


 「うん……シンディたん?ごはん?」


 

 そうだ……今日は結婚式だっけ……もう起きないと……



 ザリザリザリ……


 「シンディたん、猫舌痛いのよ……」



 天国の親父に晴れ姿見せてやりたかったなぁ……ん?


 とーさま、ジルは生きてるよな。


 お袋……?かぁさま?百合ちゃん?

 

 ザリザリザリ……ザリザリザリ……

 「もう!痛いよシンディたん!」


 

 「んにゃっ!エータ起きたにゃ!」


 

 えーと、何だ?さっき猫耳もふもふに抱き付かれて……


 「ごめんにゃさい……興奮してきつく抱き付き過ぎたにゃぁ。エータ気絶してたにゃよ」ケモミミ美少女に真上から逆さまに見下ろされてる。


 「え?ああ、そう、だっけ?シンディ……ちゃん?」


 「にゃ?さっきの『シンディたん』でも良いにゃよ?」


 夢?なんだ?妙にリアルな、何だろう?

 バシバシと両手で頬を叩く。

 「うん、痛い」

 でも後頭部が気持ちいい……あ、膝枕。ケモミミ少女のふとももが柔らかい。


 「エータ?だいじょぶ?痛いの?もっと顔舐めよかにゃ?」

 

 「えー、はい、大丈夫です」


 「あ!そうだ、おいたーん!エータ起きたにゃ!」

 外套を木組みに掛けて作った簡易テントから顔を出してジルを呼ぶ。


 どうやらシンディに締め落とされてから寝かされていたらしい、辺りから皆の楽しそうな声と一緒に血の臭いがする、グレートボアの解体を皆でやっている最中らしい。


 「お、エータ目が覚めたか?羨ましい気絶の仕方だったぞ、リリが見たら怒るんじゃないか?」と笑っている。

 「まぁ、まだまだ、解体残ってるから休んでな、リリにゃ内緒にしとくから。シンディちゃん、さっきの笛の音からすればお父さん達もすぐにこっちに合流するだろうからエータを見ててやってくれ」

 「はいにゃ!」

 「もう、父様は……」


 さっきの夢は?まぁいいか。

 「えーと、シンディちゃん?」

 「シンディたんが良いにゃ!ご主人様もそう呼んでたにゃ!エータもそう呼ぶのにゃ!」

 「は、はい、シンディたん?」

 「にゃ?」

 「ご主人様って?」

 「ご主人様はご主人様にゃ!エータと同じ匂いなのにゃ!ふっかふかの暖かい寝床に美味しいご飯を毎日くれたのにゃ!お風呂は嫌だったけど良い匂いになって毛並みも綺麗にブラシ掛けてくれるのにゃ!毎日好きなだけ遊んでゆっくり寝て、敵も全然居ないのにゃ!あそこは天国だったにゃ!」

 早口でにゃんこマシンガントークだ。

 「ふむふむ、シンディたんはお父さんと一緒に獣人の集落じゃなくて何処かの貴族様の所でお世話になってるの?」

 「違うにゃよ?生まれも育ちも大森林にゃ、獣人のいっぱい住んでる所にゃよ?ご主人様の事は覚えてたのにゃ!」

 「ん?生まれも育ちも大森林なのね?うん。ご主人様は、……まぁいいか」


 顔や腕がヒリヒリする。……ハッと何かに気付いてエータの顔が熱を持つ。

  

 「あの、シンディたん?」

 「なんにゃ?」

 「もしかして、だけど……ね」

 「ん?」

 「僕の事……舐めてた?」

 「にゃ!美味しいかったにゃ!」

 「ふぉっ!……はぁぁぁぁ……」

 「エータ顔が真っ赤ににゃったよ?ホントに大丈夫にゃ?」

 ピトリと額と額とを合わせる。

 「熱はないにゃぁ」

 「あぅあぅあぅ……顔が近いぃぃ」


 れろんっ!

 ざりっとエータの頬をシンディの舌が舐め上げる。


 「ひゃぁぁ!」

 「にゃに照れてるのにゃ、弱った子供は舐めて看病するのが獣人の常識にゃよ?」

 「もう、お嫁に行けない……」

 「エータはお嫁さん貰うほうだにゃ?」


 「うおっほん!お取り込み中すいませんがねぇ、西側の冒険者パーティーの皆さんが向こうの方に見えましたよ。もうすぐ合流ですね」哨戒していたホルムが外套の隙間から嬉しそうに声を掛ける。


 「は、はひぃ!」エータの返事は上擦った声だ。


 「お楽しみでしたねぇ旦那ぁ♪うひひ」

 「もう!ホルムさん冷やかさないでください!」

 「にゃ?まっとうな治療行為にゃよ?」

 「ふひひひ。そう言うことにしときまひょ♪……ぐぎっ!」

 キルスの手刀がホルムの脳天に両斬波する。

 

 「馬鹿言ってエータちゃんをいじめないの!もう大丈夫エータちゃん?魔法頑張ったね、みんな助かったわよ!」とエータを抱き寄せる。

 「ふごふごふご……」

 「あたしだって10年もすればこれくらいおっきくなるにゃ!負けないにゃ!」

 「エータちゃん頑張ったねぇ、ご褒美ご褒美♪」

 「ふごふごふご……ふごっ」


 「キルスちゃぁん……俺も魔法頑張ったよぉ」

 「情けない声出さない!……後でね!」

 「うぇい♪」


 「ぷはぁ!窒息しちゃいます。離してください!」体をくねらせて何とか顔だけ脱出させる。

 「あら、もういいの?」キルスは渋々とハグをほどく。

 「もったいない!」ホルムが呟く。


 「あたしもご褒美あげるのにゃぁぁぁ!」やっとの事で解放されよろめくエータの正面から飛び掛かるシンディ。

 「ぶもふっ!」

 エータの腰に蟹挟みするようにしがみつくと、顔にぺたんこを押し付ける。

 「エータありがとーにゃ!」

 ぎゅぅぅぅぅ!とエータの上半身を締め上げるもふもふハグ。

 「ふごっ。ぼぅあべべぐぇー!(もぅやめてくれー!)」

 「んにゃっ♪んにゃっ♪んにゃっ♪」ぎゅっ!ぎゅっ!ぎゅっ!と抱き締めるシンディは楽し気だが、それに合わせてエータの体がミシミシと軋む。 

 「……あべ(ダメ)」エータの膝が崩れ落ちる。

 「んにゃ?」エータが崩れるのに合わせて尻餅をつくと小首を傾げ耳をピコピコと動かす間からクエスチョンマークが見える。

 「んきゅぅぅぅ……」エータの口から変な音が漏れる。

 「あー。似たようなの、さっきも見たね。」と乾いた笑顔のホルムとキルス。



 「おーい!シンディ!大丈夫だったか!おっと、アルクの大将、申し訳ない。殆どこっちに向かっちまった。本当にすまない」

 「おぅ、嬢ちゃんはお前の娘だったのか、まぁ、見ての通り上手く片付いたから良いって事よ。みんな無事で良かった」

 シンディと同じ銀の毛並みの偉丈夫、胸と腕、脛だけに防具を着けた軽装備の戦士ペロウ・サイベリアン。二メートル近い体躯は引き締まった筋肉に包まれ肉食獣を連想させる。

 ぐわしっとシンディの頭を鷲掴みにすると、ひょいっとそのままに持ち上げる。

 ぷらーんとなすがままのシンディ。

 「ごめんにゃさい。ゆるしてにゃぁ」

 「無事で良かった。気を付けないとダメだぞ?反省しなさい」 

 「ふみゅぅ……ぁぃ」

 我が娘をアイアンクローで吊るす父親。これが獣人スタンダードなのか?

 

  

 「まぁ、下ろしてやりなよ」アルクの一声で解放されるシンディ。

 「とーちゃんは加減を知らないのにゃ。プンスコ!」

 「うん、シンディたんはお父さん似だね。うんうん」

 「ん?なんで子供がこんなところに?」


 わしっとこめかみを掴まれぷらんぷらんぶら下げられるエータ。


 「なして?」

 「とーちゃん!やめたげてにゃ!」小さな握り拳で父親の腿をペチペチと叩く。


 「相変わらずだなお前は、元気にしてたか!ペロウ!」

 ジルはエータの脇に手を入れペロウから奪い取るとその頬に自身の頬を当てる。

 獣人流の親愛の挨拶らしい。

 「ジル!久しいな!息災だったか?」

 「息災もなにもこれは俺の子供だ、お前もかわいい娘を連れて来てるだろうが。」

 「おう、スマンスマン。悪かったな坊主」

 「はい、初めまして、エータ・ボストークです」

 「うむ、ペロウ・サイベリアンだ、お前の父とは旧知の仲でな。宜しく頼む」

 「とーちゃん、エータの魔法は凄いにょよ。グレートボアなんて群れごと泥沼に沈めちゃうにゃ!エータとおいたんがあたしを助けてくれたのにゃ!」

 「そうか、ジル、エータ、改めて礼を言う。ありがとう」

 ペロウはエータを抱き上げると顔に頬を当て擦り回す。猫類がよくするあの仕草だ。

 見た目の厳つさとは逆に、毛並みはさらさらと柔らかく少し高めの体温と合わさってとても気持ちいい。  

 「えへへへ、おじちゃんのほっぺ気持ちいい……」

 「まぁ、シンディちゃんの救出はアルクの指揮ありきだから気にするな。お互い様だろ。」

 「そうは言ってもだ、此方のミスでだな……」

 ペロウの言葉を遮るようにアルクが言う。

 「まぁ、お互い様と言っとるだろうが、誰も怪我1つ無くこれだけの成果だ。上等上等、こっちは狼の群れ一個潰してるし猪の肉と素材は半分西のパーティーで持ってけや」

 背後では合流した面々合わせてせっせと猪の解体が続けられている。

 「そうは言ってもだな……」ゆっくりとエータは下ろされる。


 「いしし、あたしもやったげるにゃ!」シンディは背後からエータにしがみつくとすりすりと…次第に力が入りエータの上半身はまたもや締め上げられる。

 「ありがとーにゃぁ♪」細い腕が首筋に絡みつき逆方向からはもふもふの頭が押し付けられる。丁度頸動脈が圧迫され、シンディの動きに合わせてくいくいと締め上げられる。

 「ぐ、ぐるち……」エータは力無くシンディをぱしぱしとタップするが。



 

 エータはもふもふに蹂躙される。


 


 一同は夕食を済ませ休憩に入る。アルクは夜番を三つに割り哨戒と警戒に当たらせる。一陣は夜半まで、子供とギルド派遣の冒険者の半数で、二陣はジル達木こり小屋の面子。三陣は冒険者の残りにアルクとホルム、キルス。大体で戦力を三等分にするのと、追い込みに於いて主戦力となるギルドの冒険者になるべく疲れが残らないように、との配慮が含まれる。

 「それでは皆、各々の配置で疲れを残さない様に、解散。」

 「アルクの大将、俺は夜目が効く。ジルとも話をしたいし二陣に加わりたいんだが」

 「おう、それならペロウは二陣に回ってくれ。朝は俺とこいつらが居りゃ足りるだろうしな」チラリとホルム夫婦を見る。

 「ありがたい。では、少し仮眠を取るか、シンディ、交代時間に起こしてくれ」

 「はいにゃ!とーちゃん、ゆっくり寝るのにゃ」



 「お兄さんは今までどんな依頼をやってきたの?ダンジョンとか行った?」

 「お兄さんの武器カッコいい!見せて見せて!」

 デミドフやジークは若い冒険者に興味津々、キラキラした目で話し掛ける。


 こういった夜警で焚き火を囲み、周りに注意を巡らせながらも交流をするのはとても楽しいもの、ベテランや先輩冒険者の話やアドバイスを聞ける滅多にないチャンスでもある。

 特に、中央の伝聞すらほとんど流れて来ないような辺境の集落で育った子供にとっては興奮を抑えろと言われてもそうはいかない。

 薪と荒縄でロープワークの講習をしたり、ナイフの手入れを実際にやって見せたり、魔物の習性についての考察を冒険者同士で交換しているのを横で聞いたり。

 さっき初めて顔合わせしたのにも関わらず、すぐに打ち解け交流を深める。

 エータも他聞に漏れずじっと冒険者の話を聞き、目を凝らして技術を見る。

 「お兄さんのナイフの刃は片面を広く研ぐんですね?何でですか?」

 「おう、エータ君だっけ?自分の癖ってのかなぁ、毛皮の剥ぎ取りするのに刃を入れやすいんだ。削ぐのに良い塩梅を色々試してこうなったんだ。」

 「へえー!じゃあ真似しても綺麗に剥ぎ取り出来ないかも?」

 「あははは、勉強熱心だな。まあ、こういった技術を真似しながら少しずつ直して行くのが上達に近いんじゃないかな、明日にでもやってみると良いよ」

 先達のアドバイスは値千金。瞬く間に時間は過ぎる。


 「そろそろ交代だな、二陣を起こしてやるか。」

 それなりに人数が居れば三時間程度は直ぐに過ぎてしまう。


 ふわぁぁぁ。と欠伸をしながらもシンディがペロウを起こしにテントに向かう。

 エータ達も木こり達の寝床に声を掛ける。



 春の係りで夜風が少し肌寒い、木々の拓けた広場が野営場。

 見上げれば満天の星に満ちようとする十日月が昇ろうとしている。

 薄ら明るい夜空に対比して焚き火は木々を下から照らし、時折パチパチと(たきぎ)の爆ぜる音が響く。


 ジルとペロウは焚き火を挟み相対し腰を落ち着けて居る。

 ぼそりぼそりと当たり障りの無い話をしていたのだが、ふと。

 「そういや、シンディちゃんを連れて来てるのな、お前、奥さんとは仲良くやってんのか?」

 「ああ、亡くなったよ。男衆が留守の間にな、奴隷狩りに集落が襲われて……」

 ぎゅっと目を瞑り肩を震わせる。

 「シンディも危なかったんだ、川の下流でな、背中に矢を何本も受けて倒れてるのを行商の一団が見つけてくれて、な」

 「そうか、すまない。悪い事を聞いてしまったな」

 「いや、知ってる顔にこうやって話すと気が晴れる。たまに怒りと悲しみに潰されそうになるんだ。シンディが独り立ちすれば……」ペロウは怒気を押さえつけるように、無理に笑みを浮かべる。

 「うむ、ジルこそ良い息子を得たな。シンディも気に入ってるようだし、お前に良く似ている」

 「ああ、そうだな」伏し目がちに少し困ったような表情で答えるが、ペロウの目をしっかりと見ると、「エータは拾い子なんだ、先のゼピュロス領の戦災孤児でな」ペロウは無関係だと思いつつも獣人に襲われ滅ぼされた国の生き残りだと伝える。

 「俺の姉上の息子だ。……エータは」


 暫しの沈黙の後、ペロウの背後のテントから目を真っ赤に涙を浮かべたキルスが顔を出し、「ごめんなさい、目が覚めちゃって、全部聞こえちゃった……私もそっちに行っていいですか?」


 他の当番とも目配せをし、安全を確認しながら三人は話をする。


 「で、ペロウさんはどうするつもりなんですか?シンディちゃんが独り立ちすれば……復讐するんですか?」

 ペロウはすぐに返事をしない。だが、ゆらゆらと燃える炎を見つめる目は厳しい。

 「復讐をしようにも相手が知れぬしよ。シンディも相手の顔を覚えてるか判らんしな、まぁ、それをシンディに聞くつもりもない。……辛いだけだしな。ただ、許しはしないし、機会が在れば八つ裂きにしても足りない」

 向ける相手も知れぬ怒りを如何に抱き沈める術が在ろうか。自身が生きることより娘を生かす事を優先に思えど、常に紅くいこり続ける炭火の様に怒りは熱を持ち続ける。

 「エータちゃんもシンディちゃんも良い子ですよ?」覇気をさらりと流すようにキルスは呟く。まだ泣いた後の赤い(まなじり)を残したままにしっかりとペロウを見る。

 これからを生きる子供達と彼の持つそれは相容れないと、はっきり主張する。

 「俺は……疲れたんだよな」ポツリとジルが胸から放り出す様に小声を発する。

 「ペロウは知ってるだろ?俺は実家が嫌で放逐したんだ、家督を継ぐのは兄貴が居るし、次男坊は部屋住みで飼い殺し?そんなの耐えられなかった。貴族のやり方に疲れはてたんだよ。全部棄てて生きたかった。冒険者になってローゼに出会って、それから変わったのかなぁ。やっと生きてるって思える様になったよ。可愛い息子と娘を抱いてな」

 「ああ、知ってるよ。だから失ったのが……」

 「おう、でもな、シンディちゃんにはお前しか居ないんだぞ?」

 ペロウは笑ったような泣いたような何とも表現しにくい表情でジルを見る。

 「どうしたら良いんだろうな。あいつが静かに眠れるようにしたいだけなんだよ……でも野放しにしちゃ為らない奴が居るんだ」  

 「うん、ウチのクランに行ってみるか?ミザール様知ってるだろ?」 

 「武曲の?蒼天の七星にか?」

 「ああ、ギルドの依頼消化が目立ち過ぎて隠れてるけどな、元々は奴隷狩や族退治を目的に集まったクランだからな。ローゼがそうだったし。俺も力になりたいと思ったから、うん、気が向いたらで良い、ペロウが判断すれば良いし」

 「わかった……うん」

 「ジルさんもペロウさんも、もう暗い顔はもう止め!」

 「うむ。そうだな。うむ」

 「ぼちぼち朝番と交代か?さっさと交代して仮眠するか!」

 ジルはてきぱきとテントを回り当番を起こして回る。

  

 「じゃあ、少し寝るか、キルスちゃん、後はお願いな」


 「シンディが居ない!」ペロウが自分のテントに入ると誰も居ないのに声を出す。 

 「ペロウ!ちょっと。こっちに来い」ジルが自分のテントを覗き込んで呼ぶ。

 小さく膝を抱えて丸まって眠るエータの背中に添うようにシンディが寄り添って寝ている。

 「可愛いなぁ」

 「むぅ」

 「なんだ?妬いてるのか?」

 「むぅ」

 「ペロウの意外な一面を見れて嬉しいわ」

 「はぁ?」


 「かぁちゃん……」シンディがポツリと呟く。エータの背に身体を擦り付ける様に身を捩り掻き付く。

 寝返りを打ったエータはシンディの肩口を抱き寄せる様な体勢になるとその背中をさすさすと撫で下ろす。

 「えへへ、かぁちゃん……」ニヤニヤと笑みを浮かべるシンディを見ながら「ジルよ、今日は俺のテントで一緒に寝るか」ペロウは真顔でジルを見る。

 「ああ、そうだな。邪魔しちゃ悪いな」

 「そういう意味ではない、いや、違わないか。シンディがお前の義理の娘になるってのも……悪くはない」

 「相変わらず気が早いな。そんときゃそれで楽しそうだがな。まぁ、今日は寝ようや。何年ぶりだ?お前と二人で寝るったらよ?10年か?」

 「そんなもんか。まぁ、悪くはない。」

 「言っとけ。もう寝るぞ」

 「ああ、おやすみジル」

 「おやすみペロウ」




 

 「キルスちゃんどうしたのよ?」ホルムが眠そうな目を擦りながらに聞く。

 「目が赤いよ?泣いたの?」

 「ううん。なんでもないよ?」

 キルスはこそこそとエータの眠るテントを覗きこみ目をこしこしと擦る。


 可哀想?いや、今この子達が生き生きとしているのが事実。何かを抱え込んで塞ぎこんでるなら、そのときはなるたけ側に居てあげよう。

 きっと我が子が居たならこんなこと感じなのかな?と思いつつも、いつもの顔でホルムの側に添うように、「ちゃんと見張りしないとダメだかんね!」と活を入れる。

私はこの子達に何をしてあげれるのかなぁ?

添って眠るエータとシンディを見ながら、うっすらと白みつつある紫の夜空を振り返り見上げる。

 

 

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