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調査員と空間跳躍機関

「どうぞ」

「ありがとう、いただきます」


 俺の部屋で差し出されたお茶をズズッと美味しそうにすする男。

 ……とりあえず、状況を整理をしよう。


 俺、田木亮が学校から帰ってくるとひとがドアの前に座っていて、その人物は昨日出会っていて、偶然にも探し物を見つけ出して、なんか挙動不審で、紳士を蹴り飛ばした危険人物で……。そんな人間が俺の目の前にいる。

 現時点での状況―――訳わからん。


 ストーカーという単語が頭をかすめた。

 一度しか会ってない、しかも自己紹介もしてない相手が自分の名前を知っていたのだ、間違ってはないだろう。

 ストーキングまでして俺に会いたかったらしい男はこともあろうに話があると言ってきやがった。普通だったら「んなふざけたことしてられるか! 出てけっ! このストーカー変態野郎!」と怒鳴りアパートから蹴りだすだろう。

 しかし、ここは冷静に相手の要求を飲み部屋にあげる。

 ストーカー被害はあまり警察が対応してくれないからだ。ここでなにかしら喋ってくれたら解決の糸口が見つかるかもしれない。男がいきなり襲ってきたとしても逆にそのことで警察が呼びやすくなる。念のためすぐ外に出れるようにドアに近いほうに座る。


「まず自己紹介しなくちゃね。僕の名前はジューエ。よろしく」

「あ、どうも。田木亮です」

「いい部屋だね~。きちんと片付いてて。掃除は自分でしてるの?」

「ええ、まあ。一人暮らしなんで」

「しっかりしてるね。僕なんかはめんどくさくて部屋の掃除どころかほうきも握ったこともないよ。だいたい物が置いてある場所はわかるから不便はないんだ」


 ふいに立ち上がり本棚の前まで歩いていき、おもむろに一番下の棚の奥に手を入れごそごそし始める。回し蹴り男(ジューエって名乗ってたっけ?)の行動を見落とさないよう最大限の注意力を払っていたためその動きに疑問が湧く。


「何してんですか?」

「エロ本探し」

「なにがしたいんだよっ?!」

「いや、だからエ」

「それじゃない!わざわざ待ち伏せまでして俺になんか用があんじゃないのか!?」


 なんか焦ってないかって?そりゃそうだろう。ジューエが探していたところにあるんだから、その…ロマンが詰まった本が。


「そう…だね。ふざけている場合じゃないか。」


 俺の剣幕に一瞬目を丸くしていたがすぐに真面目な顔をしてこちらに向き直る。

 この際、ふざけていた発言は聞き流すことにしよう。



「最初に言っておこう。僕はこの世界の人間じゃない。」


 ・・・・・・・・。


「そうか。電話するのは病院と警察どっちがいい?」

「待ってくれ! 待って下さい! 妄想でも嘘でもなく真実だから!」

「精神科の閉鎖病棟と日の当たらない刑務所どっちがいい? いまならいわくつきのところにぶち込むけど?」

「より具体的に?! ひどくなってるし! とりあえず携帯置いて!」

「もしもし警察ですか? ウチに変質者が。錯乱していて自分が人間じゃないとかなんとか。」

「やめてくれええええええ!!」




「はぁはぁはぁ、と…とりあえず本当かどうかは後で証明するから。話だけでも聞いてくれないか? いや、聞いてください、ホントお願いします。」


 数分間におよぶ携帯の奪い合いの後、負けたジューエが肩で息をしながら懇願する。ちなみに由緒正しい土下座の恰好で。

 こちらは死守した携帯を机の上において了解の意を示す。ここまでされるとさすがに無碍にはできないし、なによりさっきの奪い合いのときの相手の気迫に面食らったというのもある。




「じゃあ話すよ。事の起こりは17年前―――」


 17年前、ひとりの冒険家がある鉱石を見つけた。その鉱石は一定の条件を満たすと奇怪な現象を起こすことが判明した。

その鉱石同士をぶつけると黒い霧のようなものが発生し、その霧に入った物質は離れた場所に移動するというものだった。


 いわゆる、瞬間移動を可能にする性質を持っていたのだ。


 長距離の搬送技術が乏しかったその時代、研究者や技術者はその鉱石の有用性を認識しこぞって研究、開発を行った。そして、彼らは努力の末作り上げたのだ、空間跳躍機関を。

 主要都市のほとんどにこれは設置され、それまでとは比べられないほど物資、情報、人の行き来が頻繁になり世界はより豊かに発展していった。




 と、ここまでが前置き。もっと話したいことがあるんだけど大事なのはこれからだから。


 空間跳躍機関は欠点があってね。

 サイズの問題で多くの物を一度に通せないんだ。だから、空間跳躍機関のスケジュールは1年先まで埋まっていて、民間に開放されているものにはいつも長蛇の列ができてしまう。これを解決するため国は大規模な計画を立てたんだ。


 それが『くうちょうきをドトーンと大きく作ろう計画』!


 …実際はもっと真面目で肩っ苦しい名前なんだけど。ああ、くうちょうきって言うのは空間跳躍機関のこと、みんな略してそう言ってる。とにかく名称通りに空間跳躍機関を大きくして便利にしてついでに跳躍距離も最長にしようって計画。何十人もぶっ倒れながら建造を進めて2年前にようやく完成したんだ。で、そのお披露目の日。事件は起こった。


 新型空間跳躍機関が作動しなかったんだ。


 ひどいもんだったよ。国の威信をかけた計画だったから他の国の偉い人も来てて、国民の半数もその場に居合わせてた。責任者の真っ赤になった顔がお偉方が怒ってるのを見て青くなって現場監督の耳打ちを聞くと真っ白になってそのまま倒れちゃって。その場は大荒れに荒れて政府はとてつもなくバッシングされましたとさ。


 問題はそのあと。動作不良を起こした原因を調べるための再調査をしたら新型空間跳躍機関が違う場所に繋がっていることが判明した。


 その場所がここ、地球。


 大陸間移動しようとしたら行き過ぎて世界間移動しちゃったわけ。それがわかったときの驚きようってたらなかったね。体の構造も仕組みもはぼ一緒の人間が自分たちとは全く違う文化、見慣れない技術を持ってるんだから。

 国はすぐさま地球を調べるため人々を集め『組織』を作った。『組織』はここに関すること全てを調査、研究、そして最終的には世界間の交易をすることを目的として動いている。

 そのうちの調査をするのが僕ら、調査員なんだ。




「ということ、わかった?」

「……わかったと言えばわかったが理解したくない」


 ジューエは温くなったお茶をすすり、田木は頭を抱えていた。


 いきなり別世界のことをべらべらと喋られて気分が良いわけがない。

 空間跳躍機関?世界間移動?調査員?

 突拍子もなさ過ぎる。これで『はいそうですか~』と納得できるやつ出てこい。いますぐ代わってくれ!


「やっぱり信じられない?」

「まあな」


 さっきまでの言動から簡単にはいかないと予想していたのかジューエの顔に落胆した様子はない。


「でも、二年前に何かなかった?こっちの世界にも何かしらの影響があったはずだ」

「…二年前」


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