第四話「曲流する事」
「しかし、こいつもアホそうだな……」
蟻は、自分たちがどの道を選んでいるか分かっているのだろうか。
草むらから歩道を通り公園を横切らずに歩道沿いを曲がり行進している。
この誰も人気のない公園を通らない意味が分からない。
一番安全で一番近い道を知らずにひたすら歩道沿い高速道路を行き交いしている。
前の奴に付いて行く方が何か事件が起こっても目の前に居る奴が解決してくれるから、
頭のいい蟻は、公園が近道だと知っていてもずっと前の奴に自分の命を預ける。
そうすれば、
行き交う時に友達と触覚でハイタッチでもして一二言、言葉を交わしたり出来るからであるのだろう。
では、自分の目の前の蟻はどう考えているのだろう。
後ろが渋滞しないように前と同じ間隔を空けて……人間の車の運転と同じであろうか。
渋滞しては大変だ。そして前で事故を起こさないようにしないといけない。
あれ？
目の前の蟻もその目の前の蟻に命を預けて居るからきっと皆で言葉を交わしながら行進しているんだな。
皆、ちゃらんぽらんしているのでは無いか。あれ？誰が皆の命の責任を担っているんだろう。
自分の命だぞ。自分で守れ。
「あ、スターズコーヒーのアイス一つください。」
と思いながら、日々ちゃらんぽらんのお荷物の僕。
自分に言い聞かせるためにスターズコーヒーまでの道のりでバカな事を考えていた。
淳二はちゃらんぽらんである。それゆえ、僕と違う視点を持っている。
淳二はどんな状況でも必ず道の入り口と出口の方向を指し示す羅針盤。
僕は淳二の体験する事に興味があるから疑似体験をしに付いていく鼠。
大体危ない。公園の様な淳二以上の近道は今まで僕には思いつかなかったし、
これからも思い……それは分からない。それは分からないだろ俺……
というのも、今日は蟻の先頭の奴が僕である。後ろはまだ居ない。
ちゃらんぽらんが寝坊している訳ではない。道を教える術をまだ身につけていないから、
初めて自分から曲流してみようと考えた次第である。
だって前日、物凄い任務の片棒を担いだ。まだその時の感覚が身悶えている。
ちゃらんぽらんは言葉を失い悶えようとした時に、僕に打席が回ってきた。
0-4、3回裏1アウト1塁BANDITSの攻撃で、
バントした犠牲営業トークだったかもしれなかったが、それがとてつもなく嬉しかった。その帰りに
「やる気があるなら、どちらかが最後まで追ってみなさい。」
平田さんはそう言っていた。
1枚のゴミを拾い上げてくれた上に笑顔で僕達のちっぽけな心を拾い上げてくれた。
この心を無駄にしない様、昨日の続きで深呼吸し身悶える所存。
「スターズコーヒーでございます。」
さて、それで僕は昨日の僕とはひと味ちがう。正確には昨日の23：45から生まれ変わった。
これで淳二を引き連れて行進が出来ると思う。初心者マークを張った若干19歳の山賊だが、
1人で敵を欺く事に成功した。おめでとう。
淳二ごめん。俺もう昨日のゴミ要らないから捨てていいよ。
あと４日しないと宮越駅の近くの業者の事がまとまらないし、居てもたっても居られなくなって、
”免許証を偽造した。”
後にも先にも目的は2つ。
”出会い系サイトの登録をするため”には20歳以上の免許証の画像データを
メールで送らなければ登録出来ない。
”調査の為のポイントを買って”さっさと同じ地域で出会い検索して会って確認したほうが早い。
そのためのデビットカードを作る為
の免許証の偽造だ。これにより敵地に潜入した。
もう昨日のうちにサイトの登録が済んで免許証のデータも送っている。
心配なのがデビットカードが昨日登録したばっかりなのでまだ届いてないのが不安ではあるが、
無料ポイント分が1000ptあるそうだ。意外と安心なんじゃないか？
後は完了通知が更新されればもう僕は山賊になる準備は出来ている。
今回は直輝先輩の提供があったからこそ、ここまで来れたのかもしれない。
過去問をくれなかった直輝先輩と追試後に連絡を取り合ったが、
見事に僕に過去問をくれるのを完全に忘れてたらしく、
「ゴメン！ご飯で埋め合わせするからー！」と連絡があったので、
「それじゃあその埋め合わせで、免許証を写メで送って欲しいんですけど……」と返した所、
「良く分からないけど、これで許してくれるんなら。」
とすぐに直輝先輩の二十歳と書かれた免許証を送ってくれた。
そこからは単位を落とした”画像処理工学”の教科書とにらめっこしながら、
ペイントのドット処理を行った。色の濃淡って難しい。
僕の塗りたいグレーと犯行のグレーゾーンが重なり初めて出来るのかもしれない。
今回使うんだったらもっとちゃんと学んで単位を取るんだった。今は少し後悔している。
でも、今は清々しい。ここまで自分の力だけで漕ぎ着けたからだ。
淳二はまだ寝ている時間だろう。だってまだ10：30だからな。
僕は大学の図書館に整理券もなく入り口に並び入場した。こんなの初めてだ。
ガラス扉の向こう側で朝8：00に図書館を空けてくれる守衛さんが、鈴木さんだったなんて、
ちゃらんぽらんに質問したらなんて答えるだろうか。
歪んだ顔が目に浮かぶ。「俺ぇ、めっちゃ怒られたかんね」とかいい線いってるんじゃなかろうか。
かく言う、僕は鈴木さんのケータイの電話番号を知っている。
2ヶ月で辞めたフットサルサークルの話はやめよう。
図書館では刑法など色々な資料をコピーしてはファイルに入れコピーしてはファイルに入れた。
途中なぜか猥褻物頒布罪を間違えてコピーしてしまったのでファイルから教科書ロッカーの棚に置いた。
「お、ログイン出来た」
無意識に口に出してしまった。末期かもしれない。
出会い系サイトの無料分で、この前のマックの女を探してみる。
宮城県、仙台市、青葉一番町、20～30代、B～Cカップ……
うーん……現実は非情である。
この前不治3で待ち合わせだったから掲示板にも不治3で募集かけてないか探す。
同じ条件で２,３件あった為、そのプロフィールをメモる。
そして僕は一人ずつチャットを仕込んで行く。
ネットに出会い系の女の落とし方なんて書いてあったが
そんなのはフェイクだという事は分かっている為、
持ち前の地元バイタリティでまず(※2)キャッシュバッカーを排除する。
(※2)キャッシュバッカー(CB):
ポイント制出会い系サイトにおいて、男性からのメール
受信などによって貯まるポイント稼ぎを目当てにした女
性利用者のことであり、男性と出会うことではなくポイ
ント稼ぎをすることだけを目的にしている悪質な利用者です。
しかし、キャッシュバッカーは情報資材やプロフ写メを中継業者から譲り受けている為、
元親は情報資材業者だ。今回キャッシュバッカーが個人で持つ可愛い子の写メを
集めてBANDITSで照合もしようとも思っている。
その為キャッシュバッカーとは新しい同一人物の同アングルの写メの重複掲載しか無くなったらそこでthe END。
情報としてキャプチャしておさらば。
プロフの写メをチャットの写メで掲載してくるなら、俺にとっちゃ猫に小判。
薄い情報で勝負しようなら帰れ！！！この一文無しの雑魚が！！
取り乱してすまない。と、言った所である。
さぁ始めよう。
犠牲営業トークの底力をビシビシッビシ！っと見せたい所。
”こんにちは初めまして。浩市です。
仙台市の青葉一番に住んでます。プロフカワイイですね。
もっと写メ見たいです。よろしくお願いします。”
3人にコピペして送ってやった。
その間にも業者からのドッチボールのメールが45件。うーん！ボッシュート！削除ポチ。
3人から返信は来たものの2人は一文無しであった。
さらに続けて、
”おー！洋服とマッチしてて本当に可愛いですね。パジャマ姿も見たいです。”
ここがエビで鯛を釣れるかの勝負所となるポイントとなる。
資材としては情報が制限されると大富豪みたく切り札が多くないと対応出来ないからである。
またしてもパジャマ姿を拝んでしまった。どんだけこの業者は大物なんだ。尽きるまで行くぞ。
”おー！水色のハーパンにピチTカワイイ！
注文多くてごめんなさい。本当に最後に、コスプレ写真とかありますか？”
これが来れば文句が付け様のない大手業者であると平田さんから教わった。行くぞポチ
現在 2P ＊ポイントが足りません。ポイントチャージはこちらをクリック
僕の犠牲営業トークは犠牲となって消えた。デビットカードもない。帰宅しよう。
その晩、網戸を空けて国道を眺めていた。
静けさだけが、煩く流れていた。
校正:H29.07.30
キャッシュバッカーの説明の画面ズレでバラける為、改行を修正しました。
まとまりのある文に段を付けました。07.31
