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救済騎士団-ヒルフェリッター-

「………」


ただ沈黙だけが流れた。


「あ、あのー…」

「何だね?」

「あ、いや…」


聞きたい事は山ほどある。

しかし、今俺はこの密室で知らない男と二人きり。

それもなかなかのマッチョメンである。

そして何より、その男の俺を見る目が、明らかに獲物を取って食いそうな目をしていた。

そのあまりの恐怖に俺は何も聞けずにいた。


(この人ぜってーあっち系だ…)


あとどれくらいこの空間にいれば良いのか。

1分1秒がとてつもなく長く感じた。


でも…

そんなことがどうでもよくなるくらい聞きたい事が1つあった。

意を決して口に出す。


「あの…」

「ん?」

「あの女の子は…?」


小鳥遊唯依。

俺を守ってくれた恩人。

彼女の安否だけが不安で仕方がなかった。


「あぁ〜唯依の事か。大丈夫だ、君のおかげでもう元気だ。」


俺の不安そうな顔を見て察したのか、男は微笑みながらそう言った。


「そうですか…」


思わず安堵のため息が漏れる。

だが、そこで俺は違和感に気づいた。

(ん…?もう元気…?さっきの戦闘からまだ1時間半ぐらいしか…)


そんな疑問を持った時、ドアは開いた。


「監督〜準備できたってさ〜!」


元気そうな男子が入ってきた。

それを聞いた男は立ち上がり


「わかった」


そう答えた。

そしてその男はこちらを向き


「さぁ、準備ができたみたいだから行くか!」


と、決め顔でそう言った。

(どこにだよ……)

何故か恐怖しか感じられなかった。



連れてこられたその場所は、一見、お金持ちの家のリビングのような場所だった。

そこには知らない顔がズラリと並んでいた。

その中に俺は知った顔を見つける。

小鳥遊唯依である。

彼女の微笑みながらこちらを見る姿を見てホッとした。

やはりさっきまで瀕死だった人間とは思えない。

その時、肩に大きな手が置かれた。


「それじゃあ自己紹介といこうか!」


さっきのマッチョメンである。


「それじゃあ順に」


その男に促され、各々自己紹介が始まった。


「俺は柴 那央斗ってんだ。那央って呼んでくれ!」


さっき呼びにきた少年である。

結構チャラチャラしてるが、悪い人間ではなさそうだ。

(………ん?那央?どっかで聞いたような…)


「白井 黒貴だ。好きに呼べ」


なんて考えてるうちに次の自己紹介が始まっていた。

次はさっきの那央という男とは真反対というか、実にクールである。

それとも根暗なのか。


「宮城 神楽だよ!よろしく!」


次はまたしても元気っ子。

次は女の子である。

さっきからお菓子食いまくってる気が…。


「柊 アリアです。よろしくです。」


一瞬でわかった。

マスコットタイプだぞこの子。

見た目中学生くらいだろうか。


「中学生じゃないです、高校生です。」

「………」


あまりに図星で言葉が出ない。


「小鳥遊 唯依です、さっきはありがとう」

「元気そうで良かった」


思わずそんな言葉が出ていた。

とても赤の他人とは思えない空気を醸し出していたそれを見て、周りの連中は


「あれれ〜ひょっとしてお二人とも良い感じ〜?」


さっきの神楽という子だ。


「はい!?」


思わず変な声が出る。


「そ、そんなんじゃないよ!」


唯依も必死に弁解する。

それでも周りはニヤニヤしていた。

そんな中


「そして最後に俺!加藤 雅義だ!リーダーを務めている!監督と呼んでくれ!」


さっきの決め顔マッチョメンである。

今にも歯が輝きそうだ。

そして視線が俺に集まる。


「切﨑 統夜です。どうも」


なんてつまらない自己紹介だろうか。

まさにクラスでハブられそうな人間の自己紹介である。

それだけ…?

今にもそう言いたそうな視線が来る。

(皆だって大した自己紹介してないじゃん!)


そう心の中で叫んでいると、マッチョメンもとい監督は1つ咳払いをし


「まぁ、自己紹介されてもわからんことだらけだろ。順を追って説明していこう。」

「お願いします…」


そう言うしかなかった。

そして決め顔ゴリゴリマッチ…監督の話が始まった。


「俺達は能力者とでも言っておこうか。」

「能力者?」


監督の言葉に続く。


「君も例外ではない。現に力を発動して、敵を倒した。」

「……」


監督の言葉は続く。


「この国には、我々のような能力者を実験開発している機関がある。」

「実験…開発…!?」

「そうだ、我々人間をモルモットのように扱い、超能力者を作り上げる」


信じられなかった。

でも現に超能力者がいる。自分ももう他人事じゃない。


「一体何のために…」


そんな疑問が勝手に出た。


「戦争の道具にでもする気なんだろ」


さっきまで元気だった那央は真剣な声色でそう言った。


「……」


何も言えなかった。


「我々はその機関から脱走した集団なんだ。救済騎士団-ヒルフェリッター-と名乗っている。」


監督がそう言った。

そして続けた。


「今日現れたのは、実験成果を試すために送り込まれた刺客だ」


俺が倒したあの衝撃波を使う男である。


「結界っていうのは…?」


聞きたいことがふと口に出た。


「結界は能力者なら基本誰でも使える。機関で最初に学ばされる事だ。」

「……」

「結界を展開した時、その結界内は能力者以外は干渉する事ができない。一般人にとっては何ら変わりない空間だ。その結界内で起きた事も同様。今日敵が吹き飛ばした道路も元々の空間では何の影響もない。」

「言わば別次元…?」

「そう思ってくれて良いだろう。そして結界を展開するのには訳がある。我々にとっては民間人に被害を与えないため。奴らにとっては超能力が公になるのを避けるため。この力が知られれば向こうも都合が悪いのだろう。」

「なるほど…」

「敵にとっても好都合なのは気に食わないが、結界を展開しないわけにはいかない。それは敵も同じ考えだろう 」


大体の事は把握できた。


「ただ…」

「……?」

「謎は君だ…さっき覚醒(めざ)めたのなら、機関にいなかったのだろう。結界も使えないはず。それに何より実験開発を受けてない人間が力を得るなんて話…」

「……」


それに関しては自分も何も覚えがない。

話せる事なんて何も…。


「まぁ良い、その事は後々考えよう。切﨑君」

「はい?」

「この事はくれぐれも内密に…」

「それは良いですけど…」


本来、次に聞かれる事は1つだ…。

でもその言葉が来ない…。

だから自分から攻めて出た。


「聞かないんですか?」

「何をだい?」


監督は本当に聞く気がなかったのか、素直にそう答える。


「俺に仲間になれって…」


監督は何を言い出すかと思いきやという表情で

「何だ、そんな事か」

「え…?」


この人は本当に勧誘する気がなかったのか。


「確かに君は能力者になった。でもさっきも言ったろ?我々は民間人は巻き込まないと。君は能力者とはいえイレギュラーだ。我々にはあるが、君には戦う理由がない。気になって眠れない!なんてなられては困るから口外しない条件で伝えたのさ。君は無理をしなくて良い。」


呆気にとられた…。

戦力があるのにそれを手にしない…。

信じられないと同時にとてつもなくかっこよく思えた。


「………」


何も言えなかった。

そこで自分も戦うと言えばかっこよかったのかもしれない。

でも、何も言えなかった。

自分がとてつもなくカッコ悪く思えた。


ふと監督が


「まぁ、暗い話ばかりもなんだ、皆の能力を紹介しよう!」


返事も待たずに監督は始める。


「まずは那央、瞬間移動を持つ。移動範囲は自分に見える視界全てだ。」


那央は少し照れくさそうにしていた。

いきなりすごいの来た。

ポカーンとするしかない。


「次に白井。白井は銃ヘカトンケイルを扱う武器能力だ。白井に打ち抜けないものは無い!」


本当のFPS好きはこちらでしたか。

当の本人は無反応。

ホントクールだわ。


「次に神楽!神楽は刀ムラマサを扱う。剣の扱いはお手の物だ!」


(かっけー…)

その一言である。

本人はVサインを送っていた。


「次はアリアだな!アリアは治癒能力だ!致命傷だってあっという間に治すぞ!」


1つの疑問が解決した。

だから唯依は何事もなかったかのように。

アリアはリアクションに困ったのか、神楽を一瞬見てから無表情のVサイン。

やっぱりマスコットだわ。


「さぁ、唯依だ!唯依は5大元素を変幻自在に操る!」


(火だけじゃなかったの!?)

衝撃の事実だった。

唯依は照れくさそうに頭に手を置きながら舌を少し出していた。


「そして最後に俺!俺は大剣だ!どんなものでもぶった斬ってやる!」


(だからゴリゴリになるのか…)

監督は決め顔でこちらを凝視してくる。

お願いだからそんな目で見ないでほしい…。


それからというもの監督に時間の許す限りくつろいで行けと言われ、その晩餐に参加した。


その中、俺は1人考えていた。


(唯依は…何のために戦っているのだろう…)

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