和解
「ん……」
目が覚めた時、俺はよく知る場所にいた。
救済騎士団の基地である。
「生きてんだ…俺…」
気を失う前の事はあまり覚えていない。
大量に刃を刺されたのは覚えているが、その後の事は全くである。
その時、ドアが開く音が聞こえた。
「あ、目が覚めたんだ♪」
唯依である。
「良かったぁ〜…全然目を覚まさないんだもん」
そばにあった椅子に座り、安心したように言う。
「…………」
「どしたの?」
無言の俺に唯依が聞いてきた。
「あ、いや…何でも…」
一つだけ思い出した。
俺は紬に勝っていた。
(どうやって勝ったんだ…?)
「なぁ、いい加減何か話してくれよ…うちにはただ飯食わせる財力なんてねーぞ」
監督がぼやいていた。
目の前には紬の姿があった。
椅子に座って、縄で縛られた状態である。
他のメンバーは周りで見守っている。
例え急に抵抗し、縄が解かれても、神楽なら瞬殺だろう。
ただ那央は不機嫌そうだった。
「裏切り者に話す事などない」
ずっとこれである。
一向に研究所の事を教えてくれない。
「はぁ〜…」
監督が重いため息を漏らす。
その時
「皆〜、統夜君目を覚ましたよ〜」
唯依がそう言いながら俺を引っ張ってリビングに現れる。
それを見た監督が
「起きたか死に損ない」
言葉としては最悪だが、監督は笑っていた。
「心配したんだよ〜?3日も目を覚まさないんだから」
神楽がそう言い、ホッとしていた。
他のメンバーも安心したように微笑みを見せてくれる。
そこで俺は縛られている紬に気づく。
そして目が合った。
「ッ!」
「……?」
紬は怯えるように俺を見ていた。
だが、俺にはその表情の意味がわからない。
俺は疑問をぶつけた。
「なぁ…」
「ッ!?」
俺に声をかけられて一瞬紬の身体が震えた。
(何なんだ一体…)
構わず質問をぶつけた。
「俺…どうやってあんたに勝ったんだ?」
『…………は?』
そこにいる全員がそんな反応をした。
当然の反応だ。
倒した本人がどうやって倒したのか聞くのだから。
しかし、俺自身もわからないのだ。
気がつけば倒れていたのだから。
それを聞いた那央が
「お前が倒したんだろ…?」
「たぶん…」
「たぶんって…」
そう返すしかなかった。
本当にわからないのだから。
だから唯一わかってると思わしき人物に聞いているのだ。
俺はただ紬を見た。
「あなた…本当に能力開発を受けてないの…?」
紬が俺にそう聞いてきた。
「あぁ」
俺は素直に答える。
それを聞いた紬が
「フ、フフフ…とんだ化物もいたものね…」
その言葉の意味を誰1人知る者はいない。
ただ沈黙が流れた。
どうやら言葉の意味を話す気はないらしい。
そう判断した俺は話題を変える。
「この状況は?」
俺のその言葉に、監督がまたため息を漏らす。
「研究所の事を聞いても、何も話してくれねーんだよ」
監督は机に項垂れていた。
それを聞いた俺は紬を見る。
「お前なら知っているだろ」
そう言いたそうな目だ。
自分の口から言うつもりは無いようだ。
だったら話せる人間は1人だ。
「……皆が脱出してから研究所は大きく変わった…特に女性陣は」
「ッ!」
『女性陣』
その単語に唯依が思わず反応する。
妹の顔が思い浮かんだのかもしれない。
言いたくはない。
しかし、ここで唯依を退室させたら、余計に不安を煽りかねない。
「…今…研究所の女性陣は、今後脱走を図らないために…恐怖を植え付けられているらしい…」
『なッ!』
「…中には…子ができた人も…」
『………………』
背後から何かの音が聞こえた。
振り向いた時、唯依が床に膝をついていた。
「は……ぁ…………」
絶望している。
そう表現するのが正しいのかもしれない。
それを見たアリアが小さい身体ながらも、後ろから唯依を抱きしめる。
(ごめん………!)
俺は心の中で強く謝った。
「それだけじゃないわ…」
そう言ったのは紬だった。
「男女に関わらず、私達は体内に別の何かを埋め込まれた…きっといつ殺されてもおかしくないわ…この瞬間もね」
それは俺も初めて聞かされた事だった。
「ぅぅ……ぅ…………」
後ろでついに唯依が嗚咽を漏らし始める。
その現実に全員が言葉を詰まらせる。
その状況を打ち破ったのが
「これが…あなた達が自由を願った代償よ」
紬のトドメの一言だった。
その瞬間
パァァン!
その音に全員が驚き、顔を上げる。
そこにあったのは、俺が紬の頬をぶった姿だった。
「言ったはずだ…お前に皆の幸せを否定する資格なんて無いってな…」
「くッ!」
俺のその言葉に、紬は反抗しようとしたが、ふと何かを思い出し、すぐにおとなしくなる。
「皆は悪くない…誰だって…自由は欲しいよ…」
俺は皆に言い聞かせた。
無駄だという事はわかっている。
それでも皆は自分を責める。
わかってはいたが、そう言うしかなかった。
皆は他の人間を踏み台にしたんじゃない。
ただ、自由という存在が眩しすぎて、少し周りが見えなくなっていただけなんだ。
ただただ沈黙が流れる。
その状況に我慢の限界だった俺は
「はぁ〜…何が救済騎士団だ。大層な名前つけて…名前だけかよ?」
「何?」
俺の言葉に監督が反応した。
(引っかかった)
「これじゃ、ただ家でグータラしてるだけじゃないですか」
「貴様ァ!」
ついに監督の堪忍袋の緒が切れ、俺の胸ぐらを掴む。
だが、俺は微笑み
「だから…助けに行きましょ」
「ッ……」
俺の言葉にまんまと釣られたと察した監督が手を離す。
「助ける…だと…!?」
紬の言葉だった。
「あぁ、元々ここにいる全員、研究所の非好戦的連中を助けに行くつもりだった。ただ、相手の圧倒的戦力に、様子見する事しか出来なかったんだ」
俺の言葉に信じられない表情をする紬。
「う、嘘よ!せっかく自由を手に入れたにも関わらず、地獄にまた足を踏み入れるというの!?そんなやつがいるとすれば、そいつはとんだ大バカよ!」
その言葉に俺はニヤリ。
そして言ってやった。
「あぁ、ここにいる連中は、俺も含めて全員大バカだ!」
俺の言葉に紬が呆れていた。
しかし
「無駄よ…いつだってやつは私達を殺せる」
「大丈夫です」
「ッ!?」
紬の言葉を遮ったのはアリアだ。
「死んで間もなければ、何とか」
その目には確かな自信があった。
「敵である私を助けるとでも?」
「えぇ…バカですから」
アリアもニヤリとドヤ顔である。
「ホントに…バカばかりね…」
紬はその言葉と共に、一筋の涙が流れた。
「お前も良いよな?那央」
「勝手にしろ」
俺の言葉に那央がヤケクソに答える。
「殺されかかったにも関わらずこれだ。ここの連中はこんな奴らばかりなんだよ、だから俺は幸せなんだ」
俺は紬にそう伝える。
紬が全員の顔を見る。
全員微笑んでいる。
唯依も泣きながらではあったが笑っていた。
それを見る紬の目には、もう恨み等という感情はなかった。
そして俺は紬を縛る縄を解き、紬の前に手を出す。
「言ったろ?
お前の恨みをぶつけるのはこいつらじゃねぇ
ぶっ倒しに行こうぜ!
自分達の自由を奪ったクソ野郎を!」
その言葉に、紬は何かを決心した。
そして、俺のその手を掴んだ。