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宇宙人との再会

 ジリリリリリリ、ガチャッ!

 意識が薄ぼんやりしているなか音だけを頼りに目覚まし時計を止める。薄く目を開けるとカーテンから日は差し込んでいなかった。


(そうか今日は学校か)


 月曜特有のけだるさを感じながら身支度を整える。鏡の前でネクタイを整えついでに寝癖がないかチェックする。鏡を見るといまにも眠りそうな自分の顔が映っていた。生まれたときから変わらない黒目黒髪、町を歩けば誰も振り返らないほど風景に馴染むごくごく平凡な男子高校生そのものだ。

 学校指定のバックを肩にかけ玄関のドアノブをひねり押し開け、


「ふぐぉ!」


 ……られなかった。

 わずかに開いたドアは押し込まれるような勢いで閉じ俺の頭にクリーンヒットした。そのまま玄関に仰向けで倒れていく俺。


「ごめんごめん、大丈夫?」

「イテテ。毎度毎度やっといてよく言うな」


 身を起こしながら事の元凶の姿を見る。同じ高校指定の制服を着ているが、相手はズボンではなくスカートだった。短めに切りそろえられた黒髪、快活な印象を与える笑みから覗く歯は白く輝いている。

 彼女の名前は渡良瀬鈴。同じ高校で同じクラスに所属していてさらに同じアパートに住んでいる。見た目通りのスポーツ少女であり陸上部に所属しているらしい。


 そして俺にとって重要なのはこの女子は部屋を出るときの障害物であるということである。

 ただでさえ同級生に「お前それなんてギャルゲ?」と言われてるほどの偶然が重なってるのにこいつは俺の出かけるときに限っていつもドアの前を通る。しかも、アパートの通路が狭いせいで毎回さっきみたいなことになるのだ。何故か恒例行事になってしまい徐々に慣れ始めてしまっている自分がいる。恐ろしい。


「私は気にしてないから、ハハハ」

「そこは気にしてくれ」


 笑いながら何言ってんだ、こいつ。加害者が気にしないってどういうことだ?


「どちらかと言えばそれ俺の台詞だしな。」

「それこそ気にしなーい気にしなーい。じゃっ私急いでるから。」


 渡良瀬はそう言ったかと思うと階段を一段とばしで駆け降りていった。さすがに陸上部だけあって足が速い。俺も後を追うように学校に向かって歩き始める。






 1-3と書かれているのを確認した後、教室に入り自分の席に座ると癖の強い髪をした男子が近づいてきた。


「おーはーよー!それでさ昨日のま」

「うっさい、落ち着け!黙れ!」

「……まだ20字もしゃべってないぞ」

「朝からお前の話は重いんだよ。まだ眠いし」

「まーまーそんなに嫌がってやるなよ。東野が話をしてもいつも通り聞き流せばいいじゃん。俺もいつもそうしてるしな」


 いかにも遊んでますという軟派な雰囲気を持つ男子が会話に割り込んできた。


「大沼、東野のHPがゼロになってる。うざったいからなんとかしてくれ」

「どうせおれなんてどうせおれなんてどうせおれなんてどうせおれなんて」

「ああ、わりぃわりぃ」


 いまぶつぶつつぶやいてうつむいているのが東野遠見、片手を顔の前に持ってきて謝っているのが大沼大輝だ。二人ともこの高校、彩路木第二高校に入ってからすぐに知り合い、特によくつるむ面子だ。


「顔が暗いな。なんか疲れてるのか?」

「東野の顔を見たせいだ。それだけで俺は疲れられる自信がある!」

「なるほどなるほど、それは仕方ない」

「……扱いひどすぎやしませんか?」


 さすがにかわいそうだな。いくら立ち直りが速い性質とはいえフォローしておくか。こいつをいじるのは楽しみのひとつだから口をきいてくれなくなったらそれこそ意味がない。


「昨日色々あったから疲れているだけだ、気にすんな」


 実際のことを説明すると脳外科を勧められてしまいそうなので適当にぼやかしておく。すると、さっきまで沈んでいた東野がニヤニヤとし始めた。うわ、しまった。


「そうか、昨日ということは……やっぱりお前も『魔導の担い手ルースルー』を見てたんだな?深夜リアルタイム視聴とはわかっていますね、旦那。今回も神回だったよな~。あの繊細な映像とルースルーの無表情さが―――」

「一瞬でも心配した俺が馬鹿だったよ……」


 ホームルームが始まるまで俺は喜色満面で話を続ける東野に適当なあいづちをうつはめになった。

 俺がうんざりしていたのは言うまでもない。






 午後の眠気と戦いながら『黒板の文字をノートに書き写す簡単なお仕事』を終わらせた俺は大きく伸びをする。


「お~い、帰ろうぜ」

「おう。大沼は部活か、相変わらず真面目だな」

「ほんと。教室から凄まじい勢いで出てったよ。きっと世界新だね」


 1-3では見慣れた光景だから誰も驚いてないがあいつの教室を出るスピードには目を見張るものがある。大沼は見た目に反して部活動のバスケットボールに一生懸命だ。なんでも中学から続けていてそこそこ実力があるらしい。


「俺ら帰宅部にはとても考えられない。体育でもないのに体動かすなんて!」

「俺らって一括りにしないでくれるか。傷つくから」

「その一言でこっちが深く傷ついてるよ!!」

「大丈夫だ。しっかりと治療してやる、塩で」

治療とどめ!?」


 ぎゃーぎゃー言ってる東野を無視しながら教室のドアに向かう。

 ドアの近くでは女子が二人で話をしていて、片方は今朝もあった人物、渡良瀬だった。


「駅前のドーナツ屋で新メニューが出たんだって。部活が終わったら食べに行こうよ!」

「いいね!私も食べたかったんだ、はちみつパンケーキ風ドーナツ。ドーナツのためにも部活頑張らないとね」


 女子ってのはやっぱり甘いものが好きなのだろうか?しかし、はちみつパンケーキ風ドーナツか。パンケーキとドーナッツってほとんど変わらない気がするのは俺だけだろうか?






 家々から漏れ出てくる家庭的な明かりが歩いている二つの影を照らし出す。


「しっかし暗いな~。こういうときの話題は怪談一択だな。うらめし~」

「時期じゃないだろ。まだ五月だぞ」

「そう言うなって。この町の面白い都市伝説をネットで見つけたんだよ」


 東野はいくつかサイトを管理しており他の人がやっているサイトにも頻繁に出入りして書き込みをしている。掲示板という名の戦場でさんざん語り合ってるくせに学校でもその手の話をしてくる精神は全くわからない。


「いまさらだな。どうせ神の怒りが云々。宇宙人のオーバーテクノロジーがなんたらかんたらとかだろ?」

「はっはっはっ、遅い遅いぞ。流行遅れで化石化してもおかしくないよ。今一番ホットなのは『美少女幽霊現る』だ!」

「それ、お前の理想だろ。」

「信じる者は救われるんだよ」

「黙れ! 二次元教信者!」


 お前ならわかってくれると思ったのにとこちらを睨んでくる。漫画もアニメも見るがこいつほど熱心ではないし、それよりもゲームやってることのほうが多いから全く理解できない。

 都市伝説は根も葉もない噂ばかりでどの町でもあるようなものばかりで、一部のオカルトマニアや暇な学生が考えた妄想が独り歩きし混ざり別の人物によって加工された住所不定無事実に過ぎない。まあこの町だからやたら騒がれるんだろう。


「……余裕があるね。渡良瀬さんとは進展したのかい?」

「まだ言ってんのか。そんなわけないだろ。」

「なん…だと? フラグひとつ立たなかったというのか?」


 何を隠そう俺に「お前それなんてギャルゲ?」とのたまったのはこいつだ。ちょっとした拍子にクラスメイトの女子が同じアパートに住んでると話したとき東野は目の色を変えて抗議してきた。


 曰く、そんなの二次元でしかありえない、と。


 知るか。そんなで恋仲になれたら大抵の人は近所で結婚相手を見つけられるわ。

 またぎゃーぎゃーうるさくなった東野だったが俺のアパートとは家の方向が途中までしか一緒じゃないので十字路のところで別れた。



 ……そういやここらへんだよな。昨日いろいろあったのは。結局、正体不明の男と謎の黒いのはいつの間にか消えていなくなっていた。足元のコンクリートには何の跡もなくあの出来事は夢だったんじゃないかと思えてくる。


「それこそ都市伝説にでも会ったのかもしれないな」


 もしそうなら、回し蹴り男は宇宙人でジェントルマンは神に違いない。


 そんな馬鹿げたことを考えながらアパートの階段を上っていく。自分の部屋は二階にあり階段側から二番目のところだ。


 そして、その部屋の前には見慣れない物があった。物ではなく人だけど。

 ドアに背を預けていたその男はこっちを見て、


「やあやあお帰り、田木亮クン。すっかり待ちくたびれちゃったじゃないか」


 笑みを浮かべながらそう言ってきた。


 ははっ宇宙人が襲来してきちゃったよ。


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