Spring has come to NAO
「蒼に染まるまで〜♪」
那央が何かしらの歌を歌いながら街を歩いていた。
そう、今日はブレ〇ブルーの新作稼働日なのである。
昨日から那央は楽しみで眠れずにいた。
「早く使いたいぜ〜ヒビキ=オオグロ」
ヒビキ=オオグロは今作の新キャラである。
分身しながら戦うらしい。
まるで忍者だ。
「〜ござる」とは語尾に付けないが。
「このために小遣いを貯めたんだ、待ってろよゲーセン!」
那央はテンション高く駆け出した。
「カンです」
「お、おう」
アリアの言葉に監督が返す。
「もう一度カンです」
「あ、あぁ」
アリアの言葉に俺が返す。
「嶺上開花です」
『なんでやねん!?』
今度は2人で返した。
(ありえない!どうしてこうなる!?)
俺は恐怖でしかなかった。
俺たちは今、麻雀をしているのである。
監督が仕事場の知り合いから麻雀セットをもらったそうだ。
この状況を傍から見たらなかなか柄の悪い組織だろう。
…今はそんな事はどうでもいい。
問題はこの状況である。
出る事すらまず無い嶺上開花という役を、俺達はずっと見せられている。
これで5ゲーム連続ではなかろうか。
俺、監督、白井、アリアでしていたが、見ろ、白井なんてもう白目を向けて魂が抜け出てそうだ。
「インチキじゃねぇのか!?」
流石におかしいと思い、監督が文句をつける。
「出るのですから仕方ありません」
『…………………』
返す言葉すらなかった。
(出るのなら仕方ない……)
俺は諦めた。
「あれ楽しいの?」
「さぁ〜」
唯依と神楽は仲良くお菓子タイムだった。
「そういや那央は?」
「どーせゲーセンじゃないの?」
監督の言葉に神楽が答える。
「あの野郎!人の小遣いを!遊びばかりに使うなと言ってんのに!」
監督はお怒りだった。
しかし、それでも小遣いを渡すあたり、大人というか親バカタイプというか。
「統夜君」
「ん?」
「また行こうね♪」
「おう」
ゲーセンという単語に反応したのか、唯依がそう言う。
唯依に満面の笑みでそんな事を言われたら、そう答えるしかない。
「熱い熱い…」
神楽がふとそんな事を呟いた。
「最近の若者はどいつもこいつも…!
統夜もその1人だ。カフェだのなんだの、人に奢るやつはバカだ。金は自分のために使うもんだ。」
リア充を見てイライラする那央がいた。
「金で落とせる女なんて所詮その程度のもんだ。俺はこの金をブレイブルーにしか使わねー。ここに誓ってやる」
そんな事をブツブツ言いながら歩いていた。
すると
「あれぇ〜…」
目の前でしゃがんで何か探している女性がいた。
「どうかしたんすか?」
素通りするのも後味が悪い。
そう思って那央は声をかけた。
「その…コンタクト落ちちゃったみたいで…」
ズキューン!
その女性を見て那央は衝撃を受けた。
綺麗な顔立ち、大きな瞳。
綺麗な金髪ロング。
しかもボッ!キュッ!ボン!と来た。
那央の目が一瞬にして変わる。
「良かったら、俺が買いますよ?」
さっきの誓いは何だったのか。
「え、そんな!誰とも知らないあなたに!」
「ここで会ったのも何かの縁です、それにそんな事をしていたら綺麗な洋服が汚れてしまう…」
そう言い、那央は手を取って女性を立ち上がらせた。
「さぁ、行きましょう」
「え、えぇ〜!?」
完全に那央のペースに呑まれ、女性はタジタジだった。
「で、どこまで行ったの?」
「何が?」
神楽の言葉の意味が理解できない俺。
「とぼけるんじゃな〜い、唯依とだよ」
「別に何も…」
あまり進展がない事が悔しく、口ごもりながら答える。
当の本人はアリアの洗濯を手伝っている。
「チューした?」
「してねぇよ」
(何の嫌味だよまったく!)
「これじゃズッコンバッコンは遠いなぁ〜」
「大きなお世話だ!」
(まったく、いきなり何を言い出すのやら…ケネディさんじゃあるまいし)
-公園-
「ヘックシュ…ダレカガウワサシテルネ…」
ケネディさんは公園でケバブ屋を出していた。
「でも、唯依と付き合いたいんでしょ?」
「…………あぁ」
思わず赤くなりながら小さな声で答える。
「だったらアタックしなきゃ〜、誰かに取られるよ?」
「うっせーな、わかってるよ」
その時ふと思った。
(唯依に…好きな人はいるのだろうか…)
那央はカフェにいた。
「ホントごめんなさい…赤の他人の人に…まさかコンタクト買っていただくなんて…」
「気にしないでください、俺が勝手にした事ですよ」
決め顔でそう言う。
「あの…何でも頼んでください、せめてもののお礼を」
「ではお言葉に甘えてアッサムを」
飲んだ事もないのにそんな事を言っていた。
「よければ、お名前を聞かせてください」
那央が名前を聞く。
最早ただのナンパである。
「園田 紬っていいます」
「紬さんですか、良い名ですね」
今の那央をメンバーが見たら思う事は1つだろう。
『キモい』
「あなたは?」
「俺ですか?俺は柴 那央斗。皆那央と呼びます」
「那央さんですか」
(これ良い雰囲気じゃね!?)
この後、2人はお茶を楽しんだ。
そして結局カフェ代は那央が自ら払った。
紬は何度も頭を下げていた。
そして
「やったぞ…!」
帰り道、那央は1つの紙を握り締めていた。
彼女の連絡先である。
(統夜…俺は少し…お前を誤解していたよ…許してくれ…)
「ッ!」
「どうしたの?」
「何か今悪寒が!」
一瞬震えた俺を唯依が心配する。
「ひゃっほう!」
そう叫びながら、那央はリズミカルに基地へ帰って行った。
結局、ヒビキ=オオグロを使うことはなかった。
那央が連絡の取りようが無いのを知ったのは、基地に着いてからである。