第20話 座れ、と言われただけなのに
俺は、BARがあるというハウス地区に来ていた。
ここはプレイヤーが購入できるハウスが並ぶエリアで、
大きいものから小さいものまで様々だ。
……が。
値段が、普通におかしい。
数百万マネ。
数千万マネ。
運営、どないなってますの?
俺の全財産、10万マネやで?
つまりここは――
リアルで言うところの、セレブ地区である。
「あ……あそこか?」
外観は、意外と小さい。
むしろ、周りのハウスの方が大きいくらいだ。
庭も、ほぼ何もない。
……なるほど。
中に入らんと、分からんタイプか。
本当は遠くから観察する予定だった。
だったのだが――
「ビビるな俺! 行くしかないんや!」
謎の使命感が、俺を突き動かした。
正直、どのダンジョンより緊張する。
……あれだな。
こういう時は、おしゃれ装備より鎧や。
よし、防具チェンジ。
ついでに、普段持ってない盾も装備しとこ。
「……いくで」
――入口、ここか。
『入りますか?
→ はい いいえ』
はい。ポチ
あれ?
結構、薄暗いな……なんでや?
間違えた? そもそも、何もないぞ???
どういうことだ?
一般チャット
「それでさ〜、マスター」
……え?
一般チャットが聞こえるってことは、確かに店ではあるんだろうけど――
誰も見えない。声だけだ。
一旦、外に出るか?
入口、他にもあるんか?
おかしいな……。
一回外に出たが、間違いなくここだ。
もう一回入ってみる。
……やっぱり、暗いだけの部屋。
――うぉっ!?
急に人が前に……いや?
これ……部屋、一つじゃないのか?
奥から誰か出てきた。
この人は……?
……あ、外へ出て行った。
なるほど、俺と同じ客が帰っていっただけか。
つまり……
あの奥、だな。
いくで……(盾を構える)
え?
急に明るい?
いや、真っ暗じゃない。
むしろ心地ええ薄暗さ。
ちゃんと照明もある。
カウンターと、テーブル席。
カウンターの奥に、男が一人立っている。
「いらっしゃい。俺さん、好きな席へどうぞ」
――え?
やばい!認識された!
ど、ど、ど、どうすればええんや!?
ちゃう、落ち着け。
日本語を訳せ(混乱)。
とりあえず……
席に座れ、ってことだな?
どこだ……?
テーブル席? カウンター席?
え?
そもそも「席」って何?
座ったらどうなる?
マネ、取られる?
システム、何もわからんのだが?
いきなり「座れ」は、会話として成立しとるんか……?
……というか。
声かけてくれた人以外にも、
よく見たら……四人くらいおるな?
え?
殺される?
あかん。
一旦、撤退や!
頭の中のアラートが鳴り止まん。
これは何をしてもダメな気がする。
――走って逃げるで!
今思えば……
声をかけてくれたのに、完全無視でダッシュ逃走。
プレイヤーとしても、人としてもアウトな
『超絶失礼ムーブ』をかました、
黒歴史の一幕であった。




