第五話「警鐘する事」
夏休みに入ったと言うのに。俯き顔でBANDITSを覗く。
出会い系サイトに登録をし、ポイントを無駄打ちしてしまった。
と数少ない商材写メからパジャマの女の子を照合検索にかける。
この無気力な時間は僕と鈴木さんしか知らない。
「あ、あった……トモダチHか。でも東京・・・」
鈴木さんはにこやかな顔でデカンタからお茶を出してくれた。
「まぁなにがあったか知らないけど、あまり落ち込まさんなー?な?」
「ハイ」
僕はハイしか答えられなかった。
「何してんのー?」
「青葉一番で出会い系サイトをやってた女の子の業者を探してるんですけど、
なかなか思うように行かないですね。」
キリッとした鈴木さんの眼差しには、優しさと厳しさが垣間見えた。
「そや、照合係の堀ちゃんに連絡してみるわ。今日来るかなーもしもし?」
堀岡さんはまだ話したことがない。車の中でも無口だったし、僕達の話にクスリとも笑わなかった。
あの時風景を眺めていた堀岡さんは何を感じ、何を思ったのか未だに謎である。
ただ、掘岡さんは照合や法律の事に関して詳しい。
皆の資料を作ってるのも掘岡さんであると平田さんから聞いた。
「もうすぐで着くってさー」
その間にも照合をかける。
出会い系サイトのポイントはメール1通240ポイントでプロフ閲覧と画像閲覧は2ポイント。
僕は初め4桁の数字を見た時に駄菓子屋にでも行ったかのような感覚をもっていたが、
未成年禁止を今思い出して大人ってこういうことなんだなと余韻に浸っていた。
あの時有頂天になっていた自分は半分は間違っていなかったがもう半分はそれ以上間違っていた。
このBANDITSに来れば出会い系サイトのプロフ写メだけを抽出したソフトが組まれていて
ID事に重複アカウントも管理されていた。もう穴があったらさらに掘って埋めたい。昨日の出来事を。
「どうしよった?わしに電話しよって?」
帽子を取りいつものカウンターに腰掛け、パソコンの準備を始める。
急いでスマホを取り出し、女の子の画像を堀岡さんに聞いてみる。
「この子照合してもらえますか?」
自分で照合はかけたが、納得するために堀岡さんに照合を掛けてもらう。
例えるなら友人が無くなったがまだ亡くなってないように思えるような気持ちだろうか。
いったい何が変わろうか。と浩市は思ったが、体は正直で落ち着かなかった。
「浩市君、出たよ。トモダチHだって。ただ……」
一瞬にして浩市はため息を飲み込んだ。
ため息のあとはそうですかぁと呟くシナリオが完全に消え去り頭上の雨が止んだ。
「ん?なんですか?ただ?……」
掘岡はお茶を2口啜って額に手を当て、ゆっくり口を開いた。
「浩市君、ただこの商材はブロンズ㈱という大手商材屋が元出で、ハロハロサービスに商材を卸している。
浩市君が見つけてくれたお陰で、手間が省けて監視カメラの設置の必要が無くなった。
君にはやられたよ。僕達のこれからの見せ場を1人の手柄になってしまったからね。」
僕は何を言ってるのか分からなかったが、ハロハロサービスといえば、この間のダメダメ営業をした所。
目から鱗だった。訳も分からず、堀岡さんの風貌だけで口だけが勝手に動いた。
「堀岡さん、ごめんなさい。」
「いやいや、違うやん…」
この後堀岡さんに詳しい説明をしてもらったが、
要するに芋づる式で提携先の大物を見事引き出す事に成功したと。
その大手商材屋が分かったら何をするかと言うと、
ハロハロサービスへの商材の商談をしてそこで波乱を起こすという大まかなシナリオだそうだ。
大手には誰も逆らえない為、商材供給ストップしたらそれは死を意味するだろう。
そのために大手のメールをどこからか拝借し内容を書き換え圧をかけるそうだ。
「ほなまた明日にしよう。監視カメラを回収する前日やからな皆来るように俺が連絡しときますわ。」
その帰り道はいつにも増して嬉しかった。
行き当たりばったりの偶然かもしれないけど、そのチームとしての役割、
いや、役割ではないけどチームとして真っ当出来たという気持ちに浸りながら帰路に付いた。
僕はでかした。明日皆はどういう心持ちで来るのだろうか。僕は夜が明けるのを心待ちにした。
ー次の日ー
「今日急きょ集まったのは掘岡の提案だ。何があるのか知らんが、いつも通りの狩りの前の内訳報告から行こうと思う。
それじゃあ、カメラの内容の内訳を発表してもらう、木村。」
木村さん。童顔だが身長が179cmですらっとした青年に見える。
これで36歳だという。大学生か院生と言われてもおかしくない。木村さんは主にカメラや盗聴器の盗聴盗撮係。
そこから外部との関わりの割り出しをしている。
「はい。上流関係87%下流13%で完全独立してる業者だね。
この業者は完全に下流業者は拾い上げ吸収合併してきてはいないから、
いつものようなメールでの内部スパイで自滅させるのは結構厳しい。かと言って、
上流圧でうまく行けるかって3社も上流の腰巾着をやっていては、上流からの圧も厳しい。
平田、どうする?あと可能性にかけるとしたら、商材では無く(▼3)ヤドカリさせて孤島に追い込むぐらいしか思いつかない。
上流でもっと掴めればよかったが、上流の商材の3社のうち1社しか割り出せなかった。参ったが以上だ。」
▼3:ヤドカリ:サイトにバグを送らせて閉鎖させ、空
のサイトを送り込み再スタートさせる
手法。データは残すのでそのままそっ
くり書き換えるだけでサイト立ち上げ
出来るためヤドカリと呼ばれる。
しかし、上流商材業者からの商材の受
注などは上流業者が作ったサイトを株
分けしている為、その株分けであるの
を確認出来る手形が必要である。その
手形は新出会い系サイトには書かずに
送る為戦略手法としてたまに使われる。
「そうか木村ありがとう。今のところヤドカリしか使えそうになさそうだな。
しかし困ったなぁ。しょうがない。空になったサイトのリストアップをしとけ。次、鈴木。」
「はい。水道、電力、ガス、ブロバイダ、個人名義、土地名義全て抑えましたよ。
ブロバイダは半年に1回ぐらい未払いで止まっては払いを繰り返してるみたい。
上流の商材は高いからねぇ。平田さん、プール金はまだ掴めてないよー。」
「ブロバイダの支払いまで回ってないならプール金ないんじゃないか?まぁ戦略かどうかわからんがな。次、堀岡。」
「3社のうちの特定出来た1社からポルノの商材発見しました。内訳は性器商材によるわいせつ物頒布等で刑法175条が32%、
一億ありますなどの保険金記載による駆け引きの詐欺罪で刑法246条が48%、
風俗嬢などは提携出来て無く、なくなくキャッシュバッカーしているようですね。グレー度合いとしては7割ですが、
最悪討ち取れずに民事訴訟した時に、46人の被害者によるWEBマネーの被害額の慰謝料で埋め合わせ出来る状態ですね。
それと……浩市君がいい話持ってきてますよ。平田さん、聞いてやってーな?」
「分かった。次、浩市。」
「浩ちゃん、やるじゃん!なんか拾ってきたの?」
「淳二、お前のおかげで拾えた。皆さん話します、上流業者が3社の内1社しか確定取れてなくて厳しいようですが、
僕は本当に偶然かもしれませんが、上流業者の内2社目を特定することが出来ました。それは掘岡さんに教えて貰って初めて分かったのですが……」
僕は懇々と語りだした。皆の不思議そうな視線を浴びる中、
僕に初めて見せる堀岡さんの表情がそこにはあった。
校正:H29.08.04
▼3:ヤドカリの文をスマホサイズにしました。08.02
堀岡の名前誤記訂正しました。