第25話 忘れられない客
ファーストスラッシュ!
その瞬間、モンスターは消えてなくなった。
「……ふぅ」
これで三十体目。
日課のクエストが、ようやく終わった。
あちこち移動させられるし、地味にマネも時間もかかる。
正直、結構疲れる。
少し休もうと思い、近くの岩に腰を下ろした。
――それでも、頭の片隅に残っている。
あの時の言葉。
数日経った今でも、意味がよくわからない。
理解する必要、あるんだろうか。
そう思わなくもない。
でも……先のことを考えると。
理解できないままじゃ、雑談にすら入れない気がした。
そもそもだ。
仮に理解していたとして、店長やにゃっこさんの会話に入れたか?
――無理だな。
会話って、どうやってやるんだ?
挨拶、本文、挨拶。
たぶん、それで成り立ってる。
挨拶はいい。「こんにちは」「さようなら」。
問題は本文だ。
ゲームの中なんだから、ゲームの話題を振る。
それが正解なはずだ。
A姉さんの時は、確か――
(やめておけ)
……まただ。
最近、こんな感じが増えてきた。
危険度レベルマックスさん、ってやつだろうか。
深掘りはしないでおこう。
気晴らしに、パーティ募集を眺める。
……ん?
見覚えのある募集が目に入った。
【フレンド・相方作りにどうぞ】
最初に行った、あのBARだ。
あれから時間も経った。
認識阻害のおしゃれ装備もある。
行くだけ、行ってみるか。
ここで座ってても、何も始まらない。
――よし。
店の前に立つ。
思えば俺も、少しは成長したか?
入りますか?
→ はい
いいえ
もちろん「はい」だ。
中は相変わらず暗い。
……よし、認識阻害は効いてる。
これなら大丈夫だ。
奥の部屋は、ここより明るかったはず――
しまっ――
「いらっしゃい。好きな席に……ん?
君は確か……」
……神様。
数日前に一回来ただけの俺を覚えてるとか、ありますか。
終わった。
認識阻害とか関係ない。
この人の脳内に、キャラ名が保存されてる。
もう……
この人を――
(やめておけ)
……落ち着け。
まだ確定じゃない。
「この前……来て、すぐにいなくなった人かな?」
確定やん。
いや、確認は大事だ。
指さし確認は基本。
「あの……俺のこと、覚えてるんですか……?」
マスターは笑った。
「そりゃ忘れられないよ。
盾構えて店に来た人は、君が初めてだからね」
――終わってる。
消えたい。
キャラデ(やめておけ)
……そうだな。
消したところで、何も始まらない。
「うちも長く店やってるけどね。
武器構えてくる人は珍しくない。
でも盾は流石にびっくりしたよ」
その通りだ。
俺、なんで武器じゃなくて盾だったんだ。
逃げ腰にも程がある。
……もう、これ以上逃げる選択肢はない。
消えそうなほど小さな勇気と、残りカスみたいな気力で。
俺は、その場に立ち尽くすことしかできなかった。




