超重力
「フ……」
『………』
少年は不敵な笑みを浮かべていた。
(こんな子供まで…。年齢的には柊とそんなに……柊は1歳下か)
ふと横を見るとアリアがこちらを睨んでいた。
(え…口に出してなかったよね……?)
「お前、名前は?」
監督がそう聞いた。
「僕の名はガイア」
「プッ…」
少年がそう名乗った時、那央が思わず吹いた。
その瞬間、少年の表情が変わった。
「貴様…今笑ったか……?」
その言葉にさっきまでの雰囲気はなかった。
押してはいけないスイッチを押してしまったのかもしれない。
「だ、だって…ガイアってお前…それ本名かよ…」
必死で那央が大笑いするのを耐えている。
相手の情報が無い以上、気に障るのはまずいと判断したのか、監督が那央の肩を叩いた。
「そんくらいにしとけ…すまなかったな…ガイア……………プッ…」
『……………………………………』
(あんた(お前)が笑うなよ!)
口に出さずともわかるとはこの事をだろうか、全員の意見が一致した気がした。
「そんなに早死にしたいのかい…」
ガイアの身体は震えていた。
(こりゃまずい、本気でキレてる)
「ま、待てガイア!流石に建物の中は戦いづらいだろ!外だ!」
監督がそう言った。
(確かにそれは一理ある。)
「別に良いよ…僕にとってはどこも同じだけどね…」
そう言って全員外に出た。
そして結界が張られる。
「全員気をつけろ…!奴の力がわからない以上、迂闊に動くわけにはいかない!」
『…………』
全員が無言のまま頷く。
その時
「フッ…」
ガイアが笑った。
今思えば、確かに監督の判断は正解だったのだろう。
わからない相手に迂闊に動くべきではない。
しかし『やつ』は例外だった。
ガイアが右腕を空に掲げる。
『………ッ?』
「ひれ伏せ」
その瞬間、身体が地面に叩きつけられた。
「ぐほぁッ!」
数秒間呼吸ができなくなる。
「何…これ…!」
「…重力か」
神楽のその言葉に白井が答える。
そう、これは重力だ。
身体を起き上がらせようとしても、すぐに押し付けられる。
「こんな…もんで…ッ!」
監督が身体を起き上がらせ、立ち上がろうとする。
流石監督である。
その筋肉は見掛け倒しではない。
「へぇ〜頑張るね、じゃあこれでどう?」
その言葉と共に重力が増す。
「なッ!」
再び監督が地面に叩きつけられた。
バキッ
『ぐあぁぁぁぁぁ!』
そのあまりの重力に身体から嫌な音がした。
きっと骨が砕けたのだ。
他の人間もきっとそうであり、皆の先程の声はその痛みから出たものである。
「このまま潰されちゃいなよ」
このままでは、心臓すら潰されて全滅だ。
この戦闘が始まった時点で、神楽の斬撃ならば決着は着いていたはずである。
慎重に行動した結果、その行動が裏目に出た。
しかしそんなのは結果論でしかない。
今はこの状況を覆す方法を考えなければ全てが終わる
「くっ…そ……!」
(ふざけんな…!こんなところでやられるようじゃ、俺は何のために!)
そんな時だった。
「大丈夫…やれます…!」
「あぁ…」
アリアと白井がそう言った。
他の人間に比べ、2人は焦りを見せていなかった。
(何か勝機が…!?)
そう思った時、2人の視線は那央に向かっていた。
(そうか!)
この混乱でまともな判断が出来ていなかった。
「那央!飛べるか!」
「…ッ!やってみる!」
監督も気づき、そう言った。
それに答える那央。
那央の能力が、一瞬でも空間に支配されないのであれば、いける。
だが、
「待てッ!」
咄嗟に俺はそう叫んでいた。
『……?』
それだけじゃ足りない。
俺はそう判断した。
身体の限界は近い。
(皆…もう少し耐えてくれ!)
「那央、何人まで飛べる!?」
俺はそう聞いた。
「俺を合わせて3人が限度だ!」
(いける…!)
そのやり取りを見ていたガイアは
「何をする気だい?さっさと死になよ」
本気を出したのか、更に重力が増す。
もう限界だ。
特に女子陣が。
「那央!俺と監督の所へ飛べ!」
「ッ……おう!」
俺の言葉に那央が意を決して飛ぶ。
「よし!」
監督の所へ飛んだ那央がそう叫んだ。
成功した。
やはり那央の力は一瞬空間に支配されない。
監督と共に俺の所へ飛んでくる。
(頼む皆、もう少しだけ!)
「那央!奴の上に飛べ!」
「何ッ!?」
俺が叫んだ時、ようやくガイアはこちらの作戦に気づいた。
だがもう遅い。
「行くぜッ!」
那央のその掛け声と共に3人はガイアのはるか上空へ飛ぶ。
「くッ!」
ガイアが焦り始める。
そう、那央が一瞬でも重力の影響を受けないのであれば、敵の上空へ飛べる。
そして、パワータイプの俺と監督がその重力を逆に利用してやれば…その威力は絶大である。
監督がブリュンヒルデを発現させる。
(イメージだ…!)
そう、訓練で教えて貰った。
力は一度発現すればあとは簡単。
もう一度その形を強くイメージするのだと。
そして篭手はその姿を現す。
「よし!」
俺のその声と共に、3人はとてつもない勢いで落下していく。
「くッ!」
ガイアは必死で対策を練っていた。
だが、無駄である。
那央が飛べるとわかった時に勝負はついている。
重力を解除しなければそのままパワータイプの2人が降ってくる。
もし解除して俺たち3人の勢いがなくなっても、神楽と白井がその隙を逃すはずがない。
チェックメイトである。
『くらえぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
そう3人が叫びながら落ちてくる。
それがあまりにも恐怖だったのか
「うわぁぁぁぁ!」
そう悲鳴をあげて重力を解除した。
その瞬間
「終わりだ…!」
一瞬にして白井がヘカトンケイルを発現し、高出力で放つ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
その叫び声と共に、ヘカトンケイルを受けたガイアは遥か彼方へと消えていった。
勝った。
地上にいた連中はそう思ったであろうが、俺たちは気が気ではなかった。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
別の悲鳴。
そう、俺たちのである。
ちゃんとこの時の対策は考えていた。
しかし…。
俺は今、信じられない事態に直面していた。
本来、那央が地上に向かって移動してくれれば良いのだが、隣を見ると、なんと那央は目を瞑っているのである。
(お前テレポーターのくせに高所恐怖症かよ!)
今度こそ潰れる。
そう思った。
(………ッ!)
その時、もう1つの対策が咄嗟に閃いた。
「ゆ、唯依!助けて!」
対策に気づいた時には既にそう叫んでいた。
「ッ…うん!」
言葉の意味を理解した唯依は、風の力を使い、無事3人は緩やかに大地に降りた。
『た、助かった〜』
3人で同じことを口にしていた。
するとアリアが
「全員の治癒を行います。もう少しの辛抱を」
そう言って、アリアは女子陣を優先に治癒していく。
「よく思いついたな」
那央がそう俺に言ってくる。
「いや、最初に気づかせてくれたのは柊と白井だ。あれがなければその次は思いつかなかった」
俺はそう言い、2人を見る。
アリアは少し微笑み、白井は相変わらず無表情だった。
「まずお前が気づかないといけないがな!」
「確かに(笑)」
監督の言葉に神楽が続く。
「すんまんせんねー!」
那央がひねくれたようにそう言う。
その空気に笑いが起きる中、治癒を終えた唯依が何やら嬉しそうに寄ってくる。
「……?」
どうしたのか。
そう聞こうと思った時
「名前で呼んでくれた!」
そう満面の笑みで伝えてくる。
落下の時に出た言葉、それを思い出した。
「あ、あの時は余裕なかったから、つい…咄嗟に…」
そう照れながら言う俺を見て、唯依は相変わらず嬉しそうだった。
そしてその2人を見る周りの連中は、相変わらずニヤニヤするのであった。




