第40話 よくわからない話
……ここは。
アリスさんに連れてこられた先は、
どこか昔の都市みたいな場所だった。
古い高層ビル。
少し色あせたネオン。
夜なのに、静かで。
ああ、うん。
ここ、来たことはある。
メインストーリーの途中で。
確か――そうだ。
前に一度、
ストーリースキップしてるのが
バレそうになったことがあった。
あれ以来、
ちゃんと見るようにはしてる。
……してるけど。
こんなふうに、
立ち止まって眺めた記憶は、ない。
「綺麗でしょう?」
アリスさんが、少しだけ誇らしげに言う。
「私、ここが一番好きなの。
ちょっと嫌なことあったりすると、
すぐここに来るんだ」
「……本当に、綺麗ですね」
思ったより、
言葉が自然に出た。
「ストーリー進めるとき、
あんまりじっくり見てなくて……
高層ビルの夜景、っていう印象しかなくて」
「そっか」
「でも、こうして見ると……
全然、違いますね」
「俺さんにも気に入ってもらえて、よかった!」
その言葉が、
少しだけ胸に残る。
「お、俺も……
アリスさんに教えてもらえて、よかったです」
「ふふふ」
……笑われた。
でも、
変な意味じゃないのは分かる。
しばらく、
景色を見ながら歩いた。
PTチャットは、静かだ。
その沈黙を、
アリスさんが破る。
「ねえ、俺さん」
「は、はい」
「ちょっと……
すごく気になってることがあってね?」
心臓が、
少しだけ跳ねる。
「質問なんてしても、大丈夫?」
「え……あ、はい。
俺で答えられることなら……」
「うんうん。
そこは多分……大丈夫かな?w」
……不安が増えた。
「そ、そうなんですね……?
なんでしょう?」
「うん……
いきなりで不躾かもしれないんだけど」
少しだけ、間。
「さっきのお店、あるでしょう?」
「あ……はい」
「あのお店って、その……
こういう言い方も変なんだけどね」
「だって私も、
たまに行くからさ?」
「あ、そうなんですね……」
「人数多くて、
最初はびっくりしちゃいました。
ははは……」
……いや、
二回目もだけどな。
「だよね~。
最初はびっくりするよねw」
少し、安心した。
でも。
「それでね……その……」
言葉を選んでいるのが、分かる。
「俺さん、
まだ初心者っぽいし……
PTも初めてみたいだったからさ」
「……はい」
「誤解しないで聞いてほしいんだけど」
来た。
「普通、ああいうお店って……
結構、ゲームをやり込んだ人が
来る場所っていうか……」
ああ。
そういうことか。
初心者で。
PTも初めてで。
そんな俺が、
あそこにいるのは、おかしい。
疑われてる。
……まあ。
無理も、ない。
一度、息を吸う。
「アリスさん」
「うん?」
「その……
俺のこと、嫌いになるかもしれないですけど」
自分でも、
よく分からない前置きだ。
「聞いてもらっても、いいですか?」
「……いいの?」
「はい」
言葉が、少しだけ軽くなる。
「俺も……
この、よく分からない話を、
誰かに聞いてもらいたかったのかもしれなくて」
PTチャットの向こうで、
アリスさんが黙る。
「……」
もしかしたら。
最初から、
こうして話せばよかったのかもしれない。
……分からないけど。
夜の都市は、
何も言わずにそこにあった。
次に何が起きるかは、
まだ、分からない。
でも――
話し始めるには、
悪くない場所だと思った。




