第24話 座るには、まだ早い
「にゃっこさん、最近忙しかったのねぇ~。
あー、もしかして“あれ”行ってた?」
「そうなの!エラビスの第一ホールなんだけどさ」
「あー、やっぱり!実はまだ行けてないのよ~。どんな感じ?」
「ヤバイよ!ロール固定で、バッシュ・ノック・バッシュな感じでさ。
それが十秒ごとに来るから、スタンとパリィとラインを交互に――」
……ん?
「――じゃないとデス・リーン飛んでくるでしょ?
でもさ、ホールがレイズだと、みんなパインしちゃってさ~」
……。
日本語が、
わからない。
いや、待て。
落ち着け、俺。
深呼吸や。
スーハースーハー。
あの二人は、ただ楽しそうに会話してるだけや。
ここは休憩の場。
焦る必要なんて、ない。
……カップが揺れてる。
いや、違う。
俺の手が震えてるだけや。
そもそも――
俺、カップ持ってへんやん。(混乱)
待て待て。
日常会話や。
一回、目を閉じて……整理しよう。
…………。
うん。
知ってた。
まったく、わからん。
でも。
店長は、ちゃんと理解してるみたいだ。
相槌も、返しも自然だ。
……すごいな。
にゃっこさん、海外の人なんやろか?
いや、挨拶は普通に翻訳されてた。
日本語で間違いない。
それに、意味不明な部分以外は、ちゃんと日本語や。
よく見たら、象形文字みたいに見えた単語も、全部カタカナだし。
……なのに。
わからん。
しかも、会話が続くにつれて、
どんどん長文化していく。
何が何だか、余計にわからなくなる。
……いや、待て。
ここはゲーム内のカフェだ。
ゲーム内のカフェで、店長と常連客が、
ゲームの攻略話をしてるだけ。
つまり。
これは――
俺が、初心者すぎるってだけの話だ。
……はは。
そうか。
「まだ早いぞ」ってことか。
休憩所は。
走って、走って、走った先に、
ようやく座れる場所。
なるほどな。
道理や。
よく考えたら、
ここまで言葉が通じへんのは、さすがに異常や。
今まで、ずっとソロでやってきた。
専門用語も、ロールも、何も気にしてこなかった。
……意外と。
一人って、気楽なんかもしれんな。
――あかん。
そっちは、闇のゾーンや。
導かれるな。
そもそもや。
ログインして、
店探して、
何もしてないのに休憩しようとしてる。
これ、順番おかしいやろ。
クエストして、疲れて、
それで「ちょっと休憩するか」が正ルートや。
何もしてないのに休憩しようとした俺が、
全面的にアホ。
こうしてられん。
せめて、今日の日課クエストくらいは行かないと。
……よし。
そうと決まれば、出よう。
――ハッ。
……あれ?
店って。
入ることばっかり考えてたけど……
どうやって出るんや?
合言葉とかいるんか?
いや、初めての店でそれはない。
……まさか。
最初にもらったコーヒーが鍵?
いやいや、もう飲んだぞ。
店長、もう一杯!
……ちゃうわ。
どうしたら――
「店長、ありがとう! お暇しますね~」
「あ、B子ちゃん、ありがとうね!
またゆっくりしにきて~」
「はーい、またきまーす!」
……。
なるほど。
ああいう感じか。
スムーズ。自然。完璧。
……でも。
今の、B子さんのセリフ。
そのままコピペするのは、さすがに気まずないか?
店長に
「こいつ、B子ちゃんの真似してるな」
とか思われたら、死ねる。
……少し、改良しよう。
俺は、意を決して立ち上がる。
スムーズに。
自然に。
「ありがとうございました。
また、来ますね」
「はーい、ありがとうね!」
<店長がお辞儀しました>
……!
エモート!
しまった。
言葉にばっかり気がいって、完全に忘れてた。
エモート、どこや!?
あるのは知ってる。
でも、使ったことない。
そりゃそうや。
一人やもん。
使う相手、いなかったし。
……あかん。
焦る。
エモートが見つからん。
これは――
撤退や!
俺は、そのまま、そっと店を後にした。
休憩所は、
まだ少し、早かったみたいだ。
——でも。
次に来るときは、
あの会話が“日本語”に近く聞こえるくらいには、
ちゃんとプレイしてからにしよう。




