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シロン外伝 ジェミニ  作者: 修行中
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最終章 別れは唐突に

かなり長い間お待たせしてすいません

最終章できました

最終章 別れは唐突に


「あなたは自分が何をしたかわかっているの?」

「申し訳ありません。奥様」

 屋敷の大広間でメイド、ジェミニは仕えているお嬢様の母親に怒られていた。お嬢様を外に連れ出していたのが、ばれてしまったのである。

「ママやめて、ジェミニは悪くないよ」

 母親の横でジェミニへの叱咤を止めようと母親の服を両手で引っ張るお嬢様。

「あなたは黙ってなさい」

 母親の叱責を受けてお嬢様は縮こまる。

「奥様のお言葉、まことに申し訳ありません。ですが一言進言してもよろしいでしょうか?」

「なに? メイドの分際で何か言うことでもあるの?」

 頭を下げていたジェミニが母親に目線を合わせるとこういった。

「奥様の言葉は昨日言われた言葉より若干ゆがみが生じています。さらに一週間のデータを考えますと奥様には肺に何かしらの異変が生じてるものと考えられます」

ジェミニの言葉に、母親は言葉を失った。実際誰が聞いても受け入れるのに時間がかかる内容だった。

「ママ、病気なの?」

 とお嬢様は母親に聞いた。頭が混乱していたが娘の言葉に目が覚めた。

「あ、貴方は何を言ってるの?」

「これは可能性の問題です。再三ですが病院へいくことをお勧めします」

 ジェミニは頭を下げながら言った。

 困惑する母親は言葉に詰まってしまう。

「ママ、ジェミニの言うとおりにして、ママの病気も直すこと出来るよ」

 母親は娘からの言葉に一瞬考えジェミニにこう言った。

「あ、あなたの言葉を信じるわけじゃないけど病院に行くわ、週末に…」

 だがジェミニはその言葉をさえぎった。

「いえ、明日にでも受診していただきたいのです。そして、病院はレイチェルド病院のマルリード医師に診てもらうことをお勧めします」

ジェミニの言葉はまるで操作系の呪文のようなものだった。ジェミニの言葉に母親はあんぐりと口が開いてしまい。何をこのメイドは言っているのか理解できなかった。

「ママ」

 娘の言葉にわれを取り戻す母親。

「わかったは、明日にでもあなたの言うとおりその病院に行くことにするわ。でも、それと説教は別ですからね」

「はい、奥様」

 それから長い説教が始まった。


「いやあ、あなたは運がいい」

「はい?」

 レイチェルド病院のマルリード医師は感嘆の声を上げながら診察に来た奥様に言った。その、後ろではジェミニとお嬢様が心配した顔で見守っていた。

「あなたの肺のここのところにわずかに影があります。これは放置しておくと非常に危険なためすぐに手術をおすすめしますよ。イヤっー私でなかったら見つけられませんよこれは」

「は、はあ」

 医者の言葉にただただうなづくだけの母親。ジェミニの言葉は本当のことだったと、母親は考えるしかなかった。

 医者と母親が話す後ろでお嬢様とジェミニが話しをしていた。

「ママ、大丈夫なの?」

「はい、お嬢様。あの先生なら奥様の悪いところを治してもらえます」

「ジェミニが言うなら大丈夫だね」

 と笑顔でジェミニに言うお嬢様。ジェミニも笑顔でうなずいた。


母親が手術をする日。

 ジェミニとお嬢様は病院の手術室の前で、長いすに並んで座り手術が終わるのを待っていた。

「長いね」

「そうですね」

 不安な顔をするお嬢様をジェミニはやさしく見据えた。

「ジェミニが手術すれば早いよね」

「そうですね。私のほうが早いかもしれません」

 他の人間が聞けば何を言ってるのかと思う発言だがお嬢様はジェミニならできると思う。

「だったら、ジェミニが手術すればいいんだよ」

 とお嬢様は椅子から飛び降り、ジェミニの前に立つ。

「それはダメです」

「なんで?」

「私がいなくなるときのために、こういう風なつながりを築くいていく必要があるからです」

「……ジェミニ。いなくなるの?」

 ジェミニの言葉に呆然となるお嬢様。そのお嬢様に対して微笑みながらも平然と答えるジェミニ。

「そうです。私は明日もしくは今日。いなくなるかもしれません」

「な、何で?」

 ジェミニに顔を近づけるお嬢様。その顔の頬を汗が流れ落ちる。

「私はタダの雇われメイドだからです。私が今の仕事につけるのも屋敷のご主人様が私を雇われたからです。ですから、ご主人様次第で私は今日あの屋敷のメイドをやめなければならなくなるかもしれません」

「ジェミニがいなくなるなんてそんなこと絶対させないから!」

 とお嬢様はジェミニのスカートに抱きついた。

「お嬢様、私達の出会いなど一期一会にすぎません。お嬢様はもっと多くの人に出会い、お嬢様の幸せを分け与えてください」

「ジェミニがいなきゃ意味ないよ」

 と泣きそうな声で必死にしがみつくお嬢様。

「私がいなくても、今のお嬢様ならがんばって他の人に幸せを運ぶ事ができますよ」

「いやだ、いやだ、いやだ!」

 お嬢様は首を振り必死に否定した。ジェミニはそんなお嬢様をやさしく見つめる。

 すると、手術室のランプが消燈しドアが開いた。それに気づいた二人は出てきた医師に近寄った。

「先生、お疲れまです。奥様は大丈夫でしょうか?」

 丁寧な言葉遣いでジェミニは医師に聞いた。

「ええ、大丈夫ですよ。すぐ目覚めると思います」

「よかったですねお嬢様」

「…うん」

 にこりと微笑むジェミニに対し、お嬢様の顔には陰りがあった。


 母親の眠る特別病室にジェミニとお嬢様はいた。すると奥様の目がゆっくりと開き二人を視認した。

「……手術は、成功したの?」

 寝起きした声で語りかける母親にジェミニは答えた。

「はい、奥様。手術は無事に成功しました」

 ジェミニの言葉を聴き、安堵のため息をつく母親。そんな母親にかけよるお嬢様の一声はこうだった。

「ねえ、ママ。ジェミニいなくなったりしないよね」

 母親の心配よりジェミニ方のを心配するお嬢様。そんな娘に優しく頬を触りながら母親は言った。

「ばかね、ジェミニがいなくなったりするわけないでしょ」

「そうだよね、そうだよね」

 お嬢様は母親の手を両手で必死に握った。約束させるかのように。

「ジェミニ」

「はい、奥様」

「ずっと屋敷にいて頂戴。あなたがいたいと思う限り」

「お言葉ありがとうございます」

 頭を下げるジェミニ。その言葉を一番喜んだのはお嬢様だった。この日の事をお嬢様は忘れなかった。ジェミニはいつまでもいてくれるとそう思ったからだ。


 母親にジェミニと一緒なら、外出してもいいと言われたので、外に堂々と出かける2人。

 町の中心の噴水広場はたくさんの人でにぎわっていた。だが、その光景を噴水近くのベンチに座ったお嬢様は不安なまなざしで見ている。

「ねえジェミニ」

「はい、お嬢様」

 隣に座るジェミニは答える。

「このたくさんの人たちに私の幸せを分け与えるなんて無理じゃない? 全然知らない人に幸せを与えるなんてできっこないよ」

 お嬢様は顔をむくれて言った。

「お嬢様。見ててください」

 とジェミニは立ち上がる。そして、淡い声を発すると歌いだした。その歌は噴水の周り、いや、聞こえる者の全てがその歌の虜となったがごとく、足を、動きを止めその女神が歌うかのような暖かな歌に耳を傾けた。横にいたお嬢様もただただジェミニの歌に聞きほれ惚れる。

 そしてジェミニの歌が終わり軽く会釈するとわれんばかりの拍手と喝采が噴水広場に響き渡った。

「お嬢様、これが幸せを分けるということです。人は分かち合いその幸せ浸ることをする。それが幸せにつながります」

「私にも出来るの?」

「はい、お嬢様にも出来ますよ」

 ジェミニは笑顔で答えた。

「私がんばるよ」

「では、帰ってお勉強しましょう。昨日の復習ですよ」

「ええ、やだああああ」

 その場を暖かい笑みが包んだ。


 ジェミニは朝お嬢様を起こし、着替えを手伝い食事を用意し一般教育を勉強を教える。昼に食事の用意をし屋敷内のほかの使用人たちのお手伝いをしながらお嬢様に何をしているのかを勉強させる。外にお嬢様と一緒に外出し同年代の子供たちと一緒に遊ばせ絆を作る。夜になると食事を用意し就寝まで付き添う。その後はこの屋敷を守るための行動をおこす。誰にも知られずに。

 そんな毎日をお嬢様、いや、屋敷の者達と暮らすジェミニの周りには笑いが絶えなかった。誰もが続く毎日を送れると思った。

 ただ一人を除いては。


 ある日の夜。

 ジェミニはこの屋敷のお嬢様の父親に呼ばれた。父親の部屋に入り中央に座るジェミニを目秤している者にジェミニは頭を下げた。

「ご主人様、私に何用でしょうか?」

「お前は何でも出来るそうだな」

「いえ、私ができるのは些細なことでしかありません」

「だが妻の病気を発見し、娘も歩けるようになった。これはお前が何かをしたんじゃないか?」

「いえ、ただ、偶然が重なっただけです」

「偶然ね」

 ジェミニが頭を下げる父親はこう言い放った。

「では、私はこの国の指導者にお前の力でなることが出来るかね?」

 その問いにジェミニは答えた。

「率直に言ってもよろしいでしょうか?」

「かまわん」

 ジェミニは頭を上げ父親を直視して言った。

「ご主人様が指導者になれる可能性は5パーセント以下です」

 その言葉に父親の顔はひきつった。

「なぜかね」

「時間が足りません」

「時間?」

 ジェミニは言葉を続けた。

「この国の指導者は民から選ばれた議員から選ばれます。ですがご主人様のいる立場では、指導者になるためのつながりが少なすぎます。例えなったとしても、ただの傀儡。真の意味での指導者になれません。ですから、そのつながりを増やすだけの時間がご主人様には足りないのです」

「お前の考えだと何年かかる?」

「20年は考えていただけないと」

「20…」

 さすがに父親は言葉が詰まった。それだけの期間の席を維持することなど自分には無理だと悟ったからだ。

「お前の力を使ってもか?」

「私の力で明日あなたが指導者になっても、民が納得しません。あなたを引き摺り下ろすために、団結するでしょう」

「…そうか」

 父親はぐうの音も出なかった。

 静かな目でみていたジェミニはひとつの意見を出した。

「ただ、確率を挙げる方法は存在します」

「確率?」

「はい、ご主人様がご自分で指導者になるための確率を上げる方法です」

 そういうとジェミニはまるでマジックで物を出すように、大きな厚手の本を左手に出した。そして右手からペンを出す。まるで奇術師のショーのようにその厚手の本に恐ろしい速さで書き出した。何もかかれてない白いページは文字でぎっしりと埋まっていく。父親の目でおえるはずもなく右手が見えずただページがぱらぱらとめくられていくだけだった。

その作業が終わると何事もなかったかのように前に歩き出し、書き込んだ本を父親にの眼前に差し出した。

「この本にはこの星のあらゆる可能性が書かれています。それを利用し、ご主人様がご自分で選んだ可能性を使って指導者への道を歩かれるのが最善の作です」

 差し出された本を見てご主人様は、本当にそんなことがかかれているのか? 疑問に思いながらもその本を受け取ろうとした。

「ただし、この本を使っても、ご主人様が幸福になることはございません。家族の方々も幸せには出来ません。これをつかわずに幸せへの道を探していただきたく存じます」

 ジェミニの説明に一度は止まった手だが、ご主人様は本を受け取った。軽くページをめくるときれいな字で色々な確率の数字がかかれた文章が事細かにかかれている。

「こんなものでわたしが指導者になれる? 」

 くだらんといわんばかりに本を机に放り投げると、ジェミニに命令した。

「とっとと自分の仕事にもどれ」

「はい、ご主人様。仕事に戻ります」

 ジェミニはそういうと何事もなかったかのように部屋を出て行く。

 部屋には父親とジェミニが書き上げた本だけがのこった。

「買いかぶりすぎたか…」

 妻から聞いた話を鵜呑みにしてしまった自分を笑いながら本に目をやった。すると、本には項目に分かれるラインがあった。その中でも、一番長いラインが気になり再び本を手に取る。

 一番長いラインの正体は人物のラインだった。

 パラパラとページをめくると目に付いた名前があった。

「ファウスト…。ああ、あの男か」

 それは父親の仕事関係の男の名前だった。

「日付も書いてある。何々? 今週中に亡くなる可能性、80パーセント」

 それを呼んで父親は笑った。

「あの健康自慢の男が?」

 父親はその本を閉じた。

 無駄な時間を過ごしたと天井を見上げながらそう思った。


 あれから数日たったある日の事だった。

 メイドであるジェミニはまた主人であるお嬢様の父親の部屋に呼ばれた。

「ご主人様何か私に御用でしょうか?」

 父親の前に立ったジェミニはそう言った。

 ジェミニが聞いてきたにもかかわらず父親は黙ったままだった。

 そして、重い口が開いた父親の言葉はこうだった。

「……ジェミニ。お前がわたした本に書かれていた男が先週死んだ。」

「そうですか」

 ジェミニは何事もなかったかのように、言葉を口にした。

 父親の言う男というのは、ジェミニから渡された本で見つけたファウストという男。ファウストが突然の心臓発作で死んだのは父親が本を渡された次の日だった。

「それで私は、政府の採掘関係の部署に連絡しこの本に書かれている場所を掘ると書かれたとおりの石が出てきた」

「そうですか」

 ジェミニは平然と答える。

 その態度はロボットとして当たり前だが、父親には神か悪魔に見え始めた。

「この本には、人の死、貴重な資源、天候、自然災害が起こるあらゆるものの確率が書いてあったよ」

「そういう本です」

 父親の本の説明にただ平然と答えるジェミニ。

「この本を、いや、この事実を知ってるのは書いたお前だけだな」

「はい」

「……」

 ジェミニの言葉を聴いた父親は長い沈黙に入る。

 時計の長い針だけが進み部屋は針の音だけが刻む世界となった。 

 父親の頬からは冷や汗が流れその汗が雫となり机に落ちると重い唇が開いた。

「お前に暇を出す」

 その言葉に何も感じずにジェミニは言う。

「わかりました」

 ジェミニはその言葉を聞きお辞儀をした。

「長い間雇っていただきありがとうございます」

 そういい終わると父親を背にし部屋のドアに向かうジェミニ。

「……この本のことは」

「誰も言いません」

 父親の問いに答えるとジェミニは静かに部屋を出て行った。

 足音が聞こえなくなるまで父親は待つと机にある電話を手にとり番号を押した。

 電話の相手が出ると、

「私だ、用意は出来てるな」

 その目は野心に燃えていた。


 自室のひとつの高級な服が並ぶ部屋そこでお嬢様の母親は次に出るパーティーに出る服をジェミニからもらった首飾りを着けて選んでいた。

「迷うわあ」

 ジェミニから渡されたときは、見栄えがいいだけの装飾のものだと思っていたがパーティーに着けていくと、名のある店の物だと誰もが騒ぎ出し奥様はそのパーティーの主役になれた。

「ジェミニには感謝しなくちゃね」

 まるで踊るように次々と服を選ぶ母親。

 次の服を鏡をみて決めようとすると、そこにはジェミニが母親の後ろに映っていた。

「あら? ジェミニいつからいたの」

「今です。奥様」

 ジェミニは自然に答えた。

「見て、あなたのくれたこれ皆から大評判よ。本当にありがとう」

「それは良かったです。……奥様」

「何?」

 母親は服を抱えながら次の服を取ろうとする。

「ご主人様にお暇を出されました。今までこの屋敷に働かさせてもらいありがとうございます」

「え?」

ジェミニの寝耳に水の言葉に、母親は持っていた服を落としてしまった。

「何を言い出すの? 主人がそんなことを言う訳ないじゃない」

「ご主人様の言葉を再生しましょうか?」

 母親は言葉に詰まった。ジェミニは本当に暇を出されたのだと。

「まって、あの子はどうなるの? あなたがいなければあの子の笑顔がまた消えてしまうわ」

 ジェミニの両腕をつかむ母親はどこにも行かせないように力の限りを出す。

「私がいなくても、笑顔を作るのは奥様の役目です。お嬢様をお願い致します」

 ジェミニは母親が娘に約束するかのような笑顔でお願いした。

「ちょ、ちょっと待っててね。主人を説得するから」

 母親はあわてて部屋を出て行った。

 ジェミニは待つことなくその場を去って行った。


「ほんとに行っちまうのかい?」

 老婆の使用人がさびしげな顔でジェミニに言った。

 玄関の大広間は屋敷で働く使用人達が、ジェミニの周りに集まった。ジェミニの別れの挨拶に、一番最初に聞いた使用人が他の使用人たちを呼び、近くにいた使用人全員が集まった。

「はい、ご主人様にお暇をいただきましたので」

「さびしくなるねえ」

 ため息をつき残念がる老婆。集まった使用人の一人が声を上げた。

「でも、今は雨が降っている。明日にしたら」 

 ジェミニは首を振り答えた。

「私はロボットです。関係ありません。皆様ありがとうございます」

ジェミニはそういうと玄関へ歩き出した。

 止める物は誰もいない。もし、止めれば自分もお暇を出されかねないからだ。

 皆が見つめる中、ジェミニは玄関のドアを開いた。

「皆様に幸せがありますように」

 優しい声で使用人たちのほうに振り返り言うジェミニ、そのまま消えるように出て行き、玄関は閉まった。

それが使用人達が見たジェミニの最後の姿だった。


 雨の中ジェミニは夜の街を歩く。

 夜の街にメイドが雨に濡れる、誰しもが振り返るようなものだがその日は町を歩くものが誰もいない。

 まるでジェミニを静かに送り出そうと、誰も出ず黙っていようとしているかのような光景だった。

歩くジェミニの前に丸い光が並びだした。

 それはゆっくりと大きくなり、ジェミニを照らすほどの距離となった。その丸い光は軍用車のライト、ちょうど町の広間のような場所に何台もの車がジェミニの5メートル手前に止まッた。

 軍用車から何十人もの兵隊が長銃を持って現れ、ジェミニを銃で取り囲んだ。

 車からゆっくりとした足取りで降りた指揮官は、兵隊達の後ろで叫んだ。

「あのメイドロボットを破壊しろ。国家の存亡にかかわる敵だ」

 兵隊達の安全装置をはずした長銃のトリガーに指がかかり、雨はいっそう増す。

その兵隊達を見て微笑んだジェミニはこういった。

「私は誰にも言わないっていったんですけどね」

 指揮官が兵隊達に発射の声を上げようとした瞬間。

 ジェミニの胸から巨大な黒い手が出現し、ジェミニの前方にいた兵隊達を一瞬にして掴み、指揮官のはるか後方へと突き出るように伸びた。

 何が起こっているか理解できない兵隊達は硬直した。

 その硬直からいち早く解けた指揮官は叫んだ。

「う、撃てええええ!」

 その夜、この場に出撃した兵達と指揮官はこの世から消えた。


「ジェミニどこ?」

 いつもならやさしくベッドの傍にいてくれるはずのジェミニがいない。

 お嬢様は薄暗い屋敷の廊下を歩いて探した。

「あれ? パパとママの声」

 お嬢様は父親と母親の声のするほうへと歩いていった。

 そこは小さく開いたドアから光と怒鳴り声が飛び出していた。

「あなたは何を考えているの。私の病気を教えてくれたメイドに暇を出すなんて、考えられないわ」

 母親は父親に厳しく批難していた。

 何も言わず父親は黙っている。

 そんな光景をお嬢様はみていた。

(何を話しているの?)

 二人の、こんな姿を始めて見るお嬢様にはわからなかった。

「あれは危険だ。私の判断でこの屋敷から出てもらった」

 重い口をあけた父親は母親にそう言った。

「危険? ジェミニのどこが危険というの」

 母親のジェミニの言葉にお嬢様は思った。


(ジェミニ?出て行った?)

 

お嬢様は、口喧嘩する両親の部屋を後にして暗い廊下を走り出した。


「お嬢様。こんな時間に」

 屋敷の玄関前いた使用人が、突然走ってきたお嬢様を見て驚いた。

「はあ、はあ、ジェミニはどこ?」

「え? ジェミニ?」

「ジェミニはどこ?」

 お嬢様の熱意の質問に使用人は答えた。

「さっき玄関から出て行きました」

 それを聞いたお嬢様は、使用人を振り切り雨が降る夜の町へ出て行った。


 暗く雨が降る街を必死に走るお嬢様。

 お嬢様の頭の中は、あの言葉でいっぱいだった。


「そうです。私は明日もしくは今日。いなくなるかもしれません」


 涙が雨と混じり、小さなつぶらな目は必死にジェミニを探した。

 その前方からだった。大きな音がお嬢様の耳に飛び込んできた。

「ジェミニ?」

 今走る道の曲がり角の先から聞こえた音。

 お嬢様はひたすら走る。わずかな希望を掴むために。

「ジェミニ!」

 角を曲がりお嬢様が見たものは黒い壁だった。

 町の道をすっぽり覆うほどの巨大な壁。その壁をゆっくり上へと見ていくお嬢様。

 そこには巨大な目がお嬢様をみていた。

「……なに?」

 怖かった。

 町並みの屋根よりも高い位置にある目は、お嬢様には恐怖の対象でしかなかった。

 お嬢様は雨に濡れた地面にしりもちをついてしまう。

「ジェミニ、ジェミニ」

 まるで呪文のごとく繰り返し、この恐怖を取り除いてもらいたい人物を呼び出したいお嬢様。

 だが、黒い壁が動き大きな手がお嬢様を掴もうと迫る。

「ジェミニイイイイイイイイイイ!」


 お嬢様が叫んだその瞬間。 

 覚えのある暖かさがお嬢様を包み込んだ。

「来てしまったんですね。お嬢様」

 お嬢様はジェミニ抱かれていた。

 雨が降っているはずの外なのに、雨を感じず。景色も真っ白になり、音もジェミニの声しか聞こえない。ただ、幸せと感じる二人だけの空間がそこにはあった。

「ジェミニ。会えた。私、会えた。もうどこにも行かないでジェミニ」

 お嬢様の必死のお願いにジェミニは答えた。

「お嬢様ここでお別れです」

 その残酷な言葉に、お嬢様の目は涙であふれた。

「何で? パパがいったから? そんなの」

「いいえ、お嬢様。お嬢様は私がいなくても、もう大丈夫ですよ」

 暖かい光のジェミニはそう言った。

「大丈夫じゃない。ジェミニがいなかったら、歩けなかった。ジェミニがいなかったら幸せなんかわからなかった。ジェミニがいなかったら」

「でも、私を探しにここまでこれたじゃありませんか」

 大泣き顔のお嬢様にジェミニは言う。

「私を探しに夜の町を歩く勇気、私に会いたいと思う心、そして、私とまた会えた運。お嬢様はそれを持ち合わせたのです」

 ジェミニの言葉を固唾をのんで聞くお嬢様。ジェミニは続ける。

「もう、私はお嬢様に教えることはありません。今度はお嬢様の力で他の方に幸福を教えてあげてください」

 次第にジェミニの体が暖かさがなくなっていった。

「いやだ、いやだ、いやだ。ジェミニと一緒にいる」

「私の長い旅にお嬢様を連れて行くことはできません」

 さらに消えていくジェミニを、お嬢様は逃がすまいと掴もうとするがすり抜ける。

「ジェミニ。ジェミニ」

「さあ、お嬢様。お別れです」

「嫌だ。ジェミニがいなくなったら幸せじゃなくなるよ」

「お嬢様……。私……は、信じていま……す。お嬢様が……人に幸せを与える……ことが……でき……ると。さよう……なら……お嬢様」

「ジェミニ」

 ジェミニは淡雪のように姿が消えた。

 その瞬間お嬢様は白い空間から抜け出た。

 現実へと。


「お嬢ちゃん大丈夫かい? どうしたんだい?」

 その声でお嬢様は悲しい夢から目を覚ざめる。

 声をかけたのは雨に濡れた一人の警官だった。

 お嬢様がいたのは黒い大きな手に掴まれそうになった場所。

 そこは少女と警官以外誰もいない。

 警官は夜の町の見回りをしてる最中、大きな音に気づきこの場所までやって来て雨に濡れたお嬢様を見つけたのだ。

「ジェミニは?」

 お嬢様は

「ジェミニ? 君の知り合いかい? ここら辺にはお嬢ちゃんしかいないよ」

「え……」

 お嬢様の顔は見る見る青ざめた。

「こんな雨の夜更けにどうしたんだいそんな青い顔で。それもこんな何もない場所で」

 というと警官は辺りを見回す。

 雨が降る意外はいつも見廻る夜の町の風景。

 誰も外に出ていない、何も壊れていない、何事も起こってない場所だった。お嬢様を起こした警官も大きな音の場所に来たはずなのに、何も変わったことがなく最初は狐に包まれたようだった。

 警官の問いにお嬢様は何も答えない。

 ただ、ジェミニがいない。

 そのことだけが頭の中でいっぱいだった。

 ふと、お嬢様は自分のズボンのポケットの違和感に気づいた。

 出してみると、それはジェミニがいつもつけていたリボン。

 

 あの時……



「ねえ、ジェミニそのリボン頂戴」

「すいませんお嬢様。これは私の大事な物なのです」

「えー、欲しいよ」

「それなら、私がここを去るときに同じ物を差し上げましょう」

「去るって、いなくなるってこと?」

「はい」

「じゃあ、いらない。ずっといてよジェミニ」

「そうですねお嬢様」


 そう、優しい笑顔で微笑んでくれたジェミニはもういない。

 そのことがお嬢様の目から溢れんばかりの涙が物語る。

「ジェミニ! ジェミニイイイイイイイイイ!」

 お嬢様の言葉は、雨が降る夜空へと駆け抜け消えていった。


 この日、銀河からジェミニというメイドロボは消えた。

 幼い少女の心と記憶に幸せと悲しみを残して。

次回 エピローグです

ジェミニをなくしたお嬢様のその後

お楽しみください

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