第三話
お気に入りありがとうございます!
加筆修正しまくりなので、お暇があれば前話などご確認の上、ご意見・ご感想よろしくお願いします。
オレの名前は、イアン。ミスティアで冒険者をやっている。
今いるこの森に来た理由は、林道を脅かす魔物を退治してくるようにという依頼を受けたからだ。
ギルドに入り日は浅いけれど、今現在Cランクとなかなかの実力だと自負している。
ギルドのランクは、下からF~A、S、ZWで、Cランクは一応そこそこの実力と考えていい。
そんなイアンが森の中で窮地に立たされていた。
「くそっ! すぐ助けるからな」
「無理だ。タイグルオーガだなんて! Bランクなんだぞ」
イアン一人なら、逃げて緊急事態をギルドに報告しただろう。倒せないことなどわかっているから。
だがそこには、タイグルオーガの他に襲われている馬車と人がいた。
全くの他人だが、だから何だと言うのだ。助けられるなら助けたい。
イアンは幼い頃に両親を亡くした。沢山の人が、何かしら助けてくれた。
そんな人たちを見て育って思ったのだ。“こんな人たちになりたい”と。
だから、見捨てるなんて選択は初めからない。
「いいからオレが足留めするから、あんたらは逃げろ!」
タイグルオーガに剣で一撃を加えて馬車から注意を逸らす。ぐるぐるぐるっ。威圧感だけでも今まで戦って来た魔獣とは各段の差だった。
怖くては足が竦むけど、馬車の前に躍り出て魔獣と対峙した。
「バカか! 止めろ!」
「お兄ちゃん危ないよ」
そんな言い争いをしている間にも、タイグルオーガはイアンに腕を振るってくる。剣で受けようとしたイアンは、オーガが腕に雷を帯びていることに気付き、慌ててその場から飛び退いた。
「ぐっ……」
「ぐるああ。ぐがぁあっ」
腹に掠ったタイグルオーガの腕に、傷口から血が滴った。幸いなことにタイグルオーガの雷が血止めになった。
木に激突した身体は上手く動かない。けれど、気合いで何とか立ち上がった。
「もうやめろ!」
「もういいよおっ! お兄ちゃんっ」
馬車の親子の声が聞こえるが気にしない。イアンですらあと一撃に耐えるのがやっとだ。この親子を置き去りにしたら、どうなるか考えるだけでゾッとする。
タイグルオーガは遊んでいるのか、もう魔法は使ってこないらしい。
振り下ろされた拳に、剣で迎え撃つ。何とか一撃を耐え抜いた瞬間、もう片腕が既にイアンに迫っていた。
終わり、か。あっけなかったなと、ふと走馬灯が過ぎった。オレに助けられる力があったら良かったのに。
その次の瞬間、タイグルオーガの悲痛な悲鳴が聞こえた。
時は少し遡る。
彩斗は、林道で争っているのが人同士ではなく、人が魔獣に襲われているのだと気付いた。気付いてしまったからには彩斗のやることは決まっている。
「俺ちょっとやりたいことあるんだよね。少し離れてて」
彩斗は精霊達に離れているように伝えると、風を拳と足に纏わせて軽く動く。
その流れるような動きは、空手を芯から鍛練している証だろう。ある程度動くと、彩斗はぴたりと動きを止めた。
この鍛練すら、時の精霊術でやっている。精霊術に関しては、彩斗は本当にチートだった。
「じゃあ行くよ」
彩斗は風で一瞬で馬車と少年の元に跳ぶ。そして、後少しでやられるところであろう少年と魔獣の間に割り込む。
紫色の頭皮はガサガサで気持ち悪い。彩斗は、風を纏った腕を高速で動かし魔獣に拳底を叩き込む。
それだけで魔獣は三メートル吹き飛んだ。そこに足と手をふんだんに織り交ぜた技をフルコンボしたら、いつの間にか魔獣は死んでいた。
ポカーンと見つめてくる三人のこの世界に来てから初めて会った人達に声をかける。
「大丈夫ですか? 間に合って良かった。すみませんが近くに街か村ありません?」
暫く固まったままだった彼等に、その後質問責めにされることを彩斗は知らない。今はただ、純粋に心配していた。