第37話 壁際(二回目)
イメージトレーニングは完璧だ。
俺は、あの店の前に立っていた。
とりあえず壁際。
今日も、そこをベースにする。
無理に声を掛けるのは一旦やめよう。
まずは観察だ。
前回は、人の多さに圧倒された。
でも二度目だ。
さすがに、少しは免疫があるはず。
「よし、いくか」
俺は再び、魔境へと足を踏み入れた。
入りますか?
→ はい いいえ
はい。
……うん。
この前と、特に変わりはない。
「いらっしゃいませ、俺さん。ごゆっくりどうぞ」
相変わらず、感情のないマクロ挨拶が飛んでくる。
「こんばんは」
挨拶だけ返して、さらに進む。
ホールは、今日もほぼ満員に見えた。
「本当に、凄い人だな……」
誰に言うでもなく、呟く。
とりあえず、壁際へ。
壁の方へ行くと、何人も同じように背を預けて立っている人が見える。
とはいえ、この前ほど密集してはいない。
少しずつ、間隔が空いている。
俺は、一人分が入れそうな隙間に滑り込み、壁を背にした。
「こうやって端から見ると、また違って見えるもんだな」
さて。
ここで、話しかけられるのを待つか。
表示、表示っと……。
10分後。
誰からも、話しかけられない。
30分後。
やっぱり、誰からも話しかけられない。
1時間後。
当然のように、話しかけられない。
……俺、何をやってるんだろう。
やっぱり、自分から声を掛けないとダメなのか?
不安が、胸の奥をよぎる。
周りを、ちらっと確認する。
いつの間にか、ペアになって話し込んでいる人たちが増えていた。
一体、どんな魔法を使ってるんだ……。
いや。
ただ話しかけてるだけ....なんだろうな。
どうやって声を掛けているのか、少し覗いてみたい衝動に駆られる。
……それにしても。
どんどん、人が増えていく。
でも――
よく見ると、話していない人の方が多くないか?
確かに、ペアで話している人はいる。
けれど、全体で見れば少数だ。
圧倒的に、壁際で立っているだけの人の方が多い。
……意外と。
皆、俺と同じなのかもしれない。
話しかけられ待ち。
そう考えると――
「……これ、意外といけるんじゃないか?」
もし、待ちが多いなら。
こっちから声を掛ければ、会話が始まる可能性はある。
うん。
あるな。
何せここは、会話を目的に来ている人たちが集まる場所だ。
表示を出している人なら、なおさら。
――ならば。
ここは、声を掛けるしかない。
そう、思った。




