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幸福日

新たな刺客、ガイアを撃退した。

その日は救済騎士団の基地で晩御飯を食べていた。


「250円だ」

「………」


監督がそう言った。

(この人まだ言ってんのか…)


「わかってますよ、ちゃんと渡しますよ」


そう言い返す。

そのやり取りを何度聞かされたかわからない神楽は


「監督〜ケチケチしすぎだよ〜?男ならそれぐらいさ〜」


その言葉に監督が吠えた。


「バカ野郎!神楽!お前は働かないからわからないんだ!我が家は常にピンチだぞ!」


そう、ここの生活は主に監督が働いて支えている。

それに対して神楽はグータラである。

監督はいつもお菓子代で泣かされている。


「那央だって働いてないじゃ〜ん」


神楽がふてくされながらそう言う。

だが、当の本人はいない。





「だ、誰か…お助け……」


震えながらそう呟いていた。

吊るされていた。

結界を張り、唯依に巨大な岩の柱を生成してもらい、その頂上でロープ一本で吊るしてある。

テレポーターでありながら、高所恐怖症は致命傷である。

一刻も早く高所恐怖症を克服するための監督の案である。





「あいつもな〜働かせないとな〜」


監督が頭を悩ませていた。


「お前たちも少しは白井を見習え〜」


監督が続けて言う。


「何のバイトしてんの?」


つい気になって俺は聞いた。

それに対して白井は


「スーパーのレジ担当だ」

『………………………』


(あ、うん…良いのではなかろうか)

何故だろう、白井がスーパーのレジをしている所を想像するだけで何か来るものがある。


「と、とにかく…お前たちもグータラしてないで白井のようにだな〜」

「じゃあ私も学校に行こうかな〜」

「何!?お前ジャンケンに負けたろ!学校には行かせん!」

「ケチ〜」


監督が神楽とそんなやり取りをしていた。

(ジャンケンで決めてたんかい…)

その時


「あ、そうそう、アリアちゃん。学校で聞いたんだけど…」

「何でしょう?」


思い出したかのようにそう言う唯依にアリアが答える。

何事かと思ったその時


「ズッコンバッコンって何?」

『ぶふぅッ!』


俺と神楽がスープを吹き出した。


『………………』

「……?」


完全に空気が凍りついているが、全く理解できていない唯依は首をかしげている。


アリアが返答に困っている。

あの白井でさえ、固まっている。

監督なんて、スープに顔を突っ込んでしまっているではないか。


「統夜!君なんてこと教えてんの!」

「俺じゃねぇよ!?」


その空気に耐えられなくなった神楽が顔を赤くして俺に言ってくる。

俺も被害者なのだが…。

アリアが必死にあしらおうと考えに考えて出たのが


「つ、突いて引いてを繰り返す事です…」

『……………………………』


(間違ってはないが、それ何のフォローにもなってない気が…)

珍しくアリアが焦っていた。


「へぇ〜」


よくわからずにいた唯依だった。






(お!ここ露天風呂覗けるんじゃね!?)


吊るされながら那央はそう思った。

しかし、入浴の時間になると降ろされるという、那央の野望は呆気なく阻止された。





翌日。

その日は珍しく全員が朝からいた。

世間は日曜日である。

結局昨日は帰るのが面倒になり、寝袋を借りてリビングで寝た。


起きてみると、監督はタウ〇ワークとにらめっこをしていた。


「寝袋ありがとうございます」

「おう」


礼を言うと、監督は決め顔でこちらを見てきた。

反応に困る。

アリアは洗濯をしていた。

神楽は朝からお菓子を食べており、那央は雑誌を見ている。

白井はコーヒーを飲んでいた。

唯依はまだ寝てるのか、その姿が見当たらない。


「ふぁ〜」


気温も徐々に上がってきているこの季節、流石に寝汗をかいた俺はシャワーを浴びようとあくびをしながら脱衣所へ行く。

この家、露天風呂がある上にシャワールームもある。

何故そこだけ贅沢なのかは謎だ。

脱衣所の前に着き、そのドアを開ける。


「………へ?」


聞き慣れた声が聞こえた。

そして俺は自分の過ちに気づく。

普段一人暮らしの俺にノックをするなんて習慣はなかった。

そこにはシャワーを浴び終えたのか、髪はもちろん、身体の濡れた唯依がバスタオルを持ってドアのほうへ振り向いていた。

数秒の沈黙。


「き………」


唯依は顔を真っ赤にする。

(やっちまった…)

後悔してももう遅かった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


その沈黙に耐えきれず、俺まで悲鳴をあげてしまう。

リビングにいるメンバーが全員察したのか、

(平和だな〜)

そう思ったのだった。

ただ1人


「何であいつだけおいしい目に……」


悔しがる那央の姿があった。






額が痛い。

あれ以降、俺はリビングでずっと土下座をしていた。

もう額は真っ赤なのではなかろうか。


「ホントにごめんなさい…」

「もう良いよ〜」


謝り続ける俺に、逆に唯依が申し訳なさそうにしていた。


「鍵をかけ忘れた私も悪いんだし」

「でも…」

「お相子だからもう顔上げて、ね?」


渋々顔を上げると笑ってる唯依。

(裸を見られたにも関わらずこの振る舞い…あなたが女神か…)

涙を浮かべながら神々しい彼女を見ていた。

このバカップルをこれからもずっと見せられるのかと思うと、少しむず痒くなるメンバーたちだった。






「暇だね〜」

「働け」


神楽の言葉に監督が即答する。


「何か面白いことないかな〜」


監督を無視してそう続ける神楽だった。


「ねぇ、統夜君」

「ん?」


唯依に声をかけられる。

何事かと思えば


「どこか楽しい所ないかな〜?」

「別にこれと行って楽しい所は…」


シャキーン!

その時神楽が閃いた。


「どこかあるでしょ!?どこか!?」


急に目が変わった神楽にそう聞かれる。

あまりの目力に恐怖しながら絞り出す。


「ゲーセンとかで良いなら…」


そうなんとなく答えた結果


「ゲームセンター行ってみたい!」


唯依が予想以上に食いついた。


「ゲーセンなら俺んッ!?」


そこまで言ったところで神楽に口を手で塞がれる那央。


「あ〜でもやっぱ私たちはちょっと気分じゃないかも。ね、那央?」

「俺はべふに…」

「ねぇ…?」

「…ふぁい」


2人で何してるのか。

そう思っていると


「そういう事だから2人で言ってきて、ね?」


神楽はそういうが、当の本人は。

そう思いながら唯依を見てみると


「私は別に良いよ?」

「マジ?」

「うん」


結果、2人で行く事になった。

(これってデートじゃね!?)

俺は心の中でガッツポーズをする。

そんな中で監督は

(働いてくれ……)

そう思うのだった。


2人で基地、もとい家の前で集合し、いざ、ゲーセンへ向かった。

しかし、背後からは2つの影が迫っていた。






(やったぁぁぁぁぁぁぁ!)

そう思いながらテンションMAXの俺だったが、ある不安がよぎった。

(こんなところを学校の生徒の誰かに見られたら、刺されるんではなかろうか…)

そんな恐怖を感じながら2人歩幅を合わせて歩く。


「ゲームセンター楽しみ!」


テンション上がってるのは俺だけではなかったようだ。




「なぁ、マジですんの?」

「当たり前じゃん♪」


統夜と唯依の背後の影。

それは那央と神楽だった。

その格好は明らかに不審者だった。

サングラスをかけ、お決まりなのか、穴が開いた新聞紙を持っている。


「何でこんなこと?」


那央の質問に神楽が即答する。


「気になるじゃん?あの2人。唯依もその気が無いってわけでもなさそうだし」

「まぁ〜ね〜」

「まぁ、ぶっちゃけると、あそこまで付き合ってもいないのに仲が良いと応援しちゃうんだよね〜。那央聞いてる?」


振り向いた時、そこにもう那央はいなかった。


「あの馬鹿どこ行った!?」


周りを見渡すもいない。

(すっかりテレポーターなの忘れてた…)

そんな事を考えてるうちにハッと我に返る。

振り向いてみたら…。

ターゲットの2人すら見失った。

(……………………………帰ろ)

1人涙浮かべながら基地へ戻る神楽だった。






「おぉ〜!」


唯依がゲーセンを見て目を輝かせている。

何だか子供みたいで可愛い。


「初めて?」

「うん!」


さっそく2人で中に入るのであった。





やはり田舎であって、あまり大したものは無い。

新しいものも特に無いのだろうと確認し終えた時


「お〜……」


唯依がある1つのクレーンゲームから離れない。

何かと覗いてみたら、バカ面をしたよくわからない生物のぬいぐるみだった。

(え…まさか…これ?)


「これ…ほしいの?」


まさかと思って聞いてみた。


「うん!」


(マジかよ!)

(*´﹃`*)←だってこれだぞ!

これで2本足で立つうさぎみたいな生物だぞ!?


「………」


でもじっと見てると可愛くなくはない不思議。


「おまかせあれ」


そう言ってコインを入れる。


「取ってくれるの?」

「おう」


あんな顔されてたら、取ってあげるしかない。

そして俺はボタンを押すのであった。



流石田舎。

ぬいぐるみはいとも簡単に取れた。


「はい」


落ちてきたぬいぐるみを唯依に渡す。


「ありがとう!♪」


唯依が嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる。

(この笑顔のためなら300円なんて、なんてちっぽけなものだろう!)

その後もゲーセンの中をまわる。

そしてふと足を止める。

格ゲー、ブレイ〇ルーだ。

そこで氷使いのキャラを使っているプレイヤーを二度見した。

不良みたいな格好、オレンジの髪。

唯依が気づいて言う。


「ねぇ、あれって那央君…」

「気のせいだ、行こう」


唯依が言い終える前に背中を押して場所移動を促した。

(あいつ…トップランカーだったのね…)







夕日が綺麗な中、2人で歩いていた。


「楽しかった〜♪」

「そりゃ何よりで」


満足そうな唯依を見て俺も満足だった。

色んな事があった。

生徒らしき者を見つけては逃げ、今にも

「沙都子ッ!!」と言い出しそうな金髪のおっさんには絡まれて。

何だかんだありながら、最後は2人でプリクラを撮って帰ってる。


「全部大切にするね♪」

「うん」


ぬいぐるみとプリクラを抱えながらそう言う。

よっぽど嬉しかったのか、ずっと抱きしめている。

その笑顔はすごく眩しかった。

普段は妹の事で頭がいっぱいだろうに。

(こんなことで、その不安が少しでも笑顔に変えられるのなら…俺は…)

そんなことを考えながら、2人はゆっくり基地に戻る。



帰ってから、何故かまた那央は吊るされていた。











1つのある部屋に、その男はいた。

奥には実験室があって、間の強化ガラスが2つの部屋に分けていた。


「まさか2人もやられるとは…あのガイアまで…」

沈黙が流れる。

「所詮は失敗作でしたか…」


そして男は立ち上がり、1つのマイクの前に立つ。

奥の実験室につながっているマイクだ。

そして男は言った。


「出番ですよ…クラウド……」

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