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少年期 鍛錬と発見

 それは(はた)から見れば幼児虐待にも見える光景。


 エータとジルが剣術の訓練を始めどれくらいの月日が経っただろうか、未だ剣戟を受け流す訓練を地道に続けている。

 手加減はしているのだが時に折り込まれるフェイントや気合いの乗った一撃がエータを撥ね飛ばす、ジルは初級回復魔法を掛けてやるが、直ぐにエータを構えさせると次の一撃に向けて構える。時間が許す限りただただ繰り返す。


 状況を見知らぬ者ならば無抵抗の幼児を大の大人が叩きのめしているだけに見えるだろう。


 それを集落の女衆は眉を潜めて見ている、ローゼから理由を聞いてはいるものの、あまり気持ちの良い光景ではない。利発で良く手伝いをしてくれるエータが可哀想で仕方無い、冒険者上がりでない者にはここまでやる必要が在るのかが理解出来ない。


 ただ、男衆の見方は違った。特に子供たちにはとても魅力的に見えたらしく、父親に指南をねだったり、自身で手頃な枝を見つけて来て素振りをしたり、チャンバラごっこをしたり、本能的な憧れに流されるままに真似て遊ぶ。


 その内に怪我をしたり、年上の子に泣かされ母親に泣き付く子が出たり、所詮子供のお遊びだが、大人たちはジルに剣の基本だけでも教えて貰えないかと相談を持ち掛ける。


 「まぁ、教えるの事には(やぶさ)かではないんだが、実戦でこの子たちがちゃんと使えるかどうかは責任持てないぞ?エータにしても魔法を使う前提で受け流しと体を捌く訓練をしてる訳だし」

 「そうだよな、でもさぁ、ガキ達が剣術に興味津々になっちゃってるからさ、型の素振りと打ち込み程度で良いから見てやってくれないか?冒険者上がりの若夫婦サポートに付いて貰うから……」

 渋るジルに子供たちもおねだりをする。

 最年長の男の子、デミドフ君は11才、村の手伝いを進んでやっているが集落の近くの仕事ばかりで森の方へはまだ行かせて貰えない。

 「ジルさん!おいらも来年には12になるんだ、木こり小屋の手伝いもしていきたいんだよ。護身術の1つも身に付けてないから……お願いします!ジルさん!」

 ミザールに転生者と言われたジーク君も続く、「ジルさん、お願いします!ジルさんみたいに剣を使いたいんです!」

 その他男の子達も目をキラキラさせながら後ろに付いている。


 「しゃーないか、でも、暫くは基礎訓練だけだからな、実戦形式の訓練は身体と基本の型が出来てから、ちゃんと防具を着けて行う。それまではエータと同じように受ける、流す、かわす事を覚えてもらうからな、見てるほど面白くないと思うぞ?」


 「「「はい!」」」


 「じゃあ、よし、と言うまで、とりあえず砂浜で走り込みしてきなさい。なるべく砂を踏み込んで、疲れても太股を上げる様に意識してな!」


 ジルは冒険者上がりの若い夫妻ホルムとキルスに声を掛ける、「なんか、すまんね、巻き込んじゃったみたいでよ。取り敢えずあいつらの分の木剣を用意してやってくれるか?年長の奴等はロングソード位の長さので、チビッ子たちのはショートソードくらいで、と、ホルムさんは剣は得意か?」

 「はい、じゃあ、キルスちゃんは先に木剣を加工してきてくれる?、と、ジルさん剣はあんまり得意じゃなくて、打ち込みの相手とかサポートなら何とか出来るかと」彼らは採集系の依頼を主に受けていたらしく傷薬や毒消し薬の加工は得意だが、戦闘は苦手の様、一緒に組んでた面子がダンジョン攻略に行くって事になって一旦解散してこの集落で落ち着いたとの話。されど冒険者の端くれ、苦手とは言うが魔物の生息域で活動していたのだから村の男衆よりは十分だろうが。


 「ん、まぁ、暫くは身体作りと受けと素振りって感じかな?基本の型を俺が教えるから二人組にして交代で打ち込みと受けさせて、それを二人で見ててやってくれるか?後は怪我したら手当てしてやってくれれば。そんなところでぼちぼち教えて行くか」

 「はい、ここの皆さんにはお世話になってますから、これくらいはお手伝いします。でも、ジルさんて名前の知れた冒険者なのに何でこんな辺境に」

 「まぁ、それはいいじゃないか……」遮るようにジルは言葉を返す。

 最低限の指示をしてからは黙々と準備をする。


 「とーさま!あしぱんぱんー!もーむりー!」遠くでエータが叫ぶ。

 「ふおぉっ!これ……きっつい……もぅ足上がら……ふぉっ」

 「らめぇ……」


 小一時間砂浜でランニング放置してたらまぁこんなもんでしょうが。

 

 「すまんすまん!走り込みおわり!みんなちょっと休憩な!」


 死屍累々。


 その後は取り敢えず皆で素振り。上段から皆で木剣を振り下ろす。足はぷるぷると震えてるが、皆で剣を振り下ろす。 

 足の踏み込みが無ければ意味もなし。


 「しっかり踏み込めぇ!少し走っただけで情けなぁい!踏み込んで全身で剣を振れぇ!今魔物に襲われたら死ぬぞぉ!」

 エータ以外にはとても厳しいジルとうちゃん。

 

 「ジルさん結構酷いね」

 「いや、こんなもんだろ」


 「ホルムさん!二人はデミドフ君とジーク君の剣を受けてやってください!ロングソードは切っ先をしっかり意識させてな!チビたちは素振りを!剣がぶれるから利き手は添えるだけ!両手で真っ直ぐに振り下ろす!」

 

 今日の子供たちの晩御飯はさぞや美味しかろう。

 

 


 暫く月日が経つと皆見違えてたくましく見えてくる。足腰がしっかりとして、上半身も絞れて綺麗な体つきに。


 「みんなな、毎日こんなの面白くないだろ?地味で疲れて痛いだけだろ?エータに付き合う必要はないんだぞ?」

 ふと、ジルは子供たちに言う。

 「え?ジルさん?ちょう楽しいですよ!くたくたになるけど毎日ご飯旨いし!」

 「そうそう!俺!昨日父ちゃんに腕相撲勝ったよ!ジルさん!すごいでしょ?」

 「うん!たのしい!しんどいけど!たのしい!」


 「なら、良いんだけどな。剣を持っただけで強くなる訳じゃないからな。皆それだけは覚えとけよ?」


 その内に、生き物を殺す事、そして自身も容易く殺される事を知ってからが本番、今は彼らのやる気を害わないように軽く言うが。まぁ、まだ通じる訳もないだろう。その内年長組は魔物狩りに連れてってやるか。そう思いつつ自己強化、ブーストの魔法を教え始める。


 最低限基礎魔法の素養が無いと使えないのでみんなでと言うわけにも行かない。


 年長組は生活魔法程度は使えるらしく、魔力を自身にどうやって纏うかのコツさえ掴めれば何とかなりそうだ、コツさえ掴めれば、だが。

  

 エータはずっとジルを見ていた。とーさまは魔法をそんなに使えない。回復魔法も結局中級の詠唱は使えないままで、まあ、エータが扱えるようになったから問題無いのだが。でも、ブーストの魔法に関しては何がどう違うのかわからない。

 冒険者ジルは常に前衛で戦い続けてきた、ブースト魔法がどういったモノでどう使うのかは身体で覚えた。理解をして使っているのにも関わらず言葉で教えるのが下手なのだ。


 「こうやって……ドンッ!だ!力を入れる所と別に支える場所にも魔力をこう!グッとしてドンッ!だ!」


 「「???」」皆一様に真似をするが出来るわけもなく。


 「ジルさんは常にブースト魔法を纏ってるんじゃないんですか?」キルスがふと気付いて質問する。


 「ああ、詠唱でバフを乗せるんじゃなくてな、俺の魔力量が低いのも在るんだが、このやり方だと仲間から掛けてもらった魔法とは別に上乗せ出来るんだよ、加速や剛力の魔法が掛かった状態でも更に乗せられる。筋肉とか関節とか骨に魔力を瞬間的に流して動きの補助をする?そんな感じだ。これだとほとんど魔力を消費しなくて済むしな。」


 「へえー。そんな掛け方もあるんだ?他の冒険者とかも皆やってるんですかね?」ホルムは感心しながらジルをマジマジと見る。

 「んー、やってるんじゃね?ウチのクランの前衛は似たり寄ったりでこの方法だし。魔力弱いと自己強化突き詰めたらこのやり方になるんじゃないかな?」

 「矢を撃つのに魔力を込めるのと近いのかな?うん、しっくりくる」とキルスが自分の手足をひょいひょいと見つつ言う。どうやらジルのブーストを真似している様子。「でも、戦闘中だと……これ、タイミング難しくないですか?」


 「お、キルスちゃん、出来たのね?こんなのは慣れだよ。」


 「うーん、僕がやると全身にバフが乗っちゃうよ……」ホルムは上手くいかない様子でもんにゃりとしている。

 大きい出力で魔法を使うことに慣れてしまっていると調整が効かないらしい。本来は全身に掛ける前提の魔法だけあって、身体の数ヵ所に魔力を絞って使うのに高難度のコントロールを必要とするようだ。

 

 「とーさま!とーさま!すごくはやくはしれーるー!うわぁぁぁ……ぐへっ!」

 物凄い勢いで砂浜を走り、スッ転んでしまうエータ。

 普段から精緻な魔力操作の鍛錬に励むエータだからこそなんだろう、ジルを見て、ホルムやキルスの話を聞いて実践し、その方法を見出だした。


 「むぐぅ……ぺっ!ぺっ!」砂まみれのエータ。

 

 「「あははははっ!エータすごーい!」」皆に笑われながらに褒められる。

 「この子、凄いわね。魔力操作がこなれてる……」「ああ、大も小も扱えるったらベテラン冒険者でもそうは居ないぞ。」若夫婦は驚きが隠せない。


 「てへへ。もっとれんしゅうしないとねぇ」エータは恥ずかしそうに服の砂を払い、かすり傷に回復魔法を掛ける。



 ジルは唖然としながらエータを見る。

 紛れも無い魔法使いの才能。ローゼやミザールがエータに気を掛ける理由がはっきりと理解できた。接近戦闘もこなせる魔法使い。今後の訓練の出来次第では防御だけじゃなく……そんな事を考えつつエータに駆け寄り抱き締める。

 「エータは天才だ!父さんは嬉しいぞ!」


 明日からの事を考えると自然と笑みが零れてしまう。

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