第26話 正解のレール
ふぅ……。
落ち着け。とりあえず整理しろ。
マスターは俺のことを覚えている。
どうにもならないことは考えるな。――あれは過去だ。
盾を構えて店に侵入。
今思えば、ただの迷惑プレイヤーだ。
まあ、そこはもう仕方ない。
問題は現状。
認識阻害は切れてるけど、ちゃんと街用のおしゃれ装備。
武器も盾も持ってない。
……そうだよ。
今の俺、別に何も悪いことしてない。
つまり、堂々としてればいい。
何か言われる筋合いは――
「その節は大変、申し訳ございませんでした……」
……無理だった。
現在が白だからって、過去の履歴が消えるわけじゃない。
調子乗るなよ、俺。
「とりあえず俺君でいいかな?」
声に顔を上げると、マスターはすでに奥に立っていた。
怒ってる感じでも、優しい感じでもない。
なんだろう、淡々としてる。
「そんな入口に立ってないで、座った座った。
今ちょうど開けたとこだから誰もいないし、カウンターでいいよ」
カウンター。
店の主役席。
初心者の俺が座っていい場所じゃない。
……とは思うけど、他に客もいない。
正直、ちょっと興味もある。
正面はさすがに気が引けて、端の方に腰を下ろした。
近っ。
マスターとの距離も近いし、店の中もよく見える。
派手じゃない。
でも照明はちょうどよくて、置いてある物も安っぽくない。
なんていうか……渋い? クール?
いい店って感じがする。
……俺、完全に場違いでは?
「改めて、いらっしゃいませ。俺君」
その言い方で分かった。
ここでは俺、ちゃんと“客”扱いらしい。
「当店はね、フレンドや相方作りをお手伝いするお店です」
……は?
そんな場所、聞いたことない。
掲示板の記憶が(やめておけ)
いや、まだ早い。話を聞こう。
「だから最初にルール説明ね」
来た。
こういう店で、ルールが軽いわけがない。
「この店では、中身が男性か女性かを示す
“識別表示”を出してもらってるんだ」
……あ。
心臓が一拍遅れる。
「表示があるってことは、
“個別チャットで話してもいい”って意思表示でもある」
嫌な記憶が、妙に鮮明に戻ってくる。
「気になる人がいたら、一般チャットでの声かけはナシ。
直接個別チャットでお願いしてる」
理解した瞬間、妙に納得してしまった。
正解だ。
これは……正解のレールだ。
どうせ遊ぶなら、
野郎より女の子の方がいいよな。……うん。
……いや、俺また考え方、変な方向に寄ってないか?
でも、この店はそれを否定しない。
いい場所かは分からない。
安全とも言えない。
それでも――
目を逸らせないのは、確かだった。




