第33話 案内
呼び止められた。
でも、不思議と――
嫌な感じはしなかった。
さっき聞いたような、
男女のそれ、という空気じゃない。
もっと、こう……
人として話したい、そんな温度。
「はい。俺も……
このまま落ちるには、少し早いかなって」
自分でも意外な返事だった。
「よかったわ」
エリーさんは、少し安心したように言ってから、
「じゃあ、お店の外に出て、少しお話しましょうか?」
「……わかりました」
二人で、店の外に出る。
ゲーム内は、夜だった。
セレブ地区の家々に、
ぽつぽつと灯りが入っている。
「ほら、あそこにベンチがあるの」
「へえ……こんな場所、あったんですね」
移動中、会話はなかった。
不思議と、気まずくはない。
ベンチに腰掛ける。
距離は、店のソファーの時と同じくらい。
……今度は、ちゃんとエリーさんをタゲる。
雰囲気は、悪くない。
でも、外だからか、
さっきより少しだけ、緊張する。
この感じ...伝承で聞いたことがある…
お持ち帰り(やめておけ)
……いや、違う。
何を考えてるんだ俺は。
「ごめんね、俺さん。
急に、話したいなんて言って」
「いえ。俺も……
このまま落ちるのは、なんとなく、と思ってたので」
「実はね。
お店の話なの」
「……え?」
「さっき出てきた、マスターのお店あったでしょう?」
「あそこはね……
何て言えばいいのかしら」
少し考えてから、
「まだ、マシな方なの」
「……マシ、ですか?」
「言い方が良くなかったわね.....」
苦笑してから、続ける。
「でもね。
フレンド募集とか、相方募集のお店って、他にもたくさんあるの」
「で、そのお店ごとに……
ルールも、空気も、全然違うのよ」
なるほど。
「だからね」
エリーさんは、俺を見る。
「もし、俺さんがよかったら……
もう一つ、別のお店も見てみない?」
……ああ。
これは、誘いじゃない。
案内だ。
俺が初心者だから。
何も知らないまま、変な所に迷い込まないように。
そういう配慮――
なのかもしれない。
断定は、できないけど。
でも。
「はい」
答えは、自然に出ていた。
「エリーさんのお勧めのお店、
行ってみたいです」
「ありがとう」
少し、嬉しそうに言ってから、
「じゃあ、先にルールだけ伝えるね」
「そのお店ではね……
挨拶は別だけど、一般チャットは禁止なの」
「個別チャットで、会話する感じね」
一般チャット禁止。
そんな店が、あるのか。
「……わかりました」
俺は、頷いた。
俺のMMO人生は――
また一つ、知らない場所に、足を踏み入れようとしていた。
正直。
どうなるのかは、
まったく、わからない。




