第28話 称号ゲスキング
「店長、こんばんは。お久しぶりです」
また一人、客が入ってきた。
雰囲気的に……常連っぽい。
「やあエリーさん、いらっしゃい」
ん?
名前呼び?
マスターが客の名前を呼ぶの、初めて見た気がする。
親しいフレンドか何かだろうか。
……いや、ゲスいな俺。
こういう店だからって、すぐそういう方向に結び付けるな。
「随分と御無沙汰だったね。忙しかったのかな?」
「うーん、ちょっとね」
「ははは。まあ色々あるからね。今日はゆっくりしていってよ」
会話が、やけに滑らかだ。
清流に流れる葉っぱみたいに、引っかかりが一切ない。
それにマスターも、踏み込まない。
この距離感……大人すぎないか?
いや、レベル高すぎだろ。
これで個別チャット前提って、ハードル高すぎない?
実はみんな、
こんな高度(というか普通)な会話を個別でやってるのか?
……あ。
今、気付いた。
このゲーム、
相手をタゲると、自然にその方向を向く。
つまり――
キャラ同士が向き合って話してるように見える。
個別チャットじゃなくても、だ。
……やばくないか、この仕様。
要するに、見つめ合
うん。
(ゲスゲスゲスゲス)
いけない変な笑い声がでそうになった。
落ち着け。
ただ話してるだけだ。
このままだと、
称号「ゲスキング」が付与されそうだぞ。
「そうだエリーさん、今日は時間あるのかい?」
「うん。今日は時間あるし、これからも、いつも通り来れそうだから大丈夫だよ」
「よかった。実はね、エリーさんにちょっと頼みたいことがあって」
「何かしら? マスターが私に頼みなんて、珍しいわね?」
「ああ、いやね。実はそこに座ってる俺君がさ、
うちみたいな店、初めてらしくてね」
……は?
「ああ、そうなのね?
わかったわ。私に練習台になれって言うんでしょ?w」
「ははは。練習台とは言わないけどね。
初めてって、なかなか緊張するから。頼めるかい?」
ちょっと待て待て待て待て!
俺、
俺抜きで話が進んでるんだが!?
いや、内容的にはその通りだけど!
その通りすぎるけど!
きついって!
きついって!
心の準備ってもんがあるだろ!
しかも流れが自然!
強引じゃないのに、この圧!
こんなこと、ある?
「どうかな、俺君?」
確認が遅いってぇぇぇぇ!
確認するのはもっと前!
だいぶ前!
あなた出来る人のはずでしょ!?
「え、あ……はい。お願いします」
言っちゃった。
いや、言うしかないだろ!
こんな千載一遇のチャンス、他にあるか?
……ない。
断じてない。
「ふふ。じゃあ今日は、よろしくお願いしますね。俺さん」
――何故だか。
いい香りがした、
気がした。
……しただけだ。
うん。
称号ゲスキング、
まだ保留で頼む。




