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少年期 エータとお父さん

 太陽がぼちぼちと天に近づく下でエータはいつもの様に魔法の鍛練を行う。


 最近はただ鍛錬をするんじゃなく、皆の役に立ちそうな事をエータは考えて生かそうとしている。土の魔法でレンガを作ったり、貝殻を火の魔法で焼き粉にしたり。色々と出来そうな事を試行錯誤している様子。魔力を一定にある程度の時間を掛けて、魔力消費を管理する、こんな事も数をこなせば鍛錬としては面白い方法なのかもしれない。


 「おーい!エータ!剣術の訓練もしようぜ!」ジルが木刀を持って浜辺へ走って来ると、「え?はい!とーさま!」スチャッと振り返って手を振る。


 走り込みや体力作りの運動はジルの日課に付き合っているエータではあったが、剣術の訓練と言われたのは今日が始めてであった。


 ひょいッと短めの木刀を渡されるエータ。剣士がサブウエポンとして装備するショートソード位の大きさのものだ。


 「とーさま!ちっちゃくないですか?これ」と問う。

 「当たり前だろ?でっかいのはまだ振れないだろ、身体も出来てないのに。ショートソードや短剣の扱いも同じくらい大切だからな。これならもう教えても大丈夫だし……それに……」

 「それに?とーさま?」

 「あ、ああ、それにな、エータも冒険者になりたいんだろ?ミザール様もお前を誉めてたよ、筋が良いって。なら俺がエータに出来るのは剣術や体術だから……な」

 「えへへへ♪……とーさまありがとー!」ひしっとジルの腰に抱きつく。

 「まぁ、その内森の仕事にも連れてってやるからな」とエータの頭をわしわしと撫でる。


 「まぁ、魔法で勝負するなら剣士の間合いに入らないのが前提だがな、剣術も体術も使えると使えないじゃ大違いだ。剣の間合いを知って、それをかわす体術を覚える。それを当面の課題にしよう」

 「はい!とーさま!」キリッと答える。 

 

 ジルの訓練はショートソードの使い方から入った。素振りとかではなく斬りかかるジルの太刀筋を受ける事をじっくり反復させた。力のない子供だからこそ正面から受ける(クセ)が付かないように「(さば)く」事に腐心させる。

 子供の力でも斬られる方向が判って、受ける体勢が整い、逸らす方向を理解出来れば容易に捌ける。暫くは構えるエータに対して素直に斬りかかり対応を身体に覚えさせるやり方を選んだのだ。


 「そら!太刀筋を見ろ、上段に対する受けはどうするんだった?足を止めるなよ!受けれないなら避ける!」最初の最初だ、ジルは足を止め同じ所に立ったままで剣を振る。自分の構えをしっかり見せ、その態勢からどんな太刀筋が出るのかを見せ続ける。


 それにしてもエータは良く「見よう」としているのが分かる。観察力に優れているのか。最初は剣の先を見て受けきれず、剣を握る手を見て受けきれず、俺の目を見て受けきれず、100本も繰り返せばその内に何本か受け流せる様になり、知らず知らずの内に「散眼」を使う様になっていた。俺の全身を視界に入れながら目や肩、腕の動きを見ている。

 「筋が良いのは魔法だけじゃねぇじゃん」誰ともなく愚痴るジル。


 まぁ、幼児は脳が発達する時期で周りに併せて成長するって話も在る。有名な子役やお子様アスリートなんて蓋を開ければ子供の成長って点では普通の事なのかもしれないし。エータが特別じゃないのかもね。まぁ、それはそれで、置いといて。



 「なぁ、エータ、夜になったらお母さんから治癒とか解毒とか必要な魔法を教えて貰える様に言っておいたからな、ちゃんと覚えるようにな。後、剣術ももう少し厳しく教えても良いか?贔屓じゃなくてエータは筋が良い。うん、明日からは父さんも動きます。手数も増やします。フェイントも入れます。手加減はするけども、エータ君、頑張りたまえ」嬉しいような悲しいような微妙な顔付きで言う。


 「はい!とーさま!がんばります!」


 「おう!じゃあ今日はこれくらいにして母さまのお手伝いをしてきなさい。父さんは晩御飯まで秘密の修行をしてくる」

 

 「ひーみーつーのー!しゅぎょう!」エータはキラキラした眼でジルを見る。

 「いいから、エータはお母さまのとこにな。父さんも必死になります」


 とぼとぼと森の方に歩いて行くジル。



  いや、マジか。エータと乳兄弟の彼、タンク君だっけ?あれと比べちゃなんだけど、エータは出来すぎ君だろ。この数年、軽い魔物ばかりが相手で俺も鈍ってる。それは否めない。……に、してもだよ。そこそこ打ち込んでから目の使い方をな、教えようと思ってたのよ?あれ?なに?もうバッチリやん。見えてるやん。

剣捌きと体捌き教えたら俺くらいなら何とかしよるで。後は実戦?いや、お父ちゃんはエータの壁になっちゃる!久しく使う必要もなかったセルフブーストの魔法を使う!その勘を取り戻す。……森林伐採タイムだ。魔物が出てもズタズタにしちゃる。お父ちゃんはがんばります!


 


 「ローゼの飯は最高だぁ……」何故かボロボロのジルはガツガツと飯を頬張っている。父親と言うより負けず嫌いの男の子にしか見えない。

 「かぁさまのごはん。さいこう」エータもハムスターよろしく口一杯にご飯を掻き込む。エータはちゃんとジルを見て育っているんだな、とローゼは笑いを堪えながら、うぷぷ、と変な顔になっている。


 「ほら、落ち着いて、ご飯は逃げないよ?」と二人にスープを差し出す。



 「いやな、ローゼ」頬袋をモゴモゴしながらジルは言葉を出そうとする。

 「もう、落ち着いてからでいいわよ。ちゃんと食べて、ね?」

 「ん、……はい」


 ごきゅり、と、スープで口の中のご飯を飲み込んで一息つく。


 「あぁ、うまい。うん、アレだ。な、ローゼ、……なんて言うか」

モゴモゴと糞切れの悪い様子でジルは何かを言わんとするが……

 

 ローゼはエータの口元を拭いてやりながら「ん?」という感じでジルを見る。


 「本格的に剣術を教えたいと……んでな、実戦形式というか、アレだ。怪我させる。かも、いや、怪我すると思う。強化魔法も使うつもりで、な」歯切れが悪く途切れ途切れでエータが大ケガするかもしれない事を拙く説明する。

 「エータの身体作りが追い付けばそれなりに動けるだろうってのは見てて分かるだろ?でもな、感覚的な反応ってのか?今の内から実戦に近い訓練をすれば身体の成長に併せて身に付いてモノになると思うんだ」

 「うん、じゃあ、私が直ぐにミドルヒールを掛けれる所で修行してね?逆にね、私の眼の届かない所では……ね?」とローゼは釘を刺す。

 「うん、そのつもりで、な。……後、エータに回復魔法教える時にな……」モジモジしながら気色悪いジル。

 「俺にも中級回復魔法を教えて欲しいんだ……ダメかな?」


 「ぷっ!いいわよ。いいに決まってるじゃない!もぅ!」ローゼはジルの顔を胸に押し当てて抱き締める。


 「ふぅー!」エータはニヤニヤと笑いながらジルの腰をビシビシと叩く。


 「ん。ありがとう、その内エータを連れて狩りにも出たいんだよね。良い格好見せたいとかじゃなくてね」先に突っ込まれる前に言う所がジルの良いところなんだが、「ローゼやミザール様と同じなんだよ。前倒し?」


 「うん、わかるよ?そこはあなたに任せるよ。お父さん?」


 「うん、これだけは、剣術で手加減しても良いこと無いから。俺とエータがちゃんと回復魔法使えればな、安心じゃんよ?」

 

 んふんふ♪と鼻息を荒げながらローゼに掻き付くお父さん。

 

 「うん、うん」とローゼはジルの後ろ頭をさらさらと撫でる。


 「とーさまはあまえっこだねぇ。おちゃいれる?」と空いた食器を片すエータ。


 「はいはい、お父さんはちゃんとご飯食べてからお片付けしてね?リリちゃんも今からご飯だから?ねー?」とジルをなだめる。

 「ちゃんとサポートするからね」とほっぺたにチュッとキスしつつリリの方へ。

 「はい、とーさま、おちゃですよ」と温かいお茶を差し出すエータ。


 あばぁばと手をばたつかせるリリを抱いて授乳するローゼを頬杖ながらに見るジル。お茶がうまい。はぁ、幸せだなぁ……。と思いに耽るジル。


 「とーさま?かぁさまのおっぱいみてないでおふろのよういしましょう」と、エータに脇腹を持たれてわしわしぐいぐいされると、「あひゃひゃひゃ。やめれ、こそばい!ちょー!エータ!やめれ!わかったから!おふろ!はたらくからぁ!」


 「はい。わかればよろしい」とジルの食器をカチャカチャと重ねて下げるエータ。「じゃあ、とーさまはあらいものを、ぼくはおゆをはってきます!」



 「なんだかなー。俺の方がガキなのかね……父さん辛いよ」

 「ジルはジルでそのままが良いわよ?」と、リリを抱えて揺らしながらローゼが呟く。

 「なっ!聞こえてた?はぁ、情けない父さんだと思うよ」

 「うふふ、良いお父さんだと思うわよ?」

 「うん、頑張るよ」

 ジルは、ふぁぁ、と深い息を出してからスッと寝ついたリリのほっぺたをさらさらと撫でると「可愛いなぁ、起きてたら泣かれるけど、寝てたら天使だもんな。俺に厳しい天使ちゃん。とーさま嫌わないでね?」と。

 

 「とーさま?おふろはいりましょ?それともぼくがリリちゃんみとく?かぁさまとおふろ?」さっとローゼの横からリリの頭を撫でるエータ。

 「えー?じゃぁエータちゃんにお願いしようかしら。ね?」

 はっとローゼの顔を見てニチャァっと笑うジル。

 「エータぁ!任せたぞぉぉぉ!」とリリをベッドに寝かせたローゼの手を引き……。

  なんて出来た子だ。エータは。と倒置的な謝辞を呟きつつ夫婦の時間に突入するのであった。が。


 「かぁさま!おふろあがったらまほうのおべんきょうおねがいします!とーさまとのやくそくですよっ?」ときっちり釘を刺す。


 眠るリリの小さな手に人差し指を置くときゅっと握りしめてくる。

 「かわいいねぇ」

 

 ほんの少しの時間だけ兄妹二人だけ。

 でも兄妹とは違う違和感も。



 こそっと陰から覗き見るジル。

 「ねぇ。あなた。そんな所でかわいいおしり丸出しで冷えるわよ?湯船につかりなさいよ」

 「ぁ、うん。そうだね。あいつら仲良いのな」

 「何言ってるの。産まれたばっかりの赤ちゃんだよ?まぁ、父さんは泣かれてばっかりだからねぇ、はやくこっちに来て、お背中流しましょうね」

 「はいはーい!だな、だな!」

 いちゃこらさっさー!って感じか。


 


 

 家族の日常は日々を重ねて過ぎて行く。


 ジルもローゼの2歩くらい後ろから親になっていく。 


 四人は少しづつ家族になっていく。

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