強化
救済騎士団は窮地に陥っていた。
男の駆るクラウダーロボZは圧倒的な力を持っていた。
監督が下で必死に耐えている。
全ては時間の問題だった。
「一旦戻るか?」
那央が聞いた。
しかし、戻って肩を回復し、もう一度奴に攻撃する。
その時間がもったいない。
それまで監督がもつかどうかすら危うい。
必死に策を練っていた。
その時
「これで!」
その言葉と共に、唯依が巨大な火の玉を敵へ向かって放つ。
しかし、あまり効いているようには見えない。
「まだまだ!」
唯依は放ち続ける。
その時だった。
機体内でアラームが鳴った。
「な、何だ!?」
男は驚き、モニターを見る。
そこには
『WORKING!!!』
そう書かれていた。
「そんなバカな!?」
男は焦りながら番組スケジュールを見る。
そしてホッとする。
前回の放送日からもう一週間も経ったのかと思ったが、そんなことはなかった。
そして男は気づく。
これは『WORKING!!!』ではない。
『WARNING!!!』だと。
この機体、たまにこのように誤字がある。
先日は『ロケットパンチ』が『ロケットポンチ』になっていた。
男は『WARNING!!!』の理由を調べた。
理由はすぐにわかった。
「熱か!?」
そう、先程から唯依が放つ火の玉によって機体の熱が上がった。
オーバーヒートしているのである。
「くッ!こしゃくな!」
男はキックを中断し、遥か上空へと上がる。
「これで今はなんとか」
唯依がそう言いながら一息つく。
そして地上へ戻る。
「はぁ…はぁ…」
監督はひどく疲れていた。
相当な体力を使ったのだろう。
3人が戻ってくる。
「柊、悪い、右肩を頼む」
「まかせてください、すぐに」
俺がそう言いながらアリアに近づく。
アリアは治癒を始める。
右肩が外れ、負担がかかった程度。
壊れたわけではない。
回復は一瞬だった。
「ありがとう」
「いえ、これが私の役目です」
俺の礼にアリアが答える。
(問題はここからだ…)
奴を倒す方法。
それを必死に考える。
その時
「これならどうだ!」
そんな言葉が上空から聞こえた。
冷却が終わったのか、男がそう言う。
予想より遥かに早かった。
そして男は叫ぶ。
「ギガァァ!ドリルゥゥゥ〇ゥ!ブレイクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
その叫び声と共にロボットの腕からドリルが出現する。
しかし、そのドリルは普通ではなかった。
ドリルは巨大化し、機体の大きさを遥かに上回った。
そして再び大地へ向かってくる。
「あんな物どうしろってんだよ!」
咄嗟に俺の口から出た。
だが
「那央!誰でも良い!2人を連れて飛べ!唯依!残りを頼む!」
俺の言葉に監督が割って入る。
那央が俺と監督を掴んだ。
それを確認した白井、神楽、アリアは唯依に捕まる。
「いくぞ!」
那央がそう言い、飛ぶ。
続いて唯依が自分たちの足元に強力な突風を巻き起こす。
間もなくして敵が今まで俺たちがいたその場所へ突っ込む。
大地に巨大なクレーターができた。
危うく全滅するところだった。
無事、敵の攻撃を避けた俺たちは周りを見渡す。
すると一筋の光が空へと向かう。
白井のヘカトンケイルである。
「那央、あそこだ」
監督の指示通り那央が飛ぶ。
「無事か?」
「唯依のおかげでなんとか」
俺の言葉に神楽が答える。
その時
「もう許さん!俺の華麗な必殺技を次から次へと避けおって!」
男は叫びながら再び空へ昇る。
(流石に限界だ…)
俺は思った。
監督の体力の消耗が激しい。
唯依もずっと力を使っている。
もし、唯依がまだ戦えても、監督とアリアを覗いて5人。
しかし、神楽と白井の攻撃は奴に通じない。
実質3人、絶望的である。
策を練りたかったが、現実は非情だった。
「これが俺の切札だ!」
男が叫ぶ。
すると、敵のロボットの前に先程のドリルよりも巨大なハンマーが出現した。
あんな巨大な物、那央なら避けられても、体力を消耗した唯依が他のメンバーを抱えて避けられる筈がない。
全員の表情が曇る。
(ここまでなのか…)
ふとそんな事を思った。
きっと今、奴にダメージを与えられるのは俺だけだ。
だが、さっき敵を攻撃した時、確かにダメージを与えたが、決定打ではない。
「俺にもっと力があれば…」
ふと口から出た。
その時
「大丈夫です」
アリアだった。
「これは私の予想ですけど、恐らく統夜さんの攻撃力は篭手を発現し続けた時間に比例します」
アリアの言葉に俺は篭手を見つめる。
「今の統夜さんなら…もしかしたら…」
アリアがそう言い終えると、肩に手が置かれた。
監督だ。
「大丈夫だ、自分の力を信じろ、能力の力は持ち主の感情に大きく左右される」
「でも…」
監督がそう言うが、俺には自信がなかった。
「お前ならやれる、それにこのままじゃ全員お陀仏だ…誰もお前のせいになんてしねぇ…最後に足掻いてみようぜ」
監督が決め顔そう言う。
周りを見渡した時、全員を笑顔で俺を見てくれていた。
(情けねーよなまったく…これだけの仲間に支えられてんだ…何を怖がる必要がある…そうだ…ここで応えなきゃ…男じゃねぇ!)
そして俺は唯依の元に寄る。
「…?」
唯依がどうしたのかと見てくる。
(それに…)
「ちょっと怖い思いするかもしれないけど…一緒に来てくれないか?力を貸してほしい」
「…もちろん♪」
(俺はこの子を…妹の元に届けてあげないといけない…!)
俺の言葉に唯依が笑顔で答えてくれる。
「那央もいくぞ」
「俺には前置き無しかよ!?強制かよ!?」
俺の言葉に那央が突っ込む。
それを見て
「唯依が行くのに那央が行かないんだ〜?」
神楽が那央を煽る。
「い、行くよ!行くっつーの!」
ヤケクソに那央がそう言う。
「決まりだな」
俺はその言葉と共に拳を握る。
「クラッシャーコネクト!」
ロボットとハンマーが一体化する。
「ゴルディ〇ン!クラッシャァァァァァァァァァァ!!!」
そして男はそのハンマーを振り下ろそうとする。
突撃する必要がない。
振り下ろすだけで良い。
それほどの規模だった。
そして、俺と唯依が捕まった状態で那央が敵前に飛んだ。
これほどの規模を前にすると恐怖でしかない。
「那央、もう一度飛んで、敵の目の前まで行ってくれ、唯依は全力で風を推進力として頼む、その勢いで3人で突っ込む」
「3人で!?」
俺の言葉に那央がビビる。
唯依が風を使っている時に、那央が飛んだ場合、一瞬空間に囚われない那央の力で唯依の力が遮断されてしまう。
先程みたいに俺だけが突っ込んでも、唯依と那央がここから動けない。
「やつが今からこっちに向かってハンマー振りおろしてくるが、ここでじっとしとくか?」
「よし、行こう」
那央が即答する。
「いくぞ!」
俺のその言葉を合図に全員が集中する。
(頼む…力を貸してくれ!俺はこんな所で止まれない!終われない!)
その時、篭手の甲の部分が輝きはじめる。
「ッ!?」
すると、甲の部分の装甲が展開し、中から赤い宝石のようなものがむき出しになる。
「…ッ!」
(何だかわかんねーが、やるしかねぇ!)
そしてついにロボットがハンマーを振りおろしてくる。
「光にぃぃぃ!なあぁぁぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
巨大なハンマーがこちらへ向かってくる。
「いくぜ!」
那央が飛ぶ。
場所は敵のコックピット前。
そう、馬鹿正直にハンマーに立ち向かう必要なんてない。
ハンマーが地上に落ちる前に敵を倒せば良い。
「いくよ!」
唯依が最大の加速を行う。
「テメェが光になれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
握った拳を全力で敵コックピットに叩き込む。
腕に強烈な痛みが走る。
それでも腕を突き出し続ける。
「届ッッけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
その叫びと共に篭手から眩い光が放たれた。
「な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
その光が敵のコックピットを貫通し、機体の胸の部分に風穴を開けた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして男は叫びながら遥か彼方へと飛んでいった。
パイロットを失ったロボットが光となって消える。
「や、やったのか…?」
監督が地上からふとそう口から漏らした。
「はぁ…はぁ…」
身体はクタクタである。
右腕は見たくもないほどボロボロである。
骨がむき出しになってるんじゃないかとすら思える。
「大丈夫?」
唯依が心配そうに聞いてくる。
「大丈夫じゃないけど…生きてるよ、あとは柊に治してもらわないと」
そう答える。
そして那央は地上へ飛ぶ。
地上に戻り、アリアに早急に手当てしてもらう。
「信じてました、統夜さんならやってくれると」
「皆のおかげさ」
アリアの言葉にそう答える。
少し浮かない顔をする神楽の元に監督が行く。
「な〜に、誰だって不利な相手はいるさ」
「…うん」
監督はそう言うが、やはり力になれなかった自分を責めてるのか、神楽は力なく答える。
白井なんて地面を蹴っていた。
(こんなキャラだったっけ?)
そう思いながらも口には出さない。
「何のために仲間がいると思ってんだ?自分ができねー事は、仲間に頼っておけば良いんだよ」
監督のそのもうひと押しによって神楽に笑顔が戻ってくる。
「…うん。じゃあ仕事も監督に任せるね?♪」
「それとこれは別だ!」
神楽と監督がそんなやり取りをしていた。
そんなこんなしてると、俺の治癒が終わった。
すると
「よし!今日の買い出しは中止だ!今晩は全員お茶漬けだ!」
『えぇ〜!』
「贅沢を言うな!」
疲れてても騒がしい救済騎士団だった。
その男はデスクいた。
能力者のデータを眺めていたのである。
そしてふと、小さな音がなった。
別の画面を開く。
そしてその男は理解した。
「まさか…クラウドまで消息を断つとは…少し見くびっていたのかもしれませんね…」
次の刺客を出そう。
そう思った時
「そういや2日もしてませんでしたね」
最近は失敗作ばかりと頭を悩ませて、疲れていた男は1人の能力者を選んだ。
「この娘はもう十分遊んであげましたし、もう良いでしょ。最後にもう一度だけ遊んであげて向かってもらいましょう。」
そう決めると男は立ち上がり、別室へ向かう。
男の能力者と女の能力者では、部屋に距離がある。
そして男は女の能力者部屋、そのうちの一室の前に来た。
ドアを開ける。
その男を見た瞬間、その女の顔は恐怖に変わった。
「あ…あの…何でしょうか…刹那博士…」
女はそう言った。
声はひどく震えている。
刹那と呼ばれた男は答える。
「な〜に、仕事ですよ。脱出した裏切り者のね」
「そ、そうですか…」
刹那の言葉に女は安心した。
しかし、安心は一気に地獄へと変わる。
「その前に…私とゆっくり遊んでもらいますけどね?」
「へ……」
「フ、フフフフフ…」
その後、その部屋からは笑い声と悲鳴だけが聞こえていた。