第十一話
久しぶり過ぎて忘れられてそうです。
できれば最初からお読みいただけると嬉しいです。
またよろしくお願いします。
部屋を出て彩斗は廊下を歩き始める。
正直騒ぎになってしまったのは彩斗にとってマイナスだ。
彩斗は本来誰にも気付かれないように目立たず埋没するように使命を果たそうと思っていた。
何故ならばここで騒ぎを起こすことはいいことがなかったからだ。
そもそも目立ってどうなる。昔から嫌なことしかなかった。
今なら大精霊たちの加護があるからだと理由がわかる。視界にいつも入っていたものが精霊の存在だったのだろう。
でも、それは彩斗からしてみたら迷惑なものでしかなかった。いつも自分の周りには誰もいなくて。
孤独で苦しくて生きづらくて。そんな彩斗を支えていてくれた祖父母も死んだ。もう今更あの世界で生きていく意味などなかったからこちらに来たのに。
目立ちたくなんてない。目立った時点で彩斗はまた孤独になるのだ。それを知っているからこそ最後の一線を引きたかった。
でももうすでに遅かったのではないだろうか? もう実力はバレてしまった。
イアンはどう思っただろうか。この世界に来てから初めてできた友達なのにーー。
暗い思考に沈んでいると、不意に後ろから腕をぐいっと引かれて彩斗はバランスを崩した。
「おい、アヤトッ!」
「え? イアン?」
気付いてみればいつの間にかギルドの受付へと降りてきていた。
心配そうに彩斗の腕を掴んでいるイアンに、さっきから呼ばれてしまっていたのに無視してしまっていたことに気付いてバツが悪くなる。
多分心配してくれていたのだろう。それなのに無視してしまっていて申し訳なくて仕方なくなる。
「大丈夫か? 嫌なら無理に登録することないんだぞ」
「いや、ギルドに登録することが嫌なんじゃないんだ。ただ、ちょっと目立つことにいい思い出がなくて」
苦笑するとイアンは諦めたように溜息を吐く。何に呆れられたのかと顔から血の気が引いたのがわかった。
それに気付いたイアンが表情を歪めて彩斗をじっと見据えた。
「顔色悪いぞ。本当に大丈夫なんだろうな」
「うん。心配かけてごめん」
「心配かけることなんて気にするな。友達だろ。むしろ心配すらさせてくれないのか?」
イアンの言葉に彩斗は困惑した。
今まで避けられたことはあってもここまで心配されたことはない。だからそれがどんな想いなのかいまいちわからなかった。
でも、そこまで彩斗のことを気にかけてくれていることが嬉しくて、彩斗は少しだけ表情が緩んだ。
「そっか。ありがとな」
それを見ていたギルド内に居る女性がバタバタと倒れる。それに気付かないどころか興味もなさそうな彩斗に、イアンはちょっとだけ「こいつ大丈夫かな?」と思った。
「それよりスミスさんが待ってる。さっさとギルド登録しようぜ」
「そうだね」
そのまま受付カウンターまで歩いて行くと、待ち構えていたかのようにスミスが彩斗に笑い掛けた。
「こちらの紙に記入をお願いできますか?」
「はい」
彩斗は紙を受け取って書き込み始める。
そこには名前や年齢などの冒険者として必要な情報を記入するところがあった。文字は見たこともないものなのに、アカネから貰った知識から問題なく読めるし書ける。
むしろ日本語を書いているつもりなのに手が違う形に動くのがどうにもなれなくて変な感じだった。この感覚になれるにはまだまだ時間がかかるだろう。
そんなことを彩斗は思った。
「書けました」
「はい。それでは登録料の銀貨五枚頂けますか?」
「わかりました」
彩斗は何のけなしに虚空の〝ダーク・ルーム〟からお金を取り出す。そしてにっこりとスミスにお金を差し出した。
直ぐに受け取るだろうと思っていた彩斗は、スミスどころかイアンもギルド内に居た人間すべてが驚きに固まっているのに気付いて首を傾げる。
誰も何も発しようとしない。それが何かマズいことをしてしまっただろうかという意識を彩斗に植え付けた。
ドキドキしていると、今まで姿を消していた精霊たちが周りにふよふよと漂って彩斗を覗き込んでいた。
落ち込んでいる様子の彩斗を慰めたいのか、懸命に光り輝いて彩斗の周りを飛び回っている。
時々触れたところから感じる温かさに、彩斗の心が落ち着いてきたところで、まずスミスが我に返った。
「す、すみません。確かに受け取りました。それよりも、今の魔術は〝ダーク・ルーム〟とお見受けしますが……」
「はい。最近作ったんですけど便利ですよね」
何故周りが驚いているのかさっぱりわからない彩斗はにっこりとそう答えた。そこで周りも漸く我を取り戻してざわざわとざわめきだす。
「何、今の?」
「あれ、上級精霊術だろ? 凄い。流石タイグルオーガを倒しただけある」
「じゃあ倒したのは闇の精霊術なのかな?」
憶測が飛び交う中、漸く彩斗はやってしまったことに気がついた。
実力を隠そうと思っていたのにと後悔していると、イアンが慌てて彩斗に声を掛けてくる。
「アヤト。ギルドカードを受け取ったら話がある。それまでむやみに精霊術を使わないでくれないか?」
「あ、ああ」
このあと彩斗は知ることになる。彩斗の存在が、この世界ではどのような存在なのかを。
そして、彩斗に張り合えるものはいないほど凄まじい精霊術の使い手なのだということを--。