襲撃
「ん…………」
ふと目を開けた時、よく知る顔がそこにはあった。
やけに手が暖かいと思った。
それもそのはずだ。
唯依がその目に涙を溜めながら手を握っていた。
「俺…生きてる…?」
「正直危ない所でした」
答えたのはアリアだった。
どうやらアリアの治癒の力で死なずに済んだようだ。
身体を起こす。
「大丈夫なのか…?」
監督が心配げに聞いてくる。
「大丈夫です」
監督にそう答えた後、唯依の方へ向く。
「ごめん、心配かけて…」
「良かった…無事で…」
唯依は涙声だった。
約束したばかりなのにこれである。
実に情けない。
「那央もありがとな」
「気にすんなよ」
那央は当然の如く答えてみせた。
「来ると信じていましたよ…白井黒貴さん」
少年の前に白井はいた。
かつてバイト先に現れた少年である。
「念のために確認しますが…お仲間連れてきたりしてませんよね?」
「俺1人だ」
白井の返答に少年は鼻で笑った。
「まぁ、いいです。
例え連れてきていたとしても、全滅は免れません」
「御託は良い…」
白井は本題に入った。
「賢者の石はどこにある…?」
「何言ってるんですか?」
「何…?」
「僕が持ってるわけないでしょ?
とりあえず博士の所に行きましょうよ、話はそれからです」
「………」
少年は歩き出す。
白井はそれについて行った。
「貴様…名は…?」
白井が質問をぶつけた。
それに対して少年は、
「本名はとうの昔に忘れました、コードネームはパタ•ローです」
そして廊下には足音だけが響いていた。
重い空気だけが流れる。
あまりにも想定外すぎた。
まだ研究所に侵入してすらいない状態でこれである。
「どうする…?」
神楽が監督に聞いた。
監督は俯き、ただ黙っている。
ここまでかと全員が思った時、監督は顔を上げた。
「行こう…」
全員が監督を見る。
「もし、白井が奴らに作戦を伝えた場合、更に対策され、今度こそ作戦が決行できなくなるかもしれない。
これが最初で最後のチャンスだ…」
監督の言い分は間違っていない。
しかしリスクが跳ね上がったのもまた事実である。
「でも…」
紬がそう口にした時、
「俺は行く」
俺の口から勝手にそう出ていた。
全員が俺へと視線を向ける。
「ここまで来たんだ。
監督の言う通り、これが最後かもしれない。
それに、俺には唯依との約束もある」
「統夜君…」
唯依が心配そうにこちらを見てくる。
「それに、訳もわからずあいつに撃たれたんだ。
とりあえず1発殴らねーと気が済まない。
ちゃんと話も聞かねーとな」
それを聞いた那央がはにかんだ。
「だったら俺も行かねーとな。
男が俺だけ残るなんて情けねー」
那央の言葉に唯依が続いた。
「私には…行かなくちゃいけない理由がある」
神楽と紬が顔を見合わせる。
「まぁ、乗りかかった船だしね」
「私には恩返しがある」
全員の表情が徐々に和らいでいく。
そして最後に、
「お供します」
アリアがそう言った。
全員の覚悟を確認し、監督が口を開く。
「んじゃ、いっちょやるか!
白井の枠には那央が入ってくれ」
「はいよ」
監督の言葉に那央が答える。
「敵に知られてんのを考慮して、もう豪快に突っ込んでやる!
俺達が暴れ回ってる間に救出組は頼むぞ」
救出組が頷く。
「さて、今度こそ暴れてやるか!
俺達の底力、見せてやろうぜ!」
『おう!』
「まさか、本当に戻ってきてくれるとは思わなかったよ」
そう口にしたのは刹那だった。
白井は今、刹那の前にいた。
「賢者の石はどこだ?」
早速本題に入る白井。
しかし、
「まぁ、そう慌てないでおくれ。
まだ完全に完成したわけでは無い。
しかし、もうじき完成する。
それまでの辛抱だよ」
「…………」
本当に賢者の石があるのか。
半信半疑ではあったが、それにかけるしかなかった。
部屋から立ち去ろうとしたその時、
ドガンッ!
外の方から爆発音に似た音が聞こえた。
(予想以上に早いな…)
白井がそう思っていると、パタ•ローが睨みつけてくる。
「あなた…やはり…」
「俺はあいつらとは関係ない…その証拠に撃退してやる…」
そう言い放ち、白井は部屋を出る。
「ロー、彼の監視を」
「うん」
刹那の命令と共に、パタ•ローも飛び出す。
「…まったく…ネズミが潜りこんじゃってくれて…」
刹那が1つ大きなあくびをした。
「まぁ、良いよ。
死にに来てるようなもんだし…」
俺達は豪快に壁を吹き飛ばして侵入した。
救出組と分かれ、戦闘組は俺と那央、監督と神楽の2グループに分かれた。
施設を破壊しながら、救出組へのルートを塞ぐ。
敵が現れる気配はなく、ただ突き進んだ。
そして俺と那央は1つの大きな部屋に辿り着いた。
体育館ぐらいの広さだろうか。
そして俺は前方に人影を発見する。
すぐに分かった。
俺はその人物を知っている。
「…………………白井」
見間違えるはずがなかった。
確かにそこには白井がいた。
側には小柄な少年がいた。
「……………………」
その感情が憎しみなのか怒りなのか、それとも悲しみなのか。
俺にはわからなかった。
ただただ俺は、拳を強く握りしめた。




