第31話 空気の正体
突然、空気が変わった気がした。
なんだろう。
既視感があるのに、少し違う。
前にも似たような場面はあった。
でも、これは――
「もっと現実的な話」をされる時の空気だ。
「もちろんね、フレンド作りに来てる人もいるわ」
エリーさんは、ゆっくり言葉を選ぶように続ける。
「でもね……こういうお店はね……
相方を求めてる人が多いの」
……多い、か。
「ううん。誤魔化さずに言うわね」
一瞬、間が空く。
「多い、というより……
ほとんど、そうだと思っていいわ」
……言葉が出ない。
いや、でも?
店の募集文にも「フレンド or 相方」って書いてある。
なら、何も間違ってない。
むしろ、別の目的で来てる人の方が少数派じゃないのか?
そう思った――瞬間。
「ごめんなさいね。
急にこんな話して……」
エリーさんが、少し申し訳なさそうに微笑む。
「でも、これはちゃんと伝えておかないといけないと思って」
……どうしてだ?
エリーさんが謝る必要なんて、どこに――
「こういうお店はね」
言葉が、はっきりした。
「男女の“出会い”の場なの」
……うん?
相方作りなんだから、
男女の出会いは間違いじゃない。
何か、まだ噛み合ってない。
「まだピンと来てない顔ね」
エリーさんは、俺の表情を見て小さく息を吐いた。
「じゃあ、言葉を濁さずに言うわ」
少し、声が落ちる。
「このお店で個別チャットしてる人、たくさんいるでしょ?」
「はい……」
「でもね、その先があるの」
……先?
「ゲーム外の通話ツールに移って、
ボイスチャットで話したり、
個別でずっとやり取りしたり」
嫌な予感が、背中をなぞる。
「でね……」
「その……大人向けな感じの、やり取りになることも多いの」
――――――
頭の中で、雷が落ちた。
……え?
大人向け?
いや、流石にわかる。
なんとなく聞いたこともある。
大人向け。
VCでの、そういうやつ。
でも――
「えっと、それって、その……」
声が、少し裏返った。
「ゲームの中、ですよね……?」
エリーさんは、否定しなかった。
「始まりは、ゲーム内よ」
「でも、境目はすごく曖昧」
「気づいたら、
“ゲーム”じゃなくなってることも多いの」
……ああ。
やっと、分かった。
フレンドか、相方か。
そんな分類の話じゃない。
これは――
距離の話だ。
「だからね」
エリーさんは、穏やかに言った。
「もし俺くんが、
“普通に一緒に遊ぶ人”を探してるなら……」
少しだけ、言いにくそうに。
「この場所は、ちょっと向いてないかもしれない」
……胸の奥が、静かに沈む。
なるほど。
あの違和感。
あの視線。
あの、妙な距離の詰め方。
全部、繋がった。
「……教えてくれて、ありがとうございます」
それしか、言えなかった。
エリーさんは、ほっとしたように笑った。
「変な意味じゃないのよ?」
「ここで幸せになった人も、ちゃんといる」
「ただ……」
少しだけ、目が真剣になる。
「知らずに踏み込むと、
傷つく人も多いの」
……俺は、静かに頷いた。
この場所は、
フレンドを作る場所じゃない。
少なくとも――
俺が思ってた意味では。




