幸福のためなら
第2章です。ゆっくりお読みください。
第2章 幸福のためなら
「ぶうううう、歩けるのに外にいけないなんてそんなのないよ」
自分の部屋の窓から外をみながら、お嬢様は不満をたれていた。
歩けるからといって、外にいけるわけではなかった。
両親から屋敷からの外出禁止を言いつけられたのだ。
「そんなに外に出たいですか?」
と椅子に座ったメイド、ジェミニが尋ねた。
「出たいよ。もおおお」
「では、出ちゃいましょ」
「え?」
お嬢様はその言葉に驚きジェミニのほうに振り返った。
「どうやって?」
お嬢様がたずねると、ジェミニは自分の両耳についているハート型のアクセサリーをとると、ベッドとその横に投げた。
すると、お嬢様とジェミニの姿をした者が現れた。
「ええええ?どうなってんの?」
「さあ、どうしてでしょうね」
笑顔で答えるジェミニであった。
「さあ、いきましょうお嬢様」
とお嬢様を抱きかかえようとするジェミニ、だがそれをドア越しにみている者がいた。
「どこに行きます?」
ジェミニは平然な顔で聞く
「え~と、お花がいっぱい咲いてるところ」
「ここから近いコスモ平原ですね。わかりました」
お嬢様を抱きかかえるとジェミニは跳んだ。
そう跳んだのだ、まるで魔法のようにお嬢様の住んでいる町が一望できるまでの高さまで飛んだのだ。
「す、すごーーーーい」
ただ、ただ、お嬢様は驚くばかり、
その奇跡を起こしている本人は平然な顔でほかの家の屋根に降りるとまた高く飛んだ。
「きゃああああああ、もう、すごいよジェミニ」
まるでジェトコースターにでも乗ってるかの様にはしゃぐお嬢様。
「ありがとうございますお嬢様」
そう答えるジェミニだった。
コスモ平原に着いた二人。
お嬢様は眼前に広がる花畑におおはしゃぎ。
ジェミニは微笑みながら見ていた。
しかし、その二人に迫る不穏な影があった。
平原の近くの森に潜み機会をうかがっていた。
「お嬢様ちょっと目をつぶっていただけますか?」
唐突にジェミニはお嬢様に頼んだ.
「目を?」
「はい」
笑顔で答えるジェミニ。
「わかった」
目を閉じるお嬢様。
それから十数秒後。
「目を開けてもいいですよお嬢様」
目を開けたお嬢様の前には、花畑の集合体とも言えるほどの花束がジェミニによって差し出された。
「うわあああ。すごい、これどうしたの?」
「私が今集めました」
「え?今?すごおおおおい」
ただただ驚くお嬢様。
「お嬢様。この花束をつかって屋敷で働く人たちに幸せを運びましょう」
「幸せ?」
「はい」
ジェミニはやさしく微笑む。
「この花はつまれたことにより花の一生を終えました。ですが、これを屋敷の者に渡すことにより幸せの道具へと生まれ変わります。お嬢様それをあなたがするのです」
「私が?」
「はい。お嬢様にも他人を幸せにすることが出来るのです。この花たちを使って」
「…出来るかなあ私に」
躊躇するお嬢様
「できますよ。私もついてます」
微笑むジェミニ。
「そうだね。ジェミニがいるもんね」
「はい、お嬢様」
にこやかな笑顔の二人を花畑の花たちが見守っていた。
そんな二人の行動を花畑近くの林から見張っていた男が言った。
「よし、予定通り今からあの子供をさらうぞ」
と仲間達がいるほうへと顔を振り返るとそこには誰もいなかった。
ただ静かな木々の後景が男の目に映る。
「お、お前ら…」
お嬢様を誘拐しようとしていた男がうろたえる。
その男の上で6つの目をひからせ大きな口をあけた何かが静かに男に近寄った。
「ではお嬢様帰りましょうか」
ジェミニは大きな花束を左手に持ち、右手でお嬢様の手を握った。
「うん」
素直についていくお嬢様。
「ねえ、ジェミニまたお歌うたって」
「はい、お嬢様。では準備をしますね」
「準備?」
お嬢様の手を離したジェミニは自分の髪に付いてるリボンを取りはずした。
すると、そのリボンは大きくなり、子供サイズのフカフカのベッドになった。
「すごーーーい」
お嬢様は感激する。
「さあ、これに寝てください」
「うん」
お嬢様はジェミニの出した大きくなったリボンに飛び込む。
フカフカのリボンがゆっくりと体を包む。
「すっごいやわらかい、ジェミニすごいよ」
「それはよかったですね。では」
ジェミニはお嬢様の乗ったリボンを自分の背に背負うと歩き出した。
「では、僭越ながら歌わせてもらいます」
ジェミニの歌が花畑にまるで風のようにながれる。
「ジェミニ…、なんか眠くなってきたよ」
「寝てくださいお嬢様。次に目が覚めるときはベッドの中ですよ」
ジェミニに言われたせいなのか、お嬢様の目はゆっくりと閉じていった。
「ジェミニ…」
「はい」
「どこにも行かないでね。一緒に…」
そういい終えることなくお嬢様は眠りに落ちた。
「それはお約束できません。お嬢様」
聞こえることのない言葉をジェミニは静かに言った。
帰り道
林の近くを通りかかったジェミニを見つめる大きな化け物がいた。
六つの目を光らせ、大きな口は唾液をたらし血のにおいを周囲に撒き散らしていた。
「ありがとう。下がって」
ジェミニがいうとその化け物は忽然と姿を消した。
ただ、その場には血の匂いだけが残るだけだった。
「どうやら裏切り者がいるようです。お嬢様」
ジェミニの目は遠くを見つめていた。
まるでこれから狩るものを見つけるがのごとく。
夜
町の片隅の路地裏で男達があわてていた。
「あの家の娘を攫いに言った連中と連絡が取れない」
「どうしたんだ一体」
「…まさか、あのメイドが」
「メイド?それがどうした、こっちは腕利きを用意したんだ。お前の情報で娘が外に出たのを知って行動を起こしたのに、これじゃあ俺たちかえれないぞ」
「わかってる。だが、あのメイドなら…」
「あなたが裏切り者だったんですね」
その言葉に男達の会話が途切れた。
言葉が聞こえたほうに一斉に振り向くと男達の目の前に、ゆっくりと髪にリボンをつけたメイド姿の女が向かってきた。
まるで死神のように。
「誰だこいつは?」
「こいつだよ、新しく入ったメイドの…」
といおうとした言葉を、メイドはさえぎった。
「あなな達に一度だけ忠告します」
その氷のような声に男達は萎縮した。
「あの家への一切の手出しをしないこと。そうすればあなた達は生きることを許されます」
メイドの言葉に汗をかく男達、メイドはまるで男達を道端の石ころのように見つめていた。
「そんな言葉で俺達がやめると思ったか」
男達の一人が刃物を取り出すと、他の男達もいっせいに刃物を出した。
「私は警告しました」
その声は彼らが耳にした最後の言葉だった。
メイドが彼らの目に見えないほどのスピードで右上に振り上げると、頭と胴体が切り離された死体の山が出来上がった。
何事もなかったかのようにメイドは死体に近づく、すると彼女の髪が一本蛇のように動き切断された頭に突き刺さる。
「側頭連合野到達…、記憶読み込み開始…、…場所、ピルチ酒場二階奥」
メイドは静かに口にした。他の仲間の場所を。
まだ明かりがともる繁華街のピルチ酒場2階の奥の部屋に、突然あわてた姿の男が突入してきた。
「どうした?他の仲間と合流したんじゃないのか」
その部屋の中で一番えらそうなしぐさをしてる男が入ってきた男の顔を見ていった。
「殺された。皆殺されたんだ!」
「なんだと?」
「俺達に依頼してきたあの方に伝えなきゃ。俺達も殺される。あの方に連絡を!」
「まて、依頼主になんて説明するきだ?全滅だなんて説明できないだろ」
「あの方に連絡して、もっと人を増やしてもらうんだよ。でないと俺達も殺される」
「バッジ様の私兵をよこせっていうのか。無理無理! 俺達によこすやつなんていねえよ」
その言葉を聴くと今まであわてていた男の表情が一瞬でまるで何事もなかったかのような態度になった。
そして
「バッジ、この国の高官。サルバルート・テイル・バッジ氏で間違いありませんね?」
と機械のような女性の声でさらに氷のように感じる雰囲気に変わった男はそういった。
「え?」
今まで男と対話していた男は驚き、周りにいた仲間達も驚きを示した。
その部屋の人間が硬直したように動かなかったがただ一人だけこの部屋に入ってきた男が動いた。
背筋まっすぐのばし驚いている人間達を観察するように目を動かす。
すると、その姿がまるで霞がはれていくかのようにメイドの姿へと変わった。驚きがその部屋でに広がった。
メイドはつぶやく。
「抹殺…開始」
それがその部屋にいた者たちの最後に聞いた言葉だった。
夜は続く
夜の闇に包まれたバッジ氏の豪邸。国の税金を湯水のごとに使い、賄賂を受け取って立てたその豪邸を高台から見つめる者がいた。
夜の輝く星がその者に光を浴びせるとそれはメイドの姿をした女性だった。そして、その周りを異形の化け物たちが取り囲む用に屋敷のほうを向いていた。
「あの屋敷にいる者たちで、使用人以外はすべて過去にバッジしに何らかの仕事を請けおったものたちです。……殲滅をお願いします」
その言葉をきいたのか、一瞬でその場から化け物たちは消えてしまった。
そしてメイドも、まるでその場に最初っからいなかったかのように消えてしまい。高台は静かな夜に戻った。
バッジの豪邸を警備するやさぐれた男。過去に何十人もの人間に脅迫行為をしたことがある男である。
愛用のタバコを吸おうと胸のポケットに手をかけると、不意に周りが暗くなった。男は顔をあげるとそこには6つ目の化け物が大きな口を開け立っていた。それがその男の最後に見たものである。
「だから、あの時さ」
「早々あいつの顔ったら」
過去にバッジの命令で痛めつけた人々の自慢話をしていた。そこへ、カツンカツンと音を立てながら近づく者がいた。
男達は気づき音のするほうに持っていた武器を差し向ける。そこには全身を黒き甲冑できこみ黒いマントをつけた者がたっていた。
「誰だお前は?」
と男が言い終えた瞬間。黒い甲冑の者は右手を差し出す様に突き出すと、男達の間に黒い丸のようなものが現れ男達を一瞬で吸い込んでしまった。
黒い甲冑の者は再びカツンカツンと歩き出す。次の獲物を探すかのように。
「誰かいないのか!」
広い屋敷を所有者のバッジは歩き回っていた。呼び鈴を鳴らしても誰も来なかったからである。国の税金を吸収したかのような贅肉を躍らせ、バッジは屋敷いるはずの使用人たちを探した。
「何で誰もいなんだ?」
バッジは太い首できょろきょろあたりを見ますが、誰一人見つからなかった。すると、廊下の奥から誰かが近づいてくるのがバッジには見えた。
「おいお前、他の全員がいないんだがどうした」
大きな声でバッジは叫ぶ。その問いに答える小さな声がバッジの耳に入った。
「他の使用人には眠ってもらいました。今ここにいるのはあなたと私だけです」
バッジはきょとんとした。何を言っているのか、バッジには理解が出来なかった。廊下の奥から来た者が夜の光に照らされると、それは一人の女性のメイドだった。
「誰だお前は?」
バッジが言うと、遠く離れたメイドは右手をゆっくりと上げバッジに向けた。
すると、右手が高速で伸び、バッジの首を掴むとそのまま巨体を廊下の奥の壁にたたきつけた。その衝撃は壁がへこむほどの物だった。
「がっ」
バッジは、背中からの激痛に襲われながら自分に何が起こっているのか考えた。だが、バッジに考える時間はなかった。見えないほどの距離にいるはずのメイドが一瞬で目の前に現れたのだ。メイドはバッジを高らかに掲げこう言った。
「あなたにひとつだけ聴きたいことがあります。何故あの家の娘を狙ったんですか?」
まるで死神のような声だった。恐怖にかられるバッジ。
「だ、誰の事だ!」
「あなたは自分が命令したことも覚えてないんですか?」
バッジの首をさらに締め上げるメイド。その行為にためらいはなかった。
「ま、まさかあの家の」
「なぜ?あの家の娘を狙ったんですか?」
そのときメイドの目の色ゆっくりと赤に染まり、まるで催眠術でもかけるようにバッジを見つめた。
「わ、ワシに…いれなかったからだ」
「何をです?」
「ワシの諸案に奴は賛同しなかった、だから命令して…」
「そんなことで、あの家の幸せを奪おうとしたんですか?」
その言葉を放つジェミニの髪の毛が一本、蛇のようにうねうね動き一気にバッジの体へと突き刺さる。バッジが痛みを感じられないほどの細い毛は心臓部へと突き進んだ。
「あなたにあるのは死だけです」
死を発するメイドの言葉にバッジは青ざめそのまま、体が一瞬感電したかのように動くと動かない人形のように頭を下げた。メイドは右手を離すと死んだ肉の塊がボスンと落ちた。
「心配停止確認…抹殺完了」
メイドは静かにその言葉を口にした。
バッジ邸は夜の闇に包まれる。もう主人はいない、いるのは夜の闇に溶け込む化け物どもを従わせるメイドだけだ。そのメイドも夜の闇に消えていった。
「心配停止か。こりゃ事件性わないな」
現場指揮をとっていた刑事がそういった。
翌朝のバッジ邸にこの国の警察が集団で押し寄せていた。主人のバッジが死んだことに使用人が驚き、警察に通報したのである。
「大物のバっジが死んだんですか。こりゃ一大事ですね」
とバッジの死体があるベッドの横で話し合う刑事たち。
「でも、警備した連中が全員消えたってのは引っかかりますねえ」
「ああ、痕跡すら残してない。この遺体も死亡解剖に…」
「た、大変です」
とバッジの部屋に飛び込んできた警官がいた。
「どうした? あわてて」
「本部から急いで撤収せよとの指令が!」
「なんだと!」
その部屋にいた警察関係者が度肝を抜かれた。
「何があった」
「何でも新聞各会社にバッジの悪行の証拠が届けられて、その対応に上層部が、これ以上の捜査はするなと」
「……上のご配慮ってことかい」
苦い顔をしながら現場指揮の刑事は舌打ちした。
「撤収だ。急げ」
と部屋を出て行く刑事、話していた刑事もあとを追う。
「え?いいんですか?」
「どうも、こうも。上からの命令は逆らえねえだろ。急死だ急死」
「…仕方ありませんね」
がっくりと肩を落とした刑事はまっさらな廊下の壁の前を通って自分の所属する署へ帰っていった。
翌日。お嬢様がすんでいる屋敷の使用人たちの住まう家の前で、メイドが新聞を読んでいた。
バッジが死んだ翌日の新聞にはバッジの悪行がびっしりとかかれ、どこを読んでもバッジのことしかかかれてない新聞だった。
メイドは隣にいた同じ使用人の老人に読んでいた新聞を渡した。
「何か面白い記事でもあったかい?」
と老人は尋ねると
「いえ、いつもどおりの内容でした」
と笑顔で答えた。
「ジェミニ!」
とジェミニといわれたメイドは声のするほうへと振り返る。そこにはお嬢様が駆け寄ってきた。
「何をしてたの?」
「新聞を読んでおりました。お嬢様への勉強になるかもしれませんので」
「勉強やだよお」
ふくれっつらになるお嬢様。すると、何かを思い出したようにジェメミにいった。
「そういえば、うちで働いてる人が一人いなくなったんだってジェミニに知ってる?」
「はい、昨日から姿を見ていません」
「どこに行っちゃったんだろうね」
「さあ、どこにいったんでしょうね」
ジェミニはお嬢様に満面の笑顔で答えた。
第2章終わり
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