第29話 暗黙のマナー
「よ、よろしくお願いします!」
「カウンターは雑談する場所だから、奥のソファー席でもいいかしら?」
「え?あ、はい!」
「ふふ、じゃあこっちへね?」
なんだろう……。
既に何て言うか……
怪しいじゃなくて妖しい……。
飲み込まれるな俺!
落ち着け、落ち着け!
エリーさんに奥へ案内されると、そこには高級そうなソファーとテーブルが置かれていた。
そういえば、いつもカウンターの隅、俺の定位置に座ってたからあまり気にしてなかったが、
このお店、結構奥行きあったんだな……。
「この席でいいかしら?」
「はい!」
そう言うと、エリーさんがソファーに座る。
あれ?
いや、どこに座るべき?
ソファーひとつ、テーブルひとつ……。
うん?
まさかのテーブル?
いや落ち着け、そんなわけがない!
いや、まさかエリーさんの隣に座る?
いやいやいやいや、とは言えそれ以外には……。
うん、でもちょっと間開けて座ろう……。
ディスタンス大事だからな!
俺は、ソファーの一番端に座った。
「ふふ、ちょっと距離が遠いわね?」
そう言いながら、エリーさんが俺の隣に移動して座る……。
いや、自然だな?
椅子って、こんなに自然に座れたっけ……。
違う!
そうじゃない!
隣!?
いや、距離ちかっ!
こんなご褒美――
(やめておけ)
落ち着け、冷静になれ俺。
エリーさんは単に、マスターに言われて練習相手になってくれてるだけだ。
自惚れるんじゃない!
「この方が話に集中出来るでしょ?」
流石……。
この人はあれや……プロや……。
大人のプロや……。
「はい、確かに……」
「それでね? 俺君にちょっとお願いしたいことがあるの」
「え? あ、はい? なんでしょうか?」
「うん、このお店ではね、二人で話するときは個別チャットなの……」
そうだった!
ルールを完全に忘れてた!
『良い人がいたら個別チャットで』
なんで今まで忘れてた俺!
ピロン
うぉ!
心臓止まるな毎回!
個別チャット:エリー
「だからこっちでお話しましょうね?」
あかーん!
これはあかーん!
いや、あかんくない!
最高だ!
このゲーム、どこまででもいけるんじゃないか?
(混乱)
いや、返事!
個別チャット俺
「はい、よろしくお願いします!」
「うんうん、改めてよろしくね?」
「それでね、お願いばっかり言って悪いのだけど……
もう一つお願い聞いて貰っていいかな?」
「え? はい? そりゃもうなんでも!」
なんでもじゃないだろ俺……。
これはあかん、舞いがっとる……。
しかし止めれん……。
「実はね? ルールって訳じゃないのだけど、
こうやって二人で話する場合はね?
相手をタゲるのがマナーなの……」
「あ! そうなんですね!
すみません、よくわかってなくて……。
じゃあエリーさんをタゲらせてもらいますね!」
「うんうん、お願いね~」
そう言って、俺はエリーさんをタゲった。
え?
そこには……
見つめ合う俺とエリーさんが居た。
このゲーム、
俺の理性を吹き飛ばしに来てるのかもしれない。




