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現代山賊。  作者: 山狩楚歌
4/12

第三話「布置する事」

「おい淳二、時間ないよ追試始まっちゃうよ?」


「分かってる分かってる。てか浩ちゃん、俺の分の氷残しといてよ?」


「分かってるって。残るから安心しろ。淳二、牛乳取って」


「冷蔵庫。」


 イラッと来た。この時間の無い時にトロトロアイスコーヒーを食堂で作ってる淳二に。

邪魔だ。なぜお湯を沸かしてまでインスタントコーヒーを淹れる?市販のボトルコーヒーあるのに。


「浩ちゃん、何その目怖いよぉー?コーヒーはそんなドカドカ、ドッカン工事みたいに作るものじゃ無いの。」


「はぁ?追試までに時間が無いぞ。淳二何トロトロしてんだよ、今日こそ俺は先に行く。」


「砂糖の粒が残ってるカフェオレなんてよく作れるな。関心関心。」



あなた達はアイスカフェオレを作る時にどれくらいの時間を割きますか?


 淳二はお湯を沸かして、ちょっとのお湯とインスタントコーヒー、砂糖をトロトロになるまで練る。

その後牛乳を入れて2、3個氷を浮かべてカランカランと混ぜる。

ここまで10分。いつもなら俺はアイスカフェオレを3分の1飲んで待つ。しかも……

それだとヌルいカフェオレを飲む事になる……だから身なりも態度もだらしない。

理解し難いし、ちょっとは待ってるこっちの身にもなって欲しい。

高校の陸上の合宿の時もそうだった。

しかし、それが淳二の掟。それが淳二のカフェオレの全てだった。


そうして僕達は食堂を出て、追試会場に向かった。

追試が終わると同時に僕の氷もなくなっていた。



「浩ちゃん、ねぇ浩ちゃん、今日3時だよBANDITS」


「分かってるって。食堂で待ってる。」


淳二が出てくるとそそくさとBANDITS同好会指定の宮越駅の待ち合わせ場所に向かった。

到着すると平田さんが皆の事を紹介してくれた。


「皆、今日から参加することになった大学生2人。彼らは報酬無しで我々に興味を持ってくれ、

懇願されたので本日同行することになった。ひとつ頼む。さあ、車に乗って。」



 バンに乗ると色々な機材が積まれていた。モニターの様な機材や、何だこれってモノまで。

唯一の女性、土屋さんの運転で、途中平田さんから調査の詳しい内容と僕達の役割の説明があった。

しかし、それで今日のミッション上手くいくのかしこりが残るようなチグハグ感だった。



 住宅地の中、ぽつんと”ハロハロサービス株式会社”という建物が見えた。

噴水広場の路肩に車が足を止める。

僕達はスーツに着替え、拳に汗を握りながらネクタイを絞める。

そこでも淳二はゆるく絞める。そして俺が締め直す。


ピーンポーン、ガチャ。


「どうもーネピア新聞社ですぅー。新聞を売り込みに来たんですけども~」


「新聞なら取ってるから。失礼します。」


「バカ!淳二!すみません。フフ。企業様向けにですね、はい~。

欲しい情報をピックアップして発行してる新聞というのがございまして、

今回こちらのアンケートにお答え頂きますと約1週間、

この資材の動向ですとか、企業様の業界の傾きグラフですとかお試し出来るサービス……」




 僕は必死にアンケートを書いて貰えるように努めた。

玄関から部屋の中を見るのが今回のミッションだが、パソコンが何台もならんでいて、

男が10人ぐらいオフィスのようにノートパソコンを向かい合わせている。

庭側の窓ガラスや間取りも事務所的な感じなのでなんとなく解釈出来た。

これで侵入ルートを決めると言う。僕達が居ることによって足を引っ張らないように、

慎重に目に焼き付けた情報を脳に格納していく。

幾つかの質問を受け答えアンケートは書いてもらえたものの、

名前や住所は書いてもらえず、そのような新聞は要らないと言う。


「そうですかぁ。今後、同業他社様の参考とさせて頂きます。

本日はアンケートにご協力頂き誠にありがとうございました。では失礼致します。」ガチャ



「…………浩ちゃん」



 鍵がかかってから30秒待ち、盗聴器を玄関の扉の郵便受けに取り付けながら、

事前に用意していたメモ、クオクカード1000円分、説明に使った三つ折り資料をクリップで添えて

「ポスッ」と音が出るようにポスト窓を閉めた。


「タ、タ、タ、ガサガサ……」


さっきの男が「まったくー。」とブツクサ言いながらポストに取りに来る。

さっきの男は「新人っぽそうだったしな。」と、ぼやきながらガサゴソ持っていった。



 盗聴器は気づかれて居ない。

平田さんの言う事によると、私達が不安材料だと思うモノに触れさせ異常がなかったモノに関しては、

いつ不利益な状況になっても不安材料は日常に同化させる事が出来ると言う。

続けて淳二も言っていたが「マジックショーと同じで客に一度確認させる意味。分かる?」

言わばマジックの掟。それが大掛かりな準備で欺く道化師の(※1)クラウンの全てであることだと言う。


(※1)クラウン:曲芸と曲芸の間の「」を埋めて観客の曲芸への余韻を冷めさせない役目として

作られたおどけ役。曲芸もでき司会(日本的な視点では客いじりも行う)もする役者である。



 そんな状況で僕達の役目は終わった。

すぐにアンケート用紙を平田さんに渡し、間取りとか見た情報を紙に描きながら皆に説明する。

説明し終わると、今回は調査目的であるためBANDITSの方々もガスの検診や水道検診に扮して、

立地条件確認や、4箇所の監視カメラの設置を1人ずつ進めて調査は終わった。


「浩ちゃん、もっとさ業者に気づかれてドカドカ。ガラガラーってするのかと思ってワクワクしてたけど全然違かったな。」

「そうだね、風貌は普通の会社って感じだからな……それに名前だけ聞いて何をしてるかなんて分からない。

偽名で住所も渋谷のオフィスビスって事になっているし……」


 地域の方も僕達が思ったように本当に普通の会社だと思っているんだろう。

ただ、この会社の名前を聞いて調べようと思う奴も地域の中にはいるかも知れない。


「調査だからね。これからデータが集まっていって戦略を練るんだよ。」


 設置物調査期間はおよそ5日間。それだけで良いのかって?

それは5日しか持たないし限界ギリギリの期間だという。それ以上は気付かれてしまう。

6日目に機材回収をするのは危険行為だが近所の目を気にするとそうなってしまうと平田さんは言う。

近所から警察に通報されるのが先か。出会い系サイト業者が気づき騒ぎ出すのが先か。

そうなると護るモノの火縄銃のぶつけ合いでお互い人員が警察に削られて行く結果になるからなのだろう。


 仲間でも獲物でも、刈り取るには「お互いの掟」の放物線となる交点は極力作らない。

そうでないと、隣の人から大事なモノを盗まれ、

一声嘲笑われる結果を生む信頼関係になり、お互いが一つの方位磁石を取り合い感情を押し付け合う。

方向を見失った人間は、ピラニアを入れたメダカの水槽の如く、身ぐるみ剥ぎ取られるだけ……と。


それが剥ぎ取る上での沈黙なるリミットレギュレーションだった。




帰りに平田さんに油の付いたメモを見せ、昨日の一部始終を車の中で赤裸々に話した。


皆、笑ってたっけな。


 内容は、お互いの癖や「お前がー。お前がー。」メインになってしまったが、

「ハハ、まぁやる気があるなら、どちらかが最後まで追ってみなさい。」と言われ

1枚のゴミはクラウンのように僕達を取り持つキーパーソンになり、



俺達はお互いを少しだけ、許せるようになった。

校正:H29.07.31

まとまりのある文に段を付けました。07.31

修正:H29.07.31

冒頭の淳二の世界線を消して言い合いさせる事にしました。07.31

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