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炎天下パラダイス(後編)

俺達は2人で砂の山を作っていた。

砂だけではうまく作れないため、時には海水も利用する。

今は少しずつ形になってきていた。


「こんな事で良かったのか?」


砂の山を作りたいという、その小さな願いに対し俺は問いかけた。


「…うん♪」


その唯依の笑顔に満足しているという実感を得られた。


「私ね…」

「…ん?」

「もしかしたら小さい頃に来たのかもしれないけど…海に来た記憶なかったから…」


これだけの自然がありながらも、海に来た記憶がない。

この地域に住んでいる人間なら、きっと誰もが1度は海に来たことがあると言うだろう。

その言葉に俺の胸はチクリと痛んだ。

(だから砂の山ってだけでこんなに楽しそうに…)


「だからね…」

「……?」

「今…すごく楽しいんだ…♪」

「そっか…♪」


本当ならば俺が元気づけなければならない。

しかし、気がつけば自分が唯依に元気をもらっている。

唯依の凄さを改めて知る。


「よし♪」


そんな事を考えていると唯依が山を完成させていた。


「完成…かな?」

「まだだよ♪」


俺の言葉に唯依は顔を横に振った。

そうすると唯依は山の下の中央部分をを削り始める。


「ここにね…トンネルを作るんだ…♪」

「了解であります」


俺が反対側から削り始める。

(今この瞬間、一瞬一瞬…俺にしてあげられる事をしよう…)

日頃もらっている元気のお返しにそうしようと俺は思った。










「良いな〜……」


山を作る2人を見て那央は羨ましそうにしていた。


「あの2人?」

「あぁ…」


神楽の言葉に適当に返す。


「作る?」

「同情で作ってもらう事に何の意味があんだよぉ!」

「だよね〜」


どうやら神楽は那央の反応をわかっていて聞いたようだ。

(ホント…あの2人を見てると、見てるこっちが恥ずかしいくらいお似合いだから困るんだよね〜)

人のことを言えず、神楽も羨ましがっていた。

ふと隣を見ると、2人を見て不機嫌そうな紬の姿があった。










だいたい半分近く削っただろうか。

唯依がどれほど削ったのかはわからないが、そろそろ合流しても良い頃だろう。

そう思った時、


「あっ」


ふと唯依の口からそんな言葉が出た。

俺にも意味は理解できた。

そこには決して砂ではないものがあった。

手である。

どうやらトンネルが完成したようだ。


「完成だね…♪」

「…おう♪」


唯依の嬉しそうな笑みについつられてしまう。

トンネルが完成した事によって手を抜こうとした。

その時、


「……ッ?」


俺の手を唯依が握っていた。

何事かと思い見てみると、


「……………」


唯依は少し頬を赤らめて目を逸らしていた。

その行動に少し戸惑い、恥ずかしながらもその手を握り返した。











「あの野郎!もう許さん!1人だけ青春しやがってぇ!」


2人を見ていた那央が限界になり、走り出す。


「あ!こら!邪魔は!」

「俺も青春する!」


神楽の言葉は那央の耳には入らなかった。











「統夜ぁぁぁぁ!」

『ッ!?』


手を握っている最中、那央がこちらへ向かって勢いよく走ってきているのを確認し、2人は咄嗟に手を離す。

那央がすぐそばにまで寄る。


「ど、どうした?」


あまりに急すぎて動揺を隠せない。

2人して焦っていると、


「ま…いいや」


よくわからないが、那央の中で何か解決したようだ。


「唯依」

「何?」


那央が唯依を呼ぶ。

何事かと思ったその時、那央の口からとんでもない一言が出た。


「そろそろ日焼け止めの効果無くなるだろ!?俺が塗ってやろうか!?」

「へッ!?」


あまりに予想外の言葉に唯依はパニックになり赤くなる。

唯依に寄り、


「まぁまぁ、遠慮せず…」


言葉はそこで止まった。

何故ならば目の前に、先程彼女と手を握っていたであろう男が間に割って入ってきたからである。

問題はその表情だった。

満面の笑みである。

しかし、その表情には『喜』や『楽』という感情など欠片もない。

そして、男はただこう言った。


「ちょっと面貸せ?♪」














「誰かぁぁぁぁ!お助けぇぇぇぇ!」


那央は砂に埋まっていた。

顔以外は全て埋まっていて抜け出せない。

那央なら瞬間移動ができるはずである。

しかし、弱点がある。

飛ぶ場所を視認できない事である。

俺は他のメンバーに協力を要請し、那央にアイマスクを付けて、全員で埋めた。


「だから言わんこっちゃない…」


神楽が呆れていた。


「統夜ぁぁぁぁ!悪かったよ!ちょっとしたおふざけでぇぇ!」


(無視無視)

そう心の中で呟くのであった。

那央を放置して俺達はビーチボールで遊んでいた。

下半身が海水に浸かっていて、うまく身動きがとれない。

珍しくアリアや白井達も参加し、いないのは那央だけである。

そんな中、


「統夜、俺の必殺シュートをくらえ!」


どうやら監督が必殺技を披露してくれるらしい。

(またまた大げさな…スポーツ漫画じゃあるまいし)

そんな事を思っていると、監督がその必殺シュートを放ってくる。


「ていや!」

「…へ?」


明らかにおかしかった。

そのボールは俺の知っているボールの形ではない。

本来丸いはずのボールがまるで楕円形のような形をしている。

あまりに衝撃的で腕が反応しなかった。


「何そ…」


ボールが顔面に直撃する。

あまりの衝撃に吹き飛ばされ、全身が海水の中へと落ちる。


「統夜君!?」


唯依が焦って俺を引きずり上げる。

生憎、ボールが当たったのは鼻ではなかったため鼻血は出ていない。

伊達に筋肉メンではなかった。


「何しとんじゃワレェ!」


紬が監督にドロップキックを放つ。


「ぐふぉぁッ!」


監督も海水へと落ちる。


「こんな所にまで来て怪我はやめてくださいよ…?」


1つため息をつくアリアだった。

その頃、


「誰か〜水くれ〜」


水分を求める那央。

そこに1人の人物が。


「仕方ないやつだ」


白井である。


「おぉ!白井!お前なら助けてくれると信じてたぜ!」


すると白井はペットボトルのフタを開ける。


「いくぞ」


その言葉と共に白井は那央の鼻をつまむ。


「ふぇ…?」


そして白井はペットボトルを那央の口に突っ込んだ。

それも中身はぬるくなって美味しくなくなったコーラ(ペプシ)であった。


「おぼぼぼぼぼぼ!」


那央が死にかけていた。

(鬼だ…)

それを見ていた全員がそう思うのだった。









特にする事もなく、俺達は相変わらずビーチボールで遊んでいた。

相変わらず那央は埋まっていた。

ビーチボールはチーム戦となっていた。

俺、唯依、紬、白井のチームと、監督、神楽、アリアのチームである。

やはり筋肉メンにはハンデが必要である。

よってこのチームとなっていた。

15ポイントマッチで現在14:13。

こちらが1ポイントリードしている。

あと1点で勝てるこの状況、焦らず行かなければならない。


「よいしょ!」


神楽のサーブから始まる。

それに対して白井が返す。

足場が悪いため、トスからのスパイクを狙うのは賢明ではない。

単発での勝負となる。

だが、その返しに、


「うおりゃ!」


監督の強烈な攻撃が襲いかかる。

流石に止める事ができない。

これで同点である。


「絶対勝つんだから!」


何故か先程から紬は気合いが入っている。

負けず嫌いなのだろうか。

そんなこんなで再び神楽のサーブから始まる。

そのボールは俺のもとへ。


「ほい」


相手の方へ返す。

その時だった。

空中で1人の人物が姿を現す。


『ッ!?』

「さっきはよくも埋めてくれたな!」


那央である。


「何故だ!?」


ふと砂浜を見る。

誰もいない。

そう、那央は今結界を張っているのだ。


「ありがとう!見知らぬ幼女ちゃん!」


(あの野郎!無垢な少女に助けを求めやがったな!)

そして那央が空中からスパイクを放つ。


「くらえ統夜!」


ボールがこちらへ向かってくる。

だが下手くそだった。

ボールは俺ではなく、俺とその前にいる唯依とのちょうど間に向かっている。


「私が!」


唯依が後ろへ下がってくる。

しかし、


「わッ」


足場が悪くバランスを崩したのか、後ろへ倒れそうになる。

(やばい!)

そう思った俺が後ろからフォローに入ろうと近寄る。

だが、


「おっとっとっと」


唯依が思いのほか後ろへ寄ってくる。

そして俺と激突する。


「うおッ」


予想以上に勢いがあり、俺も数歩後ずさりする。

しかし、そこでバランスが崩れた。

足が砂に取られたのである。


「しまっ…!」


俺が海水へと落ちる。

それだけなら良かったのだが、


「やばっ!」


急に後ろの壁が無くなり、再び唯依がバランスを崩す。

俺を避けながら後ずさりしようとしたのが逆効果となり、尻もちをつくように海水へ落下する。





(早く出ねーと)

そう思った時、


「ぼふッ!?」


上から何か落下物が顔面へと落ちてきた。

(何これ!?)

頭の中がパニックになる。

ただわかる事は、その落下物が柔らかいという事だけである。

だが、今はそれどころではない。

さっきの落下物との激突で酸素が一気に減った。

しかし、そのパニックにより、まともな判断ができなかった。

海水から腕を突き出し、もがくように手を動かす。

その時、何かを掴んだ。

そのあまりに不思議な感触に、一旦冷静になる。

(何…これ…?)

それも柔らかかった。

決して大きすぎるものではない。

かと言って小さくもない。

どちらかと言われたら大きい部類かもしれない。

ギリギリ手で包み込むのができないくらいである。

ただただ、

(これ何…?)





思いきり尻もちをつくように統夜の顔の上に乗ってしまった唯依。


「ご、ごめん!」


(早くどかなくちゃ!)

そう思って立ち上がろうとした時、海水から統夜の腕と思わしきものが出てくる。

もがくように掴んだのは、


「ひゃッ!?」


唯依の胸だった。


『え……………………』


呆然とする一同。





(これは何だ……?)

謎は深まるばかり。

再度その柔らかいものを掴む。





再び胸を掴まれる唯依。


「んんッ!」


それは、決して夏のビーチで発されるのは場違いであろう色っぽい声だった。

それを見ていた一同は、

監督と白井は咳払い。

神楽、アリアが赤くなる。

那央は興奮状態。

紬は、


「何してんの君はぁぁぁぁ!」


統夜を思いきり踏みつけた。





(何こ…)


「ぶほぉッ!」


再び何かが落下してきた。

次は腹部である。

さっきの落下物とは威力が桁外れで、全身が底につく。


(な、何がどうなって……)

酸素も限界だった。






興奮状態だった那央がふと我に返る。


「お前ばっか何良い思いを!」

「アンタのせいだ!」


そこまで言った所で、神楽が回し蹴りをし、海底に突き落とされる那央。


勝者、監督チーム。








後に俺はちゃんと救出された。

しかし、最後まであの柔らかいものの正体はわからなかった。

(あれは一体…)

日も傾き、夕焼け空になった中、帰る支度をしながらも考えていた。


「ま…いっか」


未だかつて無いほど楽しい夏を過ごした。

今はそれだけで十分だった。








-公園-


「ケッキョクオキャクサン、ジョウレンサンシカコナカッタネ…」


帰り支度をしながらしょんぼりするケネディさんだった。

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