1.3
「里絵のことで話って……?」
ノックをし中に入ると、中はベッドと机、椅子、クローゼットが置かれていてどこの部屋も同じなのかと梓は思った。部屋の主は椅子に座っていた。
「やぁ、待っていたよ。適当に座ってくれるかい?」
「……痴話喧嘩なら巻き込まないでほしいんだけれど」
促されるままベッドに腰掛ければ、永見は重い口を開いた。
「そんな優しいものならいいんだけどね。……里絵と別れたいんだ」
「里絵がなにかしたの?」
「うーん……確証はないんだけど、浮気というか好きな人が出来たみたいなんだよね」
「あの子が他に好きな人なんてあるわけがない。だってあの子は……」あなたの事が心の底から好きなのに。そう言おうとした刹那、梓は永見に押し倒されていた。
「違うよ、梓ちゃん。僕が好きになっちゃたんだよ、君のことをね」
「あなたが、里絵と付き合い始めたのは前の彼女と別れるために利用したことは知ってる……! でも、里絵は……」
「梓ちゃん、あいつが本当に僕のことが好きだって本気で言ってるの?」
一瞬、いつも優しい瞳をしている彼が鋭く獲物を狙うような瞳を見せる。しかしその眼差しはすぐ優しいものに戻る。
「あいつはね、春真が好きなんだよ。でも春真に相手にされないからって僕に目を付けたんだ。ちょっと優しくしたからってころっと相手を変えるような奴なの。その点君はいいよね、入学してからずっと好きなんでしょ?」
「…………」
だんまりを決め込む梓に構わず彼は言葉を続ける。
「僕はころころ相手を変えるような尻軽より長い間一人を好きでいられる君が好きなんだけどなぁ」
「どいてくれる? 綾ねぇのところに行きたいんだけど」
「あれ、僕の告白スルーされちゃった?」
拍子抜けと言わんばかりに彼女の上からどいた永見。梓はベッドから起き上がり乱れた服を整え、永見を一瞥する。
「ながみんの事だしどうせその告白にも何か魂胆があるんでしょ」
「さすが部長さま、ばれちゃった」
「何を企んでるのか知らないけど、そのうち痛い目見るよ」
「ご忠告、感謝するよ」
ひらひらと手をふり、部屋から出て行く梓を見送る永見。
「ながみんは本当、何考えてるのかわかんないなぁ」
階段を降り、リビングへ向かうとウッドデッキへと続く大きな窓の前に皆が集まっていた。