第七話「謀略する事」
僕は天井を眺めていた。
一昨日やった事や報道の事は、僕がBANDITSと共に居たため正確に記憶している。
しかし、BANDITSが人の命を奪うかというと、脳が身動き出来ず小半時横たわっていた。
ピンポーン
誰かな。淳二かな。
昨日の事を追って業者が来たのか警察が捜査に来たのか?
僕は固くなった体を起こし、意に反し玄関のドアを開けた。
「警察です。」
なぜだ。見つかった。
それはまるで野生の狼が何かを漁っているかのように感じた。
「どうしましたか?」
「隣の部屋が空き巣に入られたようで、最近このあたりに不審な人は居ませんでしたか?」
「いえ。そんな人は居ませんでしたが。」
「もし、何か不審な人を見られた時には、警察に一報ください。それでは。」
この世界ってこんなに単純なんだ。
どうしただろうか。何を縮み上がる必要があっただろうか。
それでも僕は水を一杯飲まないと深呼吸出来ないので蛇口をひねる。
蛇口から出た水を両手の器に少し掬うと喉を鳴らした。
「よし、課題課題。」
参考書とノートを取り出し課題ページを広げる。
ピンポーン
また誰か来た。恐る恐る玄関を開ける。そこには20代の日傘を射した黒髪の女の子が居た。
目の笑ってないその子の微笑みは怖かった。
「どちら様ですか?」
「あなたがBANDITSの一味なのね初めまして。この間はよくもひっちゃかめっちゃかにしてくれたわね。
まぁこの世は生きるか死ぬかの弱肉強食ですが、協力することで弱い者は互いの弱点を補ってくれる。
しかしその弱点は、ずっと克服出来ない恐怖の谷となる。私が生き抜く世界では四面楚歌。私しか居ない。
それで、あなたがBANDITSを辞めてこの山賊物語の人生の中で私と手を組みましょう?
自己紹介が遅れたわ。私は豊田今日華。一昨日BANDITSがどれだけ恐ろしい団体か分かったでしょ?
あなたの居場所はそこではないの。そこにあなたの居場所はないわ。
そんな牢屋の中では無くてもっと安全な世界へ招待してあげるわ。
BANDITSは殺しもするし、古典的な監禁、拷問だってする。あなたには似合わない。ほら、この写真見なさいよ。
もうBANDITSの尻尾は掴めてるの。あなたが私と手を組まないと言うのであれば、BANDITS共々どうなるか知らないわよ。
今の時代遊びのいじめで人が死ぬ世界なの。人が死ぬまでの軽い冗談の遊びなの。
あなたもそのうち分かるわ。その表情だと私の事を怪しんでいるようね。BANDITSに密接に関わりすぎよ。
一つ言っておくけど団体にも善悪の分別はないし、人の間でも敵見方は居ないの。
あるのは”都合がいいか悪いか、その団体宗教が肌に合うかどうか”だけなのよ。
気が向いたらここに連絡ちょうだい。あなたの連絡待ってるわ。良い連絡をね。」
「あ、あ、はい。」
縦書きの名刺と僕らBANDITSの写真3枚を浩市に手渡し帰っていった。
写真はハロハロサービス調査時のスーツ姿の僕らの写真と隠しカメラを設置している所の写真、
突撃の際黒ずくめで集合している時の写真が映し出されていた。
今までのBANDITSの動向を盗撮されていたとこの時初めてわかった。
そして今回の訪問の話はこの盗撮材料を駆け引きとし、BANDITSを辞め移籍しないかと。
素性も知らない見ず知らずの女性に選択を迫られたんだ。
僕は戸惑っていたがBANDITSというか山賊に疑問感や不信感があることは事実だった。
実際僕は山賊の存在は淳二から聞いて居たが山賊に関して勉強不足だった。
これから山賊の事、BANDITSの事、謎の女性の事……を諜報する事にした。
豊田が言うようにBANDITSはそんなに酷い団体なのだろうか。
今回は突撃の後、他の団体か上層部の襲撃があり火消しをしたみたいだが、
それがどういう経緯で起こったのか。
豊田はBANDITSが引き金だと言わんとする口ぶりだったが、
僕にはBANDITSがそういう団体だとは映らなかった。
むしろ、BANDITSは良団体であるとすら感じたが、
一昨日の衝撃は脳裏でもかき消されずに常にド真ん中に居座っていた。
僕はBANDITSしか知らない。それもほんの一部かも知れない。監禁、拷問をBANDITSが??
その晩僕はBANDITS GIRLに居た。皆も普段と変わらないようにパソコンを弄ったり、
平田さんと堀岡さんが資料を手に戦略を話してる声が聞こえる。
僕は鈴木さんがグラスを洗っている目の前のカウンターに座り彼女に設問をし、その回答の意味を模索するのであった。
「鈴木さんにとってBANDITSってなんですか?」
「またいきなり難しい質問するねぇー。信頼出来る拠り所かな。難しいね。」
「どういう所が信頼できますか?」
「私はBANDITSの”あり方”かなー?」
「何やら深い話やんな?僕にも聞かせてくれや。」
堀岡さんがグラスを持って隣に座った。顔がほんのり赤くなっている。もう、結構飲んでいるようだ。
隣に座ると肩をグイグイすり合わせてきて僕の設問に対して答えだした。
「BANDITS同好会ってのは、山賊が好きな人達が集まった団体なんや。
そりゃ山賊が好きではなく金や権力が好きな奴に妬まれるかもしれない。
そんな中で我らが正しいと思う道を進む。そんな団体がBANDITSや。
時には他団体に協力する事や一般常識から外れ妬まれる事も、まぁある。だが、
我らは通すだけ。きっとそこには正しくない街の裏社会のあり方を
違う方向で訴えて行くことが出来るからBANDITS(山賊)同好会なんや。右翼とか左翼の話じゃないで。」
「僕、今日家に居たら豊田さん?って女の人が来たんですよ。
豊田今日華さん、大人しいけど凄い言葉の腱膜で…」
平田は1人ソファで飲んでいたが浩市の話を小耳に挟み立ち上がり、カウンターに歩みながら話した。
「浩市君、今日華さんは海女さんと言って住み分けの違う山賊の様なものだ。
女側でも男の悪い奴らは当然居るそういう奴らを食い物にしているのが海女さんだ。
男の中には性行為の動画をネット上に……」
豊田さんとは相反しないが別の視点なのか。今まで僕の頭の中では豊田さんがBANDITSにとって刺客のように
感じていたが、その喉に引っかかった魚の小骨がすっと取れた気がした。
「それで、もし気になるようなら今日華の所に淳二君でも連れて訪問してみたら良い。ただし、話には乗るなよ?
彼女ら海女は男を網羅している。私でも言葉を一瞬考えてしまう。気をつけるんだぞ。」
平田さんの言葉には重みがあったが、その真っ直ぐな目は本気なのか、BANDITSの運命を賭けたフェイクなのかまだわからずに居た。
夕焼けが静まり外灯が付き始めた帰り道に、
僕は淳二に連絡をし、返信を待つ事にした。
一向に連絡が取れず新聞屋のバイク音が微かに聞こえ始め段々大きくなる。
ピロン
”彼が待ってるわよ?来る気になった?”
スマホの画面が光りバイブレーションがベットを揺らす。
その連絡が来る頃には朝焼け空が泣いていた。まだ僕は夢の中。
目覚ましで起きてから僕の心臓の暗鬼は鼓動を増していった。
校正:H29.08.06
誤記訂正しました:該当→外灯 08.06