雨音
不快感に夢から目覚める。
「やっぱり地べたで寝るものじゃないな」
そう言いながら体を起こし、ついた土を払う。
睡眠に適切な環境とはとても思えなかったがよく眠れたらしい。眠る前の気怠さがかなり解消されていた。寝る前はそれと気づいてなかっのだが、なくなった事で気怠さがあったのだとわかった。
あの後雨が降り出して雨宿りのために洞窟に戻ってきていた。寝ている間に日は沈み、洞窟の中は暗く、周りが見えなかった。
未だに雨の音が聞こえてくる。
その音を聞きながら見ていた夢を思い出そうとする。けれど音も光景も今では千々になり、掴もうとしても指の間からすり抜けていくようだった。
記憶についても同じだった。
洞窟に入ってから何かを思い出そうとした。何かが浮かんでくる気配はあるのだが、すぐにまた深くまで沈んでいくのだ。
それが酷くもどかしかった。
幾度か繰り返し、無駄だとわかった。いや、正しくは諦めた。そして横になっていつの間にか寝てしまった。
息を吐き出す。息と一緒に欠片となった夢も出て行く気がした。
「アノン」
【何だい?】
息を吐く。そして吸う。意識的にそれをやってから言う。
「アノンはあの兎を殺す事が出来た、なんて思っているみたいだけど、僕には無理じゃないかな?剣みたいな重いものを兎に当てるなんて。それもこんなガリガリの腕で、じゃあね」
一息で言い終えた。横になってから寝るまでこんな言い訳ばかりを考えていた。こんなくだらない言い訳を。自分でもそう思えた。
【キミはそう思うのかい?】
冷たい汗が背に流れた。彼の声からは彼がどう思っているかは伝わってきた。
【キミが望み、為そうとすればあの程度造作もない。そうだろう?】
彼はそう問いかけたが何も言えなくなった。
「絶対違うよ。多分。外れていたさ」
切れ切れに言葉を紡ぐ。気力を総動員してそれだけだった。
【そうかな?】
同じ様な問いかけだった。しかし今回は答えを求めているわけではない様だった。いや、もしかしたらさっきもそうだったのかもしれない。
膝を抱き壁に寄りかかる。
「違うよ」
絞り出された言葉には誰にも向かわずに中を漂った。
その後には言葉は紡がれず、雨音だけが暗闇の洞窟に響いた。