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大精霊に愛された少年の異世界放浪記  作者: 桜 花美
第一章 風の谷“ミスティア”
2/14

第一話

2012.12.16 プロローグ加筆修正しました。


少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。


 深い微睡みの中からゆっくりと引き上げられた。彩斗は、うっすらと瞳を開き周りを見回す。

 どうやらここは森の中らしい。青々と茂る森林は、日本ではまず有り得ないだろうという程、深く美しい。


「ここがセシールか……」


 アヤノに授けられた知識で、この世界での情報は大体手に入れた。

 頭を整理する為にも簡潔にまとめよう。


 まず、彩斗のこの世界でのポジションは精霊術士。精霊の力が満ちるこの世界で、一番なりにくく地位が高い希少価値のあるポジションらしい。

 ついでにこの世界では大抵ポジションが職業になる。希少価値の高い精霊術士は働くのに融通が効くし、重宝される。

 今まで学生で、アルバイトくらいしかしたことのなかった彩斗にとって、初めての世界で安定した職業になれたことは僥倖ぎょうこうだろう。これで旅で仕事がなくて困るなんてことはない。

 流石にニートにはなりたくないしな。



 次にこの世界にある大陸だが、今いる《シリア》という広大な大陸ただ一つらしい。

 地球のように沢山あったりしないんだなと感心しながら、後はこの世界にある主要都市だ。

 シリアには全部で七つ街がある。一つは今飛ばされてきた風のたに《ミスティア》。他には、水のさざなみ《ナリア》、火のいただき《ファクト》、土のさと《アース》、光のしるべ《ラクア》、闇のくさび《ダスト》、時の彼方かなた《クロス》という具合に。


 使える精霊術は大体把握しているので問題はない。

 しかも驚きというかびっくりしたことなのだが、どうやら彩斗はこの分野で使えない術がないという、ハイスペック過ぎるスペックを持っていた。


「大精霊あり得ねえ。チートか俺……」


 一瞬黄昏てみたが、そんな場合ではない。問題は、ここが風の谷のどこかということだ。


 ついでにもう一つ言うと、何故か周りをふわふわ飛び回って俺に纏わりついている妖精みたいな半透明な羽根の生えた緑色の少女たち。この子たちはもしかして精霊か? 精霊なのか!?


 そういえば大精霊が司る場所は各都市にあるらしいのだが、場所が全くわからない。この旅は本当に大丈夫だろうか。

 取り敢えず持ち物を確認したら、携帯食料と地図とお金が大量に出て来た。


 そういえば貨幣の単価を教えていなかった。この世界の貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨と四つある。

 銅貨は日本で百円相当。銀貨は一万で、金貨は百万、白金貨は一億だ。

 つまり銅貨百枚で銀貨一枚分。銀貨百枚で金貨一枚分。金貨百枚で白金貨一枚分だ。

 そして、何故か俺の所持金白金貨二十枚に金貨百枚に銀貨と銅が数えるのも面倒くさい程沢山だ。

 この時点で彩斗は達観した。きっと元から金持ちだったんだと。

 ……ってそんなわけあるか!?


「あり得ねえ。寧ろこんな大金よりどっちに行けばいいのか教えろ!」


 やけっぱちで叫びながら、ちょっとドキドキしながら初めての精霊術を使う。

 それは闇の精霊術で、闇の中に異空間を作り物を無限にしまえる術だ。

 彩斗には流石にこの大金をそのまま持ち運ぶ勇気はなかった。野盗に襲われたら洒落にならない。

 こんな大金を丸腰の彩斗が持っていたら、襲って下さいと言ってるようなものだ。


 心配していた精霊術は、滞りなく使えた。安堵して一息吐く。それに周りの精霊(仮)が喜んで飛び回っている。


 基本精霊術は一体の精霊としか契約できない。精霊術とは契約した精霊から力を貰い行使するのだ。

 だから、彩斗のように、各属性全ての精霊と契約できる者はまずいないのだ。よくて、二属性まで。相性の問題もある。

 アヤノは確かに彩斗に必要な知識を与えた。……ただ、一般常識を抜かして。

 彩斗は知らない。彩斗は闇の精霊術“ダーク・ルーム”を使用した。無限の空間を作る術を無詠唱・・・で。

 この世界にそのようなことをできるものなど居ないのだ。無限の空間など魔力量で無理だし、無詠唱など初級精霊術でもできるかできないかだ。

 そんな非常識な行動が、彩斗は普通だと思ってしまっている。“ダーク・ルーム”が上級精霊術だと知っているのに。

 そして彩斗はそのまま座り込んでいても意味がないと立ち上がった。


「さて。ひとまず森を抜けますか……」


 ぶらりと散歩するように森を歩いていると、精霊たちがさざめいてこの先に行くのを止めようとした。

 意味がわからずそのまま歩いていると、目の前に大きな猪がいた。ぱちぱちと光っているのは雷だろうか。

 そこで漸くそれが魔獣と呼ばれる存在だと気付いた。


 遅蒔きながら周りにいる精霊たちは危険を知らせてくれていたのだと気付く。

 心配してくれたことにありがとうという気持ちを込めて微笑みかけると、精霊たちは嬉しそうに微笑んだ。だが、心配そうに見つめてくる精霊たちに、彩斗はため息を吐いて巨大猪もどきに向き直った。


 後に知ったことだが、この魔獣は巨浪きょろうというらしい。


 彩斗は腕をすっと前に出してぱちんと指を鳴らした。すると、巨浪が焔に包まれて一瞬で蒸発する。火の初級精霊術“ファイア・ボール”だ。

 因みに普通の精霊だと、火の玉が出てきて威嚇くらいにしか役に立たない術であることなど、彩斗が知る由もなかった。


 彩斗が術に成功し、無事に魔獣を倒したことを、精霊たちは喜びを全面に押し出して喜び飛んだ。


 なんとも複雑な気分になりながら、彩斗は渋い顔をした。

 敵とはいえ動物を殺すことに何の感情も湧かなかった。自分の適応力が果てしなく怖い。








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