1.5
梓の悲鳴を聞き、何事かと思った彼らは里絵の部屋へと駆けつけた。そして、ぞのあまりの惨状に言葉をなくしてしまう。
「ひどい、誰がこんなことを……」
彼女は何箇所もナイフで刺されたような傷があり、内臓が体から飛び出ている。死体の生臭さに耐えかねずハンカチや手で口と鼻を押さえている者もいる。
「村尾先輩、ハンカチ落ちてるぞ」
「え、あぁありがとう」
綾菜が落としたハンカチに山倉が気付き、手渡されたハンカチで彼女もそれで鼻を押さえる。「誰だよ、こんなことしたの……」
「この中に犯人がいるんでしょう……?この嵐じゃ、誰もこの島に入ってくることなんて出来ないし……」
誰もが里絵を殺害したのは誰かと恐怖に震えている中、中崎だけが一人その部屋を出て行こうとした。
「おい、なにしてんだよ」
すかさず山倉がそれを止めるが彼は「亀野をこのままにしておけないだろ。ブルーシートかなんかに包んで、どこかへ移動させないと」と山倉を冷たい視線で一瞥する。
「はっ、とかなんとか言っちゃって、本当はお前が犯人だからこの場から逃げようって魂胆なんじゃねぇの?」
「なんだと」
中崎と山倉はお互いに睨み合い今にも取っ組み合いが始まる雰囲気に、山倉の言う通り中崎が犯人で証拠を隠滅したいんじゃという空気に彼女が一喝する。
「皆待ってよ! なにを根拠に春真くんが犯人だって決めつけるの? 里絵をこのままにして置けないのは皆だって分かってるのに、それで春真くんが犯人なんておかしいよ」
梓の一言で、とりあえず今は犯人探しよりも里絵の死体をどこかへ移すことを目的にした7人。「地下にひとまず移すのはどうかな? そこなら、臭いも封じ込められるだろうし。ブルーシートも地下にあると思う」
「俺が取りに行く」
中崎が取りに行くことを告げ早々に部屋から出る。「あ、私も行く!」と梓も後を追うことに。
着いてきた梓に、中崎は舌打ちをする。
「見張りのつもりかよ」
「そんなつもりじゃ……」
そんなつもりではない、そう言う梓に更に機嫌を損ねる中崎。
「どうせお前も俺が殺ったと思ってるんだろ」
「……春真くんが殺ったの?」
梓は立ち止まり、上目で彼の瞳をじっと見つめる。いままで梓から感じたことのない何かに彼は少しばかりの恐怖を覚えた。
「はぁ?なわけないだろ。俺じゃない」
「じゃあ、春真くんを私は信じるよ」
先ほどまでの彼女とは打って変わり、いつものように微笑む梓に彼はほっと胸を撫で下ろした。
あっという間に地下室へ到着し、扉を開ければ埃が被った古い家具や、天井に張られた蜘蛛の巣がいかにもここが地下室である事を示している。
ブルーシートは、部屋の隅に置いてあった。
「戻るぞ」
「うん」
里絵の部屋に戻り、刺し傷だらけの彼女をブルーシートに包み大田と永見の男二人がかりで地下室へと運んだ。
誰が里絵をこんな目に合わせたのかそれを確認すべく、一先ずリビングへ集まることにした彼ら。
彼女が誰かに殺されたというのに涙一つ見せず坦々と死体を運ぶ永見の姿を見て梓は昨日の事が関係あるのかと一瞬考えたが、証拠もなしに誰かを疑うのは良くないと思い止まった。