炎天下パラダイス(中編)
「痛いぃぃ〜〜〜〜!!」
俺は今、腕が引きちぎれそうだった。
「私だって言ってる…でしょ!」
「絶対絶対私…だも〜ん!」
俺は紬と唯依に左右から引っ張られていた。
何はともあれ、俺が悪いのである。
昔から断れないタイプではあった。
そしてどちらかを選択するというのも苦手だった。
それに人が関わっていたら余計である。
故に、
「いい…加減…諦めなさい!」
「絶対に…いぃ…やぁ〜!」
「ち、千切れるぅぅ……」
自業自得なのである。
それを後ろから見ていたアリアと白井。
「熱いですね…」
「あぁ…暑い…」
話がかみ合っていない気もする。
隣で監督はこの状況を楽しそうに見ている。
誰も割って入ってこない。
完全に俺がどう選択するのか楽しんでいるに違いない。
(腕が千切れる前に考えねーと…!)
必死で平和な道を脳内で模索する。
両方から監督が引っ張っているならまだしも、相手は女の子である。
まだ耐えられないレベルではない、たぶん。
「諦めが悪い子ねぇ〜…!」
「紬さんこそぉ〜…!」
最早二人は体重任せに引っ張っていた。
完全に綱引き状態である。
流石にまずいかと思ったその時、
(はッ!)
思いついたのである。
それはとても簡単な事だった。
何故こうも簡単な平和な道に気づかなかったのか。
この闘争を終わらせるため、俺はその完璧な案を打ち明ける。
「順番!」
『………へ?』
打ち明けた瞬間、2人の動きが止まった。
(我ながら完璧な作戦だ…)
そう思いながらもう1度伝えた。
「順番だ…!」
『えぇ〜……………………………』
あまりに予想外の反応だった。
2人ならまだしも、他の3人まで呆れている。
(俺、何かおかしな事言ったか…?)
1人疑問だけが残る俺。
この完璧な作戦のどこがおかしいのかと考えようとしたその時、
「ぬおぁッ!」
再び2人に引っ張られる。
(な、何で!?)
もう訳が分からなかった。
「こうなったら!引っ張って勝ったほうが好きにして良いって事にしましょッ!?」
「良いよそれで!絶対に負けないんだからぁ〜!」
「何でそうなるぅ〜!?」
勝手に話が進んでいた。
何故俺が出した平和的な道ではなく、争いの道を選ぶのか、俺にはさっぱり分からなかった。
「はぁ…はぁ…や、やるじゃねーか」
「那央こそ…はぁ…楽勝の予定だったのに…」
波際では、競泳し終わった那央と神楽が戻ってきていた。
結果は五分五分であった。
「ん?」
そこで神楽が俺達の状況に気づいた。
「何やってんの…あれ…?」
「あの野郎!自分だけおいしい思いしやがって!」
呆れる神楽と、羨ましがる那央であった。
闘争は続いていた。
何を言おうが無意味だと知った俺は、ただ終戦を待つしかなかった。
しかし、いくら女の子とはいえ、流石に辛い。
『うぅぅ〜〜〜〜ッ!!』
2人は俺を人間だと理解しているのだろうか。
人間、さほど頑丈ではない。
流石に身体から嫌な音が聞こえてきそうな気がしたその時、
「あいたぁッ!」
紬の声である。
何事かと思い見てみると、一体どこから現れたのか、頭にビーチボールが直撃していた。
その勢いで手が離れる。
「うぉッ!」
「きゃッ!」
一気に体重が唯依の方へ傾く。
そのまま勢いよく砂浜に2人して崩れ落ちた。
「あぶねー…」
危うく唯依にのしかかってしまう所であった。
何とか砂浜に手をつき、それを回避する。
しかし、
『………………』
唯依と目が合う。
この状況、かなりよろしくない。
俺が唯依に覆い被さる形になり、傍から見たら、誰もが俺が押し倒したように見えるだろう。
そして何より顔が近い。
「………………」
唯依が顔を真っ赤にしてこちらを見ている。
俺もきっと同じに違いない。
ただ見とれていると、周りからヒューヒュー聞こえてきた。
その声に俺は我に返り、すぐさま離れる。
「ご、ごめん!」
「だ、大丈夫だよ」
俺が手を差し出し、唯依がその手を握る。
そして引き上げた。
「………………」
「………………」
2人の間に変な空気が流れる。
そんな中、
「ごめんなさ〜い!」
ビーチボールの持ち主であろう中学生くらいの男子が寄ってくる。
「大丈夫だぞ〜」
そう言いながら監督がボールを投げ返す。
「本当にごめんなさい!」
ボール受け取り、そう言いながらその男子は去っていく。
「ぐぬぬぬ………」
紬は悔しそうにしていた。
「な〜にやってんの君達は…こんな所にまで来て…」
先程の状況を見ていたのであろう、神楽と那央が戻ってくる。
「お、帰ってきたか。丁度2人も帰ってきた事だし、昼飯にするか」
すっかり闘争を満喫したのか、監督が提案する。
時刻も丁度昼時だった。
監督の提案に全員が賛成する。
「統夜君」
「ん?」
唯依に呼び止められ、振り返る。
「お昼終わってから…良い?」
「あ、あぁ…そういう話だからな」
唯依と約束を交わし、俺達は昼食に入った。
俺達は海の家で適当に買い集め、昼食をとった。
食事を終え、各々休憩に入る。
「ナンパされないね?」
「されたいのかよ」
神楽の言葉に那央が突っ込む。
それを聞いていたアリアが、
「筋肉ムキムキの男がいるから寄ってこないのでは…?」
『あー…………………』
その言葉に、当の本人を除いた全員が納得する。
確かに、こんな喧嘩を売ったら殺されそうな男がいるグループには手を出さないであろう。
納得している中、
「統夜君」
「ん?」
「行こ?」
「はいよ」
唯依に声をかけられ、先程の約束に誘わられる。
2人して立ち上がり、砂浜を歩いていく。
「むー………」
紬は膨れながら眺めていた。
「何すんの?」
俺は唯依に問いかける。
それに対して唯依は、
「……笑わない?」
「……?」
何か笑われるような事なのだろうか。
よくわからないが答える。
「笑わねーよ?」
その言葉に唯依が意を決したように言う。
「2人でお山…作ろうと思って♪」
「………そっか♪」
一瞬、何を言い出すのかと思ったが、その可愛らしい発想に思わず笑顔がこぼれる。
「じゃあ作りますか!」
「うん♪」
彼女の眩しい笑顔に夏の暑さを忘れる俺であった。
-公園-
「ナンデヨ!ナンデオキャクサンコナイネ!コンナコトナラ、オンナノコト、ナツノバカンスタノシミタイネ!」
夏の暑さのせいか、客の少なさと視界に入るカップルに苛立つケネディさんであった。
「ア!オキャクサン!イマナラ、トマトオマケシチャウヨ!」




