起動
目と目が合う〜瞬間〜♪
なんてBGMが流れそうな状況ではあるが、彼女にとっては気が気ではなかったみたいだ。
「え、ちょっと、君どこから!?」
ひどく彼女は焦っていた。
「え、いや、君が上から降ってきて下敷きに…」
そう、例えるならラピ〇タのシー〇である。
「親方!空から女の子が!」
なんて言う暇はなかったが。
「君、援軍か何か!?」
(援軍…?)
この子が何を言ってるのか全く理解できない。
「はい…?」
当然の反応である。
「まさか一般人!?そんなバカな!」
「???」
この子は重度のFPS好きなんだろうか。
そう思っていた時
「ッ!避けて!」
「うおッ!」
そう言われた瞬間、俺の腕は彼女に引っ張られていた。
左側へ大きく移動し、何事かと思い、さっきいた場所を振り返ってみる。
そこには信じ難い光景があった。
「…はッ!?」
道路が両車両分吹き飛んでおり、小さなクレーターにすら見えた。
「…!」
彼女は険しい表情をしていた。
当の俺は、再び混乱に陥っていた。
(周りは止まるし!パンツ…じゃない!女の子は降ってくるし!おまけに道路は吹っ飛ぶし!どうなってんだ!)
すっかり気が動転する中、さっき彼女が降ってきた場所からもう1人の人間が姿を現す。
「あ?んだそれ?」
次は男だった。
赤髪でツンツンした髪、明らかに誰もが最初に出てくる言葉はヤンキーである。
「この人は…民間人」
「はぁ?民間人?冗談言ってんなよ。民間人が結界内に入れるわけねーだろ」
(結界…?何の話だ…?)
「とにかくこの人は関係ない!結界には入れてるけど、全く状況を理解できてない!見逃して!」
「バカ言えよ、この状況にこの力、見られたからには生かしておけねぇ!」
「ッ!」
その時、再び俺は彼女に引っ張られていた。
そしてまたしても俺たちがさっきいた場所が吹き飛ぶ。
(何だ…あれ!)
男は手をかざしていた。
その方向にはさっき俺たちがいた場所。
「衝撃波…?」
ふと、そう口にした。
「ほぉ、わかってんじゃねーか。本当に一般人なら大したもんだ。」
状況が全然理解できない。
ただわかることは3つ。
(この空間が普通じゃないことと、奴は普通じゃない、そして今とんでもなくやばい状況ってことだ。)
「オラ、さっきまでの威勢はどうしたよ、荷物が増えてやりづれぇのか?」
「くッ!」
緊迫した状態が続く。
動いたのは彼女だった。
彼女の手から放たれたものは…
「火ッ!?」
思わず口に出していた。
そう、彼女の手から放たれたのは火だった。
燃え盛る火の玉は男に向かって飛んでいく。
男は再び手をかざした。
その場に衝撃が走った。
衝撃波で火の玉を相殺したのである。
「つまんねーぞ、そんなんじゃあよ。」
「く…ッ!」
男が彼女を焦らせる。
わかる。
俺がここにいる事によって、彼女は思うように戦えない。
変に動けば俺が狙われる。
ただただ精神が削られるような時が流れる。
きっと彼女は今、必死で最善策を練っているのだろう。
だが、その空間を男の一つの行動が引き裂いた。
「ヒヒヒ…」
「「…?」」
何がおかしいのか、そう思った時だった。
「今だ!そいつを殺れ!」
「ッ!?」
男の言葉に彼女が咄嗟に、後ろにいる俺の方を向く。
だが、そこには俺しかいない。
「違う!罠だ!」
「ッ!?」
俺が叫んだ時には遅かった。
「な〜んてな♪」
その言葉と共に放たれた衝撃波はこちらへと向かっていた。
「くッ!」
間に合わない。
そう判断した彼女は動く事をせず、その場に立ち止まった。
「ッッ!!」
そして俺の前には、血しぶきと彼女の姿があった。
その光景をただただ見る事しか出来なかった。
崩れ落ちる彼女を見て、咄嗟に受け止める。
「ヒャハハハハ!バカだなぁ〜、最初から自分だけが生き残る道を選べばこんな事にはならなかったのによ〜」
男はただ嘲笑っていた。
彼女の服は赤く染まり、それを抱き抱えた俺の手も同じ色に染まった。
「何で…何で俺なんかを…」
声は酷く震えていた。
「だって…ほっとけないよ…」
口から血を流し、息をする事すら困難に見えた。
「でも…俺は赤の他人で…」
「そんなの関係ない…人は…ゴホッ…助け合っていかなくちゃね…♪」
何故こんな時に笑っていられるのだろう。
何故こんなにも強い…自分が死ぬかもしれない時に。
「ごめんね、守ってあげられなくて…」
「そんなこと…」
「本当にごめん…」
違う。
謝るのは俺の方だ。
偶然とはいえ、俺がこの空間に入らなければ彼女はこんな事には…。
俺が彼女を……。
その時、脳裏を横切ったのはかつてのあの光景だった。
辺りは火の海と化し、誰の声も聞こえない。
あの時もそうだった。ただ無力な自分を悔やんだ。
この状況を覆すヒーローには、自分はなれないと…。
そして耐えられず…考える事をやめた…。
(力が欲しい)
ふと、そう思った時、それは起きた。
「ッ!!」
男は酷く驚いていた。
そこにいる少年の右腕は光輝き、電撃が走るような音がするからである。
「テメェ、やっぱり民間人じゃ…!」
男が見ているもの、それは明らかに一般人の粋を脱していた。
右腕が熱い…。
いっそのこと切り落としたいほどに…。
それでも気持ちは変わらなかった。
(力が欲しい、この子を救う力が)
その思いに応えるかのように光は増す。
そして、何故自分がこの空間に入れたのか、今ならわかる。
あの頃は考える事を放棄した。
目の前の現実から逃げた。
でも今は____
「もう逃げない、逃げたくない…ッ!」
「君は…!」
俺の異変に気付いたのか、彼女が目を見開く。
「ここでこの子を守れなかったら…!」
「こいつッ!」
「ヒーローじゃねぇぇぇぇぇぇッッ!!」
その言葉と同時に強烈な爆発音が鳴り響いた。
「それは…!」
男が見たもの、それは。
『篭手』である。
少年の右腕には異形の篭手があった。
「これが…俺の…」
俺はその篭手を眺め、そして、拳を握る。
「それが…君の…」
彼女もその篭手を眺めていた。
「ごめん、俺のせいで……待ってて、すぐ終わらせるから…!」
できる限りの笑顔でそう伝え、ゆっくりと彼女を寝かせ、立ち上がる。
「覚醒めたばかりのやつなんかにッ!」
男が手をかざす。
今考える事は一つだ。
(こいつをぶん殴る!)
拳を握り、一気に距離を詰める。
「死ね!クソガキ!」
男の衝撃波が迫る。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」
こちらは篭手。
できることはただ一つ。
(殴る事だけだ!)
右腕に力を込め、一気に突き出す。
その時、
「お前ウッソだろぉぉ!?」
それはもう呆気なく、その拳により衝撃波は消滅した。
それを確認した俺は、再び拳を握り、
「ちょっ待てよッ!」
「吹っ飛べド外道がぁぁぁぁぁぁ!」
拳が男の顔面に直撃し、何十メートルも先へと吹き飛んだ。
「はぁ…はぁ…」
さすがに男は気を失っていた。
そして急いで彼女の元へと戻る。
「しっかり!」
上半身を抱き抱える。
「やったんだね…」
「…うん」
今にも彼女はその鼓動を止めそうだった。
「早く病院に!」
「病院じゃ無理だよ…」
「でもそれじゃ…!」
彼女は消え入りそうな声で
「私は…もう…」
「俺は…また…!」
その時
「結界干渉できました!」
「大丈夫か!」
「今すぐ治癒を!」
そんな声が聞こえてきた。
「間に合ったんだ…」
そう言って彼女が小さく微笑む。
状況が理解できない顔をする俺を見て
「安心して…私の仲間だよ…」
その言葉を聞いて、安堵のため息が出た。
「君…名前は…?」
ふとそんなことを聞かれた。
「切﨑…切﨑統夜」
「統夜君か…私は小鳥遊唯依…よろしくね」
そう名乗り、優しく微笑む彼女を見て、俺も思わず笑顔が溢れた。




